スロープカー開通

 心弾む光景が浮かぶ。〈ガイド嬢の案内で市長たちを乗せたオレンジ色のゴンドラは、快い音をたてながら山頂を目ざしスルスルとのぼって行った〉。1959(昭和34)年10月4日の様子が小紙に残る▲市長とは、長崎市の戦後復興に尽くした故田川務さんで、稲佐山の頂と平地の淵神社を結ぶ長崎ロープウェイの開通を記事は伝えている▲市発行の「新長崎市史」を開いてみる。元号で言うと、昭和32年に三菱長崎造船所がグラバー園を市に譲り渡し、翌年に初めて、550人を乗せた国際観光船が長崎港に入った。〈長崎の観光名所や施設のほとんどが昭和30~40年代に整えられ〉…とある▲その頃から今へと、歴史の糸がつながるようで趣深い。稲佐山公園の駐車場と山頂を結ぶスロープカーの運行が先月末、始まった▲世界新3大夜景の名高さもあり、開通から61年の長崎ロープウェイは今もにぎわうが、全面ガラス張りのスロープカーは風景をぐるりと見渡せて、趣がまた違う。先ごろ、休日の夜に乗ってみると、多くの若い人が、滑るように進む車の中から景色をうっとり眺めていた▲稲佐山という観光名所への移動手段に限らず、それ自体が観光の売りになるといい。新型コロナウイルスに観光地が脅かされる今、“新顔”の存在がことの外、輝かしい。(徹)

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