『四月の永い夢』『わたしは光をにぎっている』などの俊英・中川龍太郎の新作だ。彼にとって初となる原作もので、『羊と鋼の森』で知られる宮下奈都の同名小説を基に、片足の不自由な青年と事故で記憶が一日しかもたなくなった女性の恋を描く。
とはいえ、二人が抱えるハンディキャップは、誰にでもある欠点やコンプレックスを分かりやすくデフォルメした設定に過ぎず、ここで描かれるのは普通のカップルの日常の機微である。中川監督は、朝が来て、働いて、少しずつ愛を育み、夜になって一日が終わるという繰り返しを、丹念に描写する。その“繰り返し”が、日常の小さな変化を大きく際立たせるのだ。小津安二郎の映画のように。
ただし、スタイルという点では小津というよりも溝口健二的で、長回し撮影が基調になっている。特に注目してほしいのは、ベンチや縁側、道、土手などで会話する際の二人のポジション。ここでは二人が横に並ぶシチュエーションが何度も繰り返される。二人は向かい合っている時よりも、横に並んでいる時の方が明らかに幸せそうに見える。だから、それを生かすために選択された長回しなのだ。とりわけ、土手に並んで座るカップルを夜明けの光が包む静かなラブシーンは秀逸で、我々観客までも幸福感で満たしてくれる。声高な作品ではないけれど、たくさんの人に観てほしい珠玉の恋愛映画だ。★★★★★(外山真也)
監督:中川龍太郎
原作:宮下奈都
出演:仲野太賀、衛藤美彩
2月7日(金)から全国順次公開