「見返したい」アキレス腱断裂から捕手復帰へ… オリ伏見が涙した妻の支えと周囲への感謝

オリックス・伏見寅威【写真:荒川祐史】

昨年6月18日の巨人戦で悪夢、歓喜に沸く東京ドームでアキレス腱を断裂

「アキレス腱を切ったらキャッチャーはできない。そう言った人たちを見返したいんです」

 捕手復帰を目指してキャンプインした男がいる。昨年6月18日の巨人戦で左足アキレス腱を断裂し“地獄の半年間”を過ごしたオリックスの伏見寅威だ。

 悪夢の1日は今でも鮮明に覚えている。9回2死二塁、空振り三振を喫した際にそのままグランドに倒れ込んだ。歓喜に沸く東京ドームで1人で起き上がれない伏見は佐竹コーチに抱えられ球場を後にした。

「本当に11月までは辛いことしかなかった。先が見えなかったし毎日が不安だった。頭が真っ白でしたね」

 昨年6月21日に手術を受けたが細菌が入り9月に再手術。その後はリハビリを続けたが痛みが取れずリハビリも一向に進まない日々が続く。「弱い所は見せられない。でも、状態が上がらない毎日だったので…」。声を張り上げ、明るいキャラクターでムードメーカーとしてチームを鼓舞する男が初めて弱気になった。

 先の見えない毎日を支えれくれたのが2017年に結婚した妻だった。「弱気になっていた自分に『そんなんじゃダメだよ』って厳しくもしてくれた、あの時を思い出すと今でもこみ上げてくるものがあります…」。目を充血させ涙をぬぐいながら苦しい日々を吐露する伏見の姿があった。

全く面識のなかった他球団のトレーナーが「僕も同じ経験をした、伏見君に会わせてほしい」

 入院中にはアキレス腱断裂の大ケガを経験した下山真二打撃コーチ(現アマスカウト)、北川博敏氏(現阪神2軍打撃コーチ)から連絡があり“経験者”のアドバイスを受けた。そして一番驚いたのが全く面識のなかった他球団のトレーナーの存在だった。

「リハビリ中にファームの試合で来ていた他球団のトレーナーの方が『僕も同じ経験があるので伏見君に会わせてくれないか』と訪ねて来てくれた。赤の他人の自分にリハビリのやり方など色々話してくれました。感謝しかないです」

 そんな伏見を野球の神様は見捨てていなかった。どん底から抜け出したのは12月。徐々に痛みが消えてくるとリハビリも順調に進み今まで出来なかった動きが増えていった。当初の予定では春季キャンプはリハビリがメインの予定だったが劇的な回復力を見せ現在は打撃練習などある程度の練習をこなすことが可能となった。

「キャンプは何もできないかなと思った。でも、やっと野球をやってるって気持ちで今は期待感しかないです。復帰の日を決めてしまうと焦ってしまうので。いい意味で楽観的になって1日でも早く、もう一度あの舞台に戻ってきたい。もちろん捕手で。あの時はこんなことがあったなって昔話として話せるように」

 どん底を味わった伏見は捕手一本で復帰を目指している。支えてくれた多くの人、そして家族が見守る京セラドームで大歓声を浴びるその日まで。(橋本健吾 / Kengo Hashimoto)

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