中学生の職場体験はなぜ必要か?目的・内容・実施状況などを紹介

現在98%以上の公立中学が職場体験を実施していますが、親の世代ではありませんでした。大学生にとってインターンシップが大切なのは言うまでもありません。しかし、なぜ今、中学生のうちから職場体験が必要なのでしょうか? この記事では、中学生の職場体験の目的と内容、実施状況、体験者の声をご紹介します。

職場体験はなぜ必要か

現在、全国の公立中学校で、キャリア教育の一環として、職場体験が行われています。その職場体験は、1995年の阪神淡路大震災、そして1997年に神戸市須磨区で当時14歳の少年が起こした連続児童殺傷事件を機に、兵庫県が県内の中学2年生を対象に導入した1週間の職場体験プログラム『トライやる・ウィーク』から始まりました。

なぜ21世紀の現代に職場体験が学校で行われているのでしょうか?

職場体験が求められる社会的背景

高度情報化社会に生きる今日の中学生は、親の世代とは全く違う子供時代を過ごしています。生活は便利になり、何もかもが自分の部屋から一歩も出ずにできるようになりました。さまざまな疑似体験を通して、中学生でも大人顔負けの膨大な知識を身につけています。その一方で、社会体験や自然体験などの直接的な体験は、著しく少なくなりました。その結果、社会との関わりが希薄化し、ひと世代前は自然と身についた社会性や規範意識、社会の一員としての責任感が育ちにくくなりました。

将来への夢や希望も持ちにくくなり、なぜ学ばなければならないのか、何のために学校に来るのかなどが見えにくく、学ぶことへの関心や意欲も低下しています。近年引きこもりや不登校が高止まりしているのも、このような社会背景が影響していると考えられます。

生徒にとっての意義

自分の親がどんな仕事をしているのか、どれくらいの中学生が具体的に答えられるでしょうか? 現代社会では身近な大人が働いている様子を見る機会がほとんどありません。たとえ親が在宅で仕事をしていても、子供が目にするのは親がコンピュータに向き合っている姿のみで、実際に何をしているかは知らないことがほとんどでしょう。

職場体験は、家庭から失われた「働いている大人」に直接、接する機会です。自分で実際に仕事をしてみることで、仕事の大変さに触れ、自分の生活が親や周囲の大人の働きによって守られていることに気づくきっかけを作ります。また、仕事をやり遂げることによって達成感を感じ、人の役に立つことで、社会の一員としての自覚と責任感を育みます。学校という守られた環境から出て、実社会の現場に立つことにより、社会のルールやマナーを身につけることもできます。また、異なる世代の人々と触れることで、コミュニケーション能力も鍛えられます。

これらの経験を通して、働くことの意義を学び、自分が将来社会に出て働く姿をイメージしやすくなります。自分の将来像に向かって、今何をすべきか考えるきっかけになり、学ぶことの意義を理解し、自らの意思で進路を選択決定する主体性を養います。

学校や教員にとっての意義

学校の枠を超えた活動は、学校にとっても、教育活動の見直しや教員の意識改革などの絶好な機会となります。地域における学校の教育力や役割を確認し、足りない部分を補強するなど改革に生かす学校もあります。地域と一体となって活動を進めるため、学校と地域との人間関係も構築されます。学校と地域は、騒音や生徒の振る舞いなどが原因で対立することもありますが、職場体験などの連携活動を通して普段から良好な関係ができていれば、対立を防止または和らげる効果もあります。

また、教師以外の職業を知らないことも多い教員にとっても、見識を広げる機会となります。職場体験を通して、生徒の学校とは違った一面を目にし、生徒への理解も深めることができます。

家庭や保護者にとっての意義

保護者にとっても、働く我が子を支えることで、子供の違った側面を発見できる機会になっています。子供が実際に働くことにより、親の仕事にも興味を持ったり理解を示したりするようになり、家庭での親子の会話が増える効果もみられます。また、子供が中学生のうちから職業について考えるようになり、将来の就職などについて話し合う素地が整えられます。

地域や受け入れ先事業所にとっての意義

職場体験をしたことにより、地場産業に興味を持ったり、地域への愛着が増したりする子供たちが大勢います。受け入れる企業にとって、中学生は将来の社員にも消費者にもなり得る存在です。中学生の職場体験への受け入れは、企業にとって、地元で知名度を上げ、ファンを増やす絶好の機会です。

職場体験の実施状況

中学校での職場体験実施状況

2017年度に職場体験を実施した中学は、全公立中学校の98.6%に上ります。一方、国立中学での実施率は61.3%、私立中学では32.9%にとどまっています。実施学年は中学2年時が多く、原則的に学年全員が参加する形で実施しています。

職場体験は、体験のみにとどまらず、事前・事後の学習にも時間をかけ、段階的な準備と経験の定着を図っています。事前学習に費やされる時間は、体験が行われる学年次に47.0%が6~10時間、体験が行われる学年以前に50.4%が1~5時間を使っています。事後学習にかける時間は過半数の学校が1~5時間となっており、レポート作成や発表を行っています。

  • 職場体験の事前学習にかける時間
  • 職場体験の事後学習にかける時間

(参照元:平成29年度職場体験・インターンシップ実施状況等結果(概要)|国立教育政策研究所、P4)

職場体験の実施日数は2、3日が最も多く、全体の6割を占めます。本来は、5日間以上連続して職場体験を行うのが最も効果が高いとされますが、実際に5日以上実施している学校は約12%にとどまります。その一方で、兵庫県(100%)、富山県(98.8%)、滋賀県(97.0%)、広島(98.8%)では県内ほぼすべての公立校が5日以上実施しています。

