「新型肺炎」拡大で日経平均2万3000円割れ、株式市場の混乱はいつ収束?

新型肺炎の感染拡大への懸念から、グローバルの株式市場ではリスクオフの動きが強まっています。

米国ではNYダウが1月17日に付けた高値から2週間で1,000ドル以上値下がりし、日本も同じ期間で日経平均株価は1,000円ほど下落しました。さらに震源地の中国では、春節休暇空けの2月3日の取引で上海総合株価指数が9%近く下落して始まり、市場参加者のリスク回避姿勢が鮮明になっています。

世界の主要株式市場では、年初の中東情勢の混乱を乗り越え、株価は順調に値を戻していましたが、急ピッチな株価上昇に警戒感が出始める中での悪材料の出現により、株式市場では利益確定の売却行動が促された形です。当面は感染拡大のペースと経済的なダメージの広がりを見極めながらの、慎重な投資行動が求められそうです。


今こそ見極めたい10~12月期決算の動向

一般に、この時期における感染症は気候との関連性が強いと見られ、「暖かくなれば自然に収まる」といった楽観的な見方があることも事実です。確かにその可能性は十分にあるとは思いますが、春を迎えるまでにはまだかなりの時間があり、それまでにさらに株価調整が進んでしまうリスクも否定できません。今はとにかく、一刻も早く感染の拡大が収まることを願うばかりです。

感染症という見えない敵との闘いを乗り切った後の株式市場で拠りどころとなるのは、やはり着実なファンダメンタルズの改善ということになるでしょう。それを占ううえでは、まず足元で佳境を向かえる企業決算に注目したいところです。

今回の決算発表で明らかになるのは、2019年10~12月期のものであるため、米中貿易合意の前の期間に相当します。したがって、当該四半期の実績には過度な期待は禁物。ポイントとなるのは、企業側の先行き見通しにどの程度、明るさが戻るかという点です。

もちろん、この点に関しても今後、新型肺炎の影響がどの程度まで及ぶかを見極める必要があります。しかし、ベースにある業績回復のシナリオの強固さを確認するうえでは、決算の分析・評価が重要であることには変わりません。決算の結果次第では、今後の展開が大きく変わりうるため、注意が必要です。

昨秋以降の世界的な株価回復は、米国株主導で繰り広げられてきたことは紛れもない事実であり、2020年も米国株がグローバル株式市場で主役を担うであろうとの見方に異論はありません。しかし、比較的短期間での株価上昇によって、米国株の予想PER(株価収益率)も相応に切り上がりました。足元の混乱を乗り越えた後の展開として、日本株のような出遅れた市場にグローバルの投資マネーが向かう可能性もあります。

米国の株高継続のカギを握るのは?

中東の地政学リスクを乗り越えた後の株価上昇によって、足元の米国株(S&P500ベース)の予想PER(12ヵ月先予想ベース)は18倍を優に超え、一時は19倍に迫る場面もありました。直近の株価下落で予想PERは多少切り下がったものの、それでも18倍台をキープしているのが現状です。

米国株にとって、18倍を超える予想PERは2018年2月の株価急落の直前に見られた水準であり、当時の記憶がオーバーラップする面は否めません。ただ、それでもただちに米国株が割高とはいえない理由は、当時と比べて金利水準が低く抑え込まれている点にあります。

すなわち、2%を割り込む長期金利が、高めのバリュエーション(株式価値評価)を正当化しているのです。低金利環境がもたらす業績回復への期待が、予想PERの押し上げにつながっていると解釈できます。このようなバランスを維持するためには、当然のことながら、期待に沿った形での業績が求められることになります。

金融情報会社リフィニティブの調べによると、S&P500ベースで見た2019年10~12月期の予想増益率(前年同期比)は、1月31日時点で+1.1%となっています。前回の7~9月期の決算は13四半期ぶりの減益となりましたが、今回は最終的に増益が確保される見通しです。それよりも重要なのは、今回の決算発表が2020年通期の業績予想にどのような変化を与えるかです。

直近の市場予想で2020年通期の増益率は2019年比で+9.2%となっており、この見方が大きく崩れないことが今後の米国株強気シナリオの前提となります。今回の決算発表を分析・評価していくうえで、あくまで実績よりも先行きに対する見通しを重視したいところです。

