生物の仕組みから解決策探る――SDGs達成に必要なイノベーション「バイオミミクリ」

もしバイオミミクリという革新的なアプローチについて聞いたことがなかったとしても心配しないでほしい。そのような人に向けてもこの記事を書いている。バイオミミクリとは、自然界や動植物、昆虫など生物の仕組みを分析し、その機能や構造をまねて、技術開発や製品開発を行うことで社会課題の解決や環境負荷の低減を行うという手法だ。自然界をサステナビリティのモデル、メンター、そして測定ツールと見立て、人間の課題に対して自然界と似たような解決策を作り出していくのだ。(翻訳=梅原洋陽)

米バイオミミクリ・インスティチュートが毎年開催するコンペ「2020バイオミミクリ・グローバル・デザイン・チャレンジ」はSDGsに関する世界的な取り組みがテーマだ。

グローバル・デザイン・チャレンジでは、世界中の学生や教授たちが自然界からヒントを得て考えた実行可能な解決策を発表する。同チャレンジのミッションは、現在そして将来の人間と自然の平和と繁栄のために人々を結集すること。タグラインは「Design°for People + Planet」。自然をメンターとし、特定のSDGsのためにどれほどの変化を起こせるかを考えることを求めている。タグラインにある、温度を表す「°」のマークは環境危機の中で起きている気温上昇を表し、今すぐ行動を起こす必要性を示している。

なぜ2020年のテーマはSDGsか

SDGsは人類の繁栄を推し進めながら、地球を守るための17のグローバル目標だ。貧困や、不平等、平和や正義に関することなど世界が直面する問題への取り組みだ。世界の人々が解決を目指す上での共通のビジョンでもある。

SDGsは気候変動に取り組む方法を生み出すチャンスだ。バイオミミクリから学べることは、すべてが繋がっているということ。エコシステムはすべての生存者や行動の影響を受ける。SDGsは気候変動とその他の環境、経済、社会的平等の複雑な関係性が教育、成長、雇用、不平等、アクセシビリティを支援する上で関わっていることを示している。

それぞれの目標は、気候変動への取り組みをさらに深く考えるためのレンズのようなものだ。例えばゴール14「海の豊ゆたかさを守る」は持続可能な開発のために、海や海の資源を守りながら持続可能な方法で使用することを求めている。国連によると、海は人間が排出する二酸化炭素の約30%を吸収し、地球温暖化の影響を和らげている。

フローティング・ココネット

The Biomimicry Institute

海の生態系を失うことで、気候変動はかつてないレベルで、破壊的なダメージを引き起こすだろう。バイオミミクリからヒントを得て、昨年行われた「バイオミミクリ・グローバル・デザイン・チャレンジ」で出されたアイデアにオランダ・ハーグ大学の「フローティング・ココネット(Floating Coconet)」がある。このネットは川に存在するプラスチックが海に流れ出る前に回収するというもの。マンタやウバザメが水中からろ過した食料を摂取する方法をまねて、フローティング・ココネットは漂っている小さいものから大きいものまでプラスチックを回収し、深刻さを増す海洋プラスチック問題に取り組む。

数十億年をかけて、生物は環境に適応し、地球で生き抜いてきた。人間も同じようにしていく必要がある。急速に変化する気候が引き起こす影響が日に日に明らかになっている。世界中の発明家は自然界からヒントを得て、飢餓や清潔な水、再生可能エネルギー、強靭なインフラ、森林伐採、生物多様性の消失、海洋生物の危機などに立ち向かっている。 自然界のデザインの設計図をこれらの問題に応用することは、世界のリーダーたちがSDGsを達成する助けになるだろう。

炭素の肺

The Biomimicry Institute

SDGs目標7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」は、現代的な電力を利用できていない世界の13%の人たちを含むすべての人に、クリーンで再生可能なエネルギーを作り出すことを求めるもの。国連は、エネルギーが主な気候変動の原因であると認めている。排出される温室効果ガスの約60%はエネルギーによるものだ。

カリフォルニア州立工科大学ポモナ校サンルイスオビスポ校は昨年、「炭素の肺(Carbon Lung)」という、風車の中に設置された炭素の吸収と活用をクローズド・システムで行うコンセプトを発表した。このチームはザトウクジラの結節や人間の肺胞、シアノバクテリアの炭素酵素からヒントを得たそうだ。

大気を通気口から取り入れ、空気を内部で圧縮する。内部が空気で満たされたら、二酸化炭素は半透過性の皮膜を通して拡散され、外側の部屋に移動する。そこで炭素の固定液が二酸化炭素を重炭酸塩に作り替える。この過程で、副産物として発生する重炭酸塩は後に肥料に造り替えられる。もし50個のこの装置が米国にあるすべての5万6800個の風力発電タービンに設置されたとしたら、380万トンもの二酸化炭素を毎年吸収できることになる。

SDGsとバイオミミクリ・グローバル・デザイン・チャレンジに共通するのは、イノベーションが気候変動対策に向けられていることだ。特にゴール13「気候変動に具体的な対策を」は気候変動に立ち向かう行動を求めているが、それだけでなくすべての目標が気候危機に相互に関連している。例えば目標3「すべての人に健康と福祉を」、目標12「つくる責任つかう責任」、そして目標4「質の高い教育をみんなに」などだ。SDGsのすべての目標は何かしらの形ですべての種のエコシステムの再生に貢献するだろう。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、気候変動に対する効果的なアクションのためには地球規模での取り組みが必要だと認めており、それこそがSDGsが目指すものだ。気候危機対策への取り組みを始めることは、地球上のすべての生物にとって重要だ。

SDGsは人類の歴史の中で最も差し迫った環境的、社会的に重要な課題に取り組むためのフレームワークを提供してくれる。地球のあらゆる場所で活動する人々に「2020バイオミミクリ・グローバル・デザイン・チャレンジ」に参加してもらいたい。そして2030年までにSDGsを達成できるように前進したい。申し込みは1月8日から開始している。

バランスの取れた、繋がりのある、強い未来を築くためには、すべての人の力が必要だ。あなたは自然界を見習い、どれほどの変化を起こすことができるだろうか。

© 株式会社博展