大事なペットと一緒に逃げると起きること 災害時の同行避難、飼い主と自治体が直面する課題

 ペットを家族同然と考える飼い主が増えている。そして、災害時には一緒に逃げる「同行避難」を求める人が増えてきた。しかし、避難所には犬や猫が苦手な人もいる。屋内に持ち込めないことが多いのが現状だ。2019年10月の台風19号では、同行避難するか判断に迷うケースが目立った。大事なペットを一緒に避難させるためにはどうすればいいのか。普段から地域で対策を話し合う必要がありそうだ。(共同通信=三村泰揮、三好寛子、高田香菜子)

動物愛護団体「LYSTA」の代表理事の鈴木理絵さん=2019年10月、福島県いわき市

 浸水被害が大きかった宮城県丸森町に住む主婦武田妙子さん。19号上陸が迫っていた当初は、愛犬のチワワを避難所に連れて行けるかどうか分からず、自宅にとどまっていた。

 しかし、水が自宅の目の前に迫ってきた10月13日の朝になって、犬を抱えて消防団のボートへ。避難先の小学校では3日間、ほかの住民と別の部屋で犬と過ごすことができた。

 実際、19号上陸の前後、ツイッター上ではこんな投稿が目立っていた。「避難所で犬は車の中と言われ帰宅した」「一緒に入れる避難所は遠く諦めた」…。

 丸森町はペットとの同行避難を積極的に呼び掛けていなかった。ただ、屋外につなぐことなどを条件に、現場判断で受け入れられることもあると説明している。

 武田さんは町には感謝している。ただ「ペットを理由に自宅へ残った人がたくさんいた。情報があれば早めに避難できたのでは」との思いが消えない。

被災した際、愛犬のチワワと避難所で過ごした武田妙子さん=19年10月、宮城県丸森町

 環境省は2013年に指針を作り、同行避難を推奨してきた。東日本大震災では、ペットを探しに自宅へ戻り、津波に巻き込まれた人がいた。また、はぐれた犬が野生化する恐れもあるためだ。

 ただ、避難所にいるのは動物好きのひとだけではない。動物アレルギーの人ももちろんいる。鳴き声、においを巡るもめ事も起きる。

 このため現行指針は「同行避難は同室での飼養管理を意味するものではない」と明記している。環境省の担当者は「自治体の判断次第だが、実例をみると、スペースを分けてペットとの同室を認めた方が円滑のようだ」と説明する。

 さらに、災害時に使う避難所の、構造による制約もある。

 さいたま市はすべての指定避難所で同行避難を認めた。19号上陸前にはツイッターでも呼び掛けていた。ただし基本的に同室は認めず、市の担当者は「屋内に入れるかどうかでトラブルも起きた」と話す。

 19号でペット一時保護の依頼が増えた動物愛護団体「LYSTA(リスタ)」(福島県いわき市)。代表理事の鈴木理絵さん(40)は「ペットと同居できる避難所を地域に一つ作ることも必要ではないか」と提案する。

 自宅が被災した人は、避難所を出てからも問題が生じうる。公営住宅などに移りたくても、ペット可の部屋は限られるからだ。仮設住宅は、自治体として室内飼育を認める事例が多いものの、近所の理解を得る必要がある。

 九州保健福祉大の加藤謙介准教授(社会心理学)はこう指摘する。「ペットとの避難は比較的新しい問題で、備えがまだ不十分。地域の防災訓練に犬を連れて行くなど、日頃から行政と住民が問題を共有することが大切だ」

 19号で被害が大きかった長野県は、被災者のペットの相談に応じるセンターを開設した。被災者の要望と支援希望者をマッチングする役割などを果たし、長野市では犬と猫計18頭の一時預かりを調整したという。「生活再建の過程で、相談は増えていった。今後も災害時のニーズを調べて備えたい」。県の担当者はこう感じている。

台風19号で千曲川(手前)の堤防が決壊し、流れ出た濁流で浸水したままの住宅地=19年10月14日、長野市

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