(平成29年度職場体験・インターンシップ実施状況等結果(概要)|国立教育政策研究所、P3より筆者作成)

小中高で一貫したキャリア教育

大人の働く姿が見えにくい社会の中で、子供たちが働くことの意義を自然と習得できる機会は多くありません。そのため、「何のために働くか」「どんな仕事をするか」という教育を学校でする必要が出てきました。職業観は一夕一朝では養えません。そのため、日本の公立学校では、小中高を通して系統立てたキャリア教育を目指しています。

(職場的体験学習の実施計画例|宮城県総合教育センター、P90より筆者作成)

小学校で実施されている職場見学

多くの場合はクラス単位ごとに、半日程度の時間を使って、地元の企業や保護者が働いている職場などを訪れます。働く人の姿に着目し、どんな仕事をしているのか、どんな役割を果たしているのかを観察します。さらには、働いている人の気持ちに触れることにより、働くということはどういうことかをを考えます。

高校で実施されているインターンシップ

2017年のデータによると、全日制・定時制公立高校では、84.0%の学校がインターンシップを実施しています。特に全日制公立高校の職業に関する学科での実施率が高く、95.5%に上ります。一方、私立高校でのインターンシップ実施率は45.9%、国立高校では15.0%にとどまっています。

本来、高校では、中学の職場体験からさらに踏み込んだキャリア教育が行うべきですが、膨大な学習内容をこなさなくてはならない高校では十分な時間が取れず、中学の職場体験ほどには成熟していません。

実施方法は学校によってさまざまで、学年全員の参加を求める学校と、希望者だけが参加する学校があります。インターン日数も、職業に関する学校は、2、3日(57.5%)または4、5日(22.5%)と長めなのに対し、普通科はほとんどが1日(50.7%)か2、3日(42.5%)にとどまります。事前・事後学習に割く時間も、中学校と比べると大幅に短く、6割以上の学校が1~5時間しかかけていません。本格的なインターンシップを経験するには、大学まで待たなくてはならないでしょう。

参考

平成29年度職場体験・インターンシップ実施状況等結果(概要)|国立教育政策研究所

職場体験の内容

事前学習

事前学習では総合学習などの時間を使い、職業について考えます。例えば、特定の職業の人を学校に招いて話を聞いたり、親など身近な人に仕事についてインタビューをしたりしながら、職業に対する理解を深めます。また、道徳などの時間を使い、他者に学ぶ謙虚な心や、社会への奉仕の精神、集団社会の中でのマナーやルールなども学びます。

職場体験

職場体験は、実際に体験に行く準備段階から、生徒が主体的に行います。生徒が体験したい事業所に依頼の手紙を書いたり、体験先へ事前訪問し、体験内容などを打ち合わせます。当日は、自己紹介や仕事内容の見学の後、体験先事業所の人の指示を受け、実際に仕事を体験します。職場にもよりますが、朝9時から夕方5時までなど、通常の業務時間をまるまる体験します。1日の作業が終わったら、日誌にその日の仕事内容や感じたことなどをつづります。

事後学習

体験後は、まず職場体験日誌を取りまとめ、生徒自身が活動を自己評価します。さらに、先生・保護者・受入先がそれぞれの立場から生徒の活動を評価します。受入先には生徒が礼状を書き、事後訪問します。また、体験内容は壁新聞にまとめたり、発表会で発表したりします。

体験者の声

学校にいるだけでは学べない貴重な経験をしていることは、体験者の声から見ても明らかです。

病院で職場体験をした岐阜県多治見市の中学2年生の感想を見ましょう。

この体験をして、命をあつかう仕事は大変だけどとてもすごいことだなと思いました。裏で支えている人がいるから看護師さんやお医者さんが働けるし、看護師さんやお医者さんがいるから、私たちは毎日健康でいられるんだとすごく実感できました。だからこの体験を生かし、これからは自分の夢である獣医になれるようにまず理科をがんばりたいです。

(引用元:自己の生き方を考え、主体的に進路を選択できる能力や態度の育成|岐阜県学校間総合ネット、P40)

ユニクロで職場体験をした千葉県の中学2年生の感想です。

成長することが少しでもできたのは、目標をもってそれに沿った行動をすることだ。例えば、品出しをこの時間までには終わらせるとか、小さな目標だけど目標をもつことでやりがいを感じた。

(引用元:学校だより「職場体験学習報告書より(2年)」|高洲第一中学校)

自らも受け入れ先となった保護者の感想です。

子どもが本気でやりたいと思い,親もそれを応援する。そして,地域の方々にお世話になる。みんなが一体となったすばらしい活動だと思う。自分も受入れ事業所の一員として中学生と接し,自分の生き方を見直す機会をもらった。

(引用元:職場体験を終えての感想(生徒・保護者・事業所の方から)|広島県、P3)

終わりに

いつもは守られた環境で過ごしている中学生が、1週間社会人として振る舞う職場体験は、多感な年頃の中学生にさまざまな驚きや発見、感動を生み出しています。

良い学びとなるよう、周囲のサポートが重要になるかもしれません。

参考

第1章 職場体験の基本的な方考え方|文部科学省

第3章 職場体験充実のポイント|文部科学省

職場的体験学習の実施計画例|宮城県総合教育センター

生徒一人一人が自己の生き方を考え、主体的に進路を開拓していくキャリア教育の推進|岐阜県教育委員会

自己の生き方をみつめるとともに、将来に対する進路意識を高め、望ましい勤労観や職業観を育成するキャリア教育|岐阜県教育委員会

学校だより「職場体験学習報告書より(2年)」|高洲第一中学校

職場体験を終えての感想(生徒・保護者・事業所の方から)|広島県

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