また、今年の米国政治の最大の目玉となる大統領選は、2月3日のアイオワ州の党員集会を皮切りに、予備選が本格化します。最大のヤマ場となる3月3日の「スーパーチューズデー」を経て、民主党候補が絞り込まれる見通しです。

その対立候補が、現職のドナルド・トランプ大統領をどの程度、脅かす存在となるか、注目です。民主党候補者の中には株式市場が歓迎しない増税や規制強化を主張する人物も含まれるため、注意を要します。

欧州株は真価を問われる局面に

英国では、12月の総選挙で与党・保守党が勝利した結果、1月末でのEU(欧州連合)離脱がついに実現しました。ある種の不透明感の排除が、市場での安心感の高まりにつながっている可能性があります。

しかし、離脱後の英国が直面する課題は決して容易なものではありません。EU側を巻き込んだ政治の不安定化が欧州全体の経済の混乱につながるリスクは、依然としてくすぶっているように思えます。

また、欧州経済の回復のカギを握る外需は、米中通商問題の一服によって、今後回復が見込まれるものの、その一方で進む通貨高が向かい風となる可能性もあります。

1月に欧州株は一時、軒並み最高値圏まで上昇しましたが、さらなる上値を追うためには、やはり市場参加者の期待に即した実績・結果を示していく必要があります。現時点ではまだ、欧州株がグローバル株式市場をリードしていけるだけの条件は整っていないように思えます。

中国は適切な政策対応が焦点

直近で発表されたIMF(国際通貨基金)の世界経済見通しでは、2020年のグローバル経済について、顕著な改善は示されず、引き続き慎重な見方が示されました。米中貿易問題はひとまず第1段階の合意に至ったものの、その後遺症がしばらく残るという考え方が背景にあるようです。

直近の見通しでは、先進国、新興途上国ともに下方修正となっていますが、後者についてはインド経済の下振れの要素が大きいようです。一方、中国の見通しは上方修正されており、そこから読み取れるのは中国経済が最悪期を脱して快方に向かうことへの期待です。

2020年は中国にとって第13次5ヵ年計画の最終年にあたり、いろいろな意味で節目の年となります。中国政府が景気浮揚に力を入れてくる姿が容易に想像でき、中国経済への不安は後退していくことが期待されます。

中国経済の復調は日本も含めた周辺国にも波及し、中国以外の経済・金融市場にポジティブな作用をもたらすと考えられます。これまで株価パフォーマンスで出遅れたエマージング株に、挽回のチャンスが巡ってくる可能性もあるでしょう。

とはいえ、足元では新型肺炎の感染とそれに伴う経済的なダメージが、どこまで広がりを見せるかが非常に気がかりです。震源地の中国はSARSが流行した2002~2003年当時よりも経済規模は大幅に拡大しており、周辺国への影響も無視できません。

中国自身も足元の経済が冷え込むことは必至な情勢で、1~3月期の成長率が4%台に低下するとの見方もあります。中国を含めたエマージング株に対しては、当面は最大限の注意を払いつつ、慎重姿勢を保持することが賢明といえるでしょう。

相対的な割安感が拡大する日経平均

年初の波乱に出鼻をくじかれた日本株ですが、その後の巻き返しによって、日経平均株価は一時2万4,000円台を回復しました。その後は新型肺炎拡大への懸念から売られ、2万3,000円を割り込んだ状態にあります。

日本と中国は地理的に近く、経済的な結び付きも強いため、具体的な影響が明らかになるまでは不安定な相場が続く可能性もあります。本来ならば、2020年度の業績が2ケタ増益を狙えるところまで回復する見込みにありましたが、今後は修正を余儀なくされることもあり得るでしょう。

ただ、そもそも日本株は株価パフォーマンスで他市場に見劣りする状況が続いており、株価調整局面では日本株の割安感が浮かび上がります。日本株(TOPIXベース)の予想PERは14倍を割り込み、18倍台をキープする米国株PERとの格差は4.5ポイント前後に広がっています。

この開きは、2016年11月にトランプ相場が始まって以降の上限に近い水準です。市場が再び正常さを取り戻した後は、米国株よりも相対的に割安な日本株への選好が強まる可能性もあります。

波乱の展開で幕を開けた2020年ですが、海外投資家の中には“日本株を持たざるリスク”を意識する向きも増えそうで、日本株にとってポテンシャルの高い年であるとの位置づけは変わりません。

<文:投資情報部 チーフ・グローバル・ストラテジスト 壁谷洋和>

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