「流行りだからじゃない」、キリンがクラフトビールに注力する理由

「日本のビールはなぜここまで縮小したのか。その理由の1つに、ビールメーカーの責任があるのではないかと思う」――。キリンビールホールディングス(HD)の磯崎功典社長は2月5日、キリンビールのクラフトビール戦略発表会でこう語りました。

国内大手4社の中でも、特にクラフトビールに力を注いでいるキリンビール。2019年11月には、アメリカのクラフトビール3位のニュー・ベルジャン・ブルーイングを買収すると発表しました。同社がクラフトビールに積極的な理由は、どこにあるのでしょうか。


「本当にビールの好きなお客様が去った」

キリンビールは、2014年7月にクラフトビールブランド「SPRING VALLEY BREWERY」を立ち上げ、同年9月にクラフトビール最大手のヤッホーブルーイングとの資本業務提携を発表しています。

2016年10月には、ブルックリン・ブルワリーとの資本提携を発表。ブルックリンとキリンビールの合弁会社であるブルックリンブルワリー・ジャパンは、2020年2月に旗艦店を東京・兜町にオープンしました。

同社のクラフトビールは主に飲食店向けの業務用展開が中心で、1台で4種類のクラフトビールが提供できる専用サーバー「タップ・マルシェ」を2017年から開始。2019年は、累計の展開店舗が1万3,000店を突破しました。

こうしたクラフトビール強化の動きについて、磯崎社長は「流行りだからやっているわけではない」と説明します。

「同じようなビールを各社とも造って、価格戦争して、いつの間にか本当にビールの好きなお客様が去ってしまった。もう一度ビールの魅力を確認する、訴えるためにやっている」(磯崎社長)

「地ビールブーム」はすでに超えた?

国内のクラフトビール市場は年率10%のペースで拡大傾向にあります。ビール類市場における構成比(販売数量ベース)で、2026年には現在の1%弱から3%へと成長すると、キリンビールの山田精ニ企画部長は予測します。

同社の調査によると、クラフトビールの認知率は上昇を続けており、「どんなビールか知っている」(16%)、「どんなビールかなんとなく知っている」(40%)、「聞いたことはあるがどんなビールなのかわからない」(35%)、という結果に。飲用経験率は42%と半数に迫る勢いです。

クラフトビールの醸造所も各地に拡大し、2019年は435と前年比で約3割増となりました。かつての「地ビールブーム」の時よりも醸造所の数は多いといいます。

キリンビールでは「スタンダードビール」「発泡酒」「新ジャンル」「プレミアムビール」に続く第5世代としてクラフトビールを位置づけ、「どれを飲んでも同じ」という若者などに、ビールの間口を広げる狙いです。

いまクラフトビールに注力する“うまみ”

さらに、クラフトビールに注力する背景として、酒税法の改正があります。ビール、発泡酒、第3のビールの税率が、2026年10月までに段階的に一本化される予定。税額の差が縮まると、ビールの味わいがより重要になりそうです。

しかし、磯崎社長は「欧米ほどのクラフトビールの構成比にはならない。マックスで5%ぐらい」と予測します。では、少子高齢化がさらに進み「胃袋の数」が減少する中、クラフトビールに注力する“うまみ”はどこにあるのでしょうか。

それは、クラフトビールの利益率の高さです。通常のビールの2倍ほどの価格で販売するので、「全体的なボリュームは下がっても収益に貢献する」と磯崎社長。また、飲食店や消費者、ホップ農家などのステークホルダーにとっての「ビールの価値」を変えることで、ビール類市場全体の活性化を狙います。

今後、業務用で十分なブランディングを実施したうえで、スーパーなどの量販店での販売も強化していく方針。2020年の販売量は前年比4割増を目指すとしています。

まだ投資段階というキリンのクラフトビール。離れていった人々の心をつかみ、ビール人気を再び取り戻すことはできるでしょうか。

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