プロレスラーになりたくて養護施設を逃げ出したダウン症の青年ザックと、兄を亡くし他人の収穫をくすねて生きる漁師タイラー。本来は接点のないはずの男同士が行動を共にする中で育まれる友情物語だ。それがダウン症と心に傷を抱えた男のロードムービーとなると、どうしたってジャコ・ヴァン・ドルマルの『八日目』を思い出す。だからあえて比較した方が、本作の特徴が浮かび上がる。
まず本作の場合は、逃亡劇なので二人には追っ手がいて、それが随所でサスペンスを生んでいる。さらにザックの追っ手は施設の看護師なのに、美人でなぜか色っぽい。しかも途中から二人の旅に加わり、タイラーとの恋の予感すら漂わせる。そして最大の違いは、ダウン症に対する社会的な視点が弱いこと。ザックはダウン症ゆえに親に捨てられたわけだが、それを孤児という設定に置き換えても本作は成立してしまう。だから友情というより、純粋で庇護される存在のはずの子供が大人たちを再生させていくという“子供映画”の面白さなのだ。
つまり骨組みは至ってシンプルで、ドルマルのような作家性もない。だが、逆に言えば、映画としての深みや個性を切り捨てたことで間口が広がり、直球の娯楽性が際立った。インディペンデントとは言えアメリカ映画らしく、デリケートな題材を分かりやすい枠組みにはめ込んだことが奏功している。★★★★☆(外山真也)
監督・脚本:タイラー・ニルソン、マイケル・シュワルツ
出演:シャイア・ラブーフ、ダコタ・ジョンソン、ザック・ゴッツァーゲン
2月7日(金)から全国公開