ロッテ河合オーナー代行が回顧する故重光氏の“預言” 「突然『野球もちゃんとやれ』と」

ロッテ・河合克美オーナー代行兼球団社長【写真:佐藤直子】

「Full-Count」単独インタで語る優勝にかける思い・第1回

 スポーツ界が大いなる盛り上がりを見せる2020年。日本プロ野球界ももちろん例外ではない。10年ぶりの日本一を目指す千葉ロッテマリーンズは2月1日、沖縄県石垣島で恒例の春季キャンプをスタートさせた。オフにはフリーエージェント(FA)など積極的に戦力を補強し、順天堂大医学部と提携するなどメディカル体制も強化。リーグ優勝はもちろん、2010年以来となる日本シリーズ優勝にかける本気度の高さを見せている。

 就任3年目の井口資仁監督率いるチームを全面バックアップしようと構えるのが、河合克美オーナー代行兼球団社長だ。昨年12月1日に山室晋也氏から球団社長職を引き継いだ河合オーナー代行が「Full-Count」の単独インタビューに応じ、自身と球団の関わり、チーム経営と企業経営の相似点、今季優勝にかける思いなどを熱く語った。

 全3回シリーズの第1回は、自身と千葉ロッテマリーンズとの不思議な縁がスタートした2005年について語る。

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 河合オーナー代行がロッテグループに入ったのは、2004年7月のことだった。カネボウ、博報堂を経て、ロッテの広告・宣伝担当として入社。主な仕事は商品の宣伝かと思いきや、翌2005年の正月、当時社長だった故重光武雄氏の鶴の一声で、球団と深く関わるようになった。

「つい先日亡くなりました重光さんが突然、社長会議で『野球もちゃんとやれ』と言ったんです。なんでそれを言い出したのか、説明はありません。でも、社長に『やれ』って言われたらやらざるを得ない(笑)。来季予算はほぼ決まっているけど、それまで球団関係に多くは取っていないわけですよ。そこで商品サンプルを渋谷ではなく球場で配ったり、そんなことから始めたら、チームはあれよあれよと交流戦で優勝してしまった。ただ、後半そのまま優勝を争っても、野球絡みのテレビ向けの広告を何も作っていない。それはまずい、と慌ててCM制作に取りかかりました」

 シーズン中の過密スケジュールの中、なんとかバレンタイン監督以下、チームが参加できるチャンスを見つけて撮影を敢行。そうして出来上がったのが、今でもファンに語り継がれる「DHよしこ」が登場する作品だ。

 仕事で行き詰まったOLよしこが弱気な言葉を発すると、いきなり「僕らも頑張ってます」と登場するロッテの選手たち。「ガムをどうぞ」と渡されたグリーンガムを噛んでリフレッシュされたよしこは、マリンスタジアムのベンチでバレンタイン監督の横に瞬間移動。球場には「DHよしこ」がコールされ、やる気に満ちた笑顔を浮かべたよしこが、バレンタイン監督にグラウンドへ送り出される、というCMだ。

2005年に勝利の女神と称された「DHよしこ」、その正体は…

 タイトな撮影スケジュールで「とにかく作った感じ。しっちゃかめっちゃかだった(笑)」と当時を振り返るが、結局チームは31年ぶりの日本一に。CMを流す機会が増え、人気を博した「DHよしこ」はファンから勝利の女神とも呼ばれた。

 その翌年、開幕戦で始球式のマウンドに上がったのが、昨年他界したNPB史上唯一の400勝投手、金田正一氏だった。打席に立つのは「DHよしこ」。実はこの時、金田氏は「万が一、女の子の顔に当たって怪我をさせたらどうするんだ」と最後まで対戦を渋ったという。なんとか実施にこぎ着けると、レジェンドとDHよしこの対決に球場は大歓声。無事、始球式を終えて大満足の金田氏は「君は随分人気があるんだな」とDHよしこを演じる女優にサインボールを渡した。この女優こそ、翌2007年に米アカデミー賞助演女優賞にノミネートされた菊地凛子だった。

 2005年の正月、重光社長がなぜ「野球もちゃんとやれ」と言ったのか、その理由はいまだに分からないという。故重光氏はチームの日本一を予測していたのか。今となっては知る由もないが、その一言がなければチームの快進撃に対する会社のバックアップは後手に回り、「DHよしこ」が誕生することもなかっただろう。「カリスマ的な経営者は違うんだな、というのを感じました」と話す河合オーナー代行だが、入社した翌年に31年ぶり日本一に深く関わることになった自身もまた、人並み外れた引きの強さを持つと言えるだろう。

「優勝した時の社内の盛り上がり、社員のモチベーションの高まり、これはものすごいんですよ。入社してまもなく、企業としてプロ野球チームを持っていることが、社員にどれほど影響力を持つのか、社内のモチベーションを上げるツールになるのか感じることができました。同時に、ロッテ商品とチームを絡めることはいくらでもできるんじゃないか、今まで絡めなかったのは宝の持ち腐れだったんじゃないか、という思いも生まれ、2006年から本格的に球場で新商品のサンプリングを始めたんです。そんなこともあって、ロッテグループの広告塔でもあるチームとは、常に関わっていた気がします」

企業チームでありながら地元・千葉に根差した地域密着型を実現

 球団のオーナーは「ロッテ」という企業ではあるが、本拠地を置く千葉に深く根差した地域密着のチーム作りにも成功している。千葉との協力体制がさらに加速したのは、やはり2005年の日本一がきっかけだったという。

「優勝するということは、いかにインパクトが強くて影響力を持っているかということ。マリンスタジアムで優勝パレードをすれば、それがニュース映像として流れるわけですから、千葉を含めみんながその価値を理解したと思うんですよね。そこで、チームと自治体と一緒になって何か地域活性を図れないかと、選手たちが積極的に学校訪問したり、野球教室を開いたり、震災があれば自分たちにできることをしようと行動に移したり。千葉とはいい形で向き合えていると思います」

 ロッテを支えるファン層の大きな特徴の1つは、女の子ファンの存在にある。幼稚園・保育園から中高生まで千葉に育つ女の子のハートを掴んでいるのが、チアパフォーマー「M☆Splash!!」だ。2004年に結成され、今季で17シーズン目を迎える「M☆Splash!!」は球場内にはとどまらず、千葉県内各地のイベントにも参加。現役メンバーやOGが講師を務める「マリーンズ・ダンスアカデミー」は、「M☆Splash!!」に憧れる女の子たちで溢れる。

「試合前に行われるM☆Splash!!のステージを、最前列で見ているのは小さい女の子たちなんですよ。一緒になって踊ったりしている。彼女たちにしてみると、野球選手よりもチアリーダーのお姉さんの方がスターなんです。アカデミーに入っている子たちは、週末や休日になると実際に試合で踊れるチャンスもある。そういうことも含めて、昔のようにお父さんが男の子を連れてくるだけではなく、お母さんが女の子を連れてくる球場の先駆けになっている部分はあるんじゃないかと思います。それも2005年頃から大きく変わった点ですね」

 31年ぶりの日本一に輝いた2005年は、チームの歴史に「優勝」の二文字を刻んだだけではなく、地域との在り方、ファンとの関係など、数多くの側面に変化を与えたエポックメイキング的なシーズンになった。この年の始めに突如として「野球をちゃんとやれ」と指示した重光氏には、やはり状況の潮目のようなものを感じ取っていたのかもしれない。

(第2回に続く)(佐藤直子 / Naoko Sato)

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