あの議員に渡った選挙資金1億5000万円のゆくえは?! 選挙ドットコムちゃんねる #11-3

河井案里議員に渡った1億5000万円という巨額な選挙資金の行方について、が今回のテーマ。

自民党から支給された金額の大きさ自体にも驚きますが、同じ選挙区の同じ党の候補の10倍の額だったり、安倍総理の秘書が河井議員の選挙に直々に携わったり、というのを聞くと、河井案里議員への「特別扱い」自体にも疑問が……。

巨額な選挙資金がどのようにして差配され、どのように使われたのか、公選法の不備なども交えつつ考察・解説していく今回の番組内容をダイジェストでお送りします。

1億5000万円を受け取ったこと自体は違法ではないけれど……

乙武 「今回のテーマは、選挙資金1億5000万円の行方ということですけど、これは例のアレですよね」

松田 「アレですね」

千葉 「ウグイス嬢問題の、河井案里議員に参院選当時、選挙資金がですね、党から1億5000万円ものお金が振り込まれたということがわかったと。この資金がどのように使われたのかというところを、今回は紐解いていこうと思います」

松田 「1億5000万円あったら……。いろいろできるなぁ」

乙武 「松田さん、まず確認しておきたいんですけど。この金額が発覚した発端となったウグイス嬢に法定限度を越えて報酬を支払っていた、これは完全にアウトだし追及すべき問題ですが、自民党本部から1億5000万円を受け取っていたってこと自体は、なんら違法性はないし別に批判されることではないんですよね?」

松田 「まず違法性の観点から言うと、まったく違法性はありません。党本部がそれぞれの支部、今回の場合は溝手さんと河井さんがそれぞれ支部長を務めている支部に、献金をしているわけです。これ自体は公選法上も政治資金規正法上も問題はありません。

で、まあそれが適正かどうかということに関しては、まず党内の問題としてどうなのかということと、もうひとつ政党交付金という形の自民党の収入の約7割近くが、税金が原資であるというところです。

税金での収入(政党交付金)の収入が大半を占めている党がこういう形で選挙資金を差配していることに関して、やはり税金を支払っている国民に対して説明責任は発生するのではないかと思います」

千葉 「じゃあまず話題になっているこちらを見ていただきましょう。参院選広島選挙区の自民党候補についての相関図なんですが」

乙武 「また意地悪なスライド作りましたね!」

千葉 「あーなんてわかりやすい、って感じですけど、河井案里氏は295,781票でトップ当選したと。こちらは1億5000万円を選挙資金として党からもらってて、一方の溝手顕正さんは、1500万円の資金で270,183票で次点落選してしまいました」

乙武 「これさ15っていう数字が並んでいるんで、ぱっと見同じ額かなって思っちゃいますけど、1『億』5000万円と1『千』500万円っていう10倍の違いがあるってことですよね」

松田 「10倍ってすごいですよね。同じ選挙に同じ選挙区から同じ政党の公認を受けている人の間で、10倍の資金の差があるっていう」

乙武 「これは選挙業界の常識的にはどうなんですか? ありうること?」

松田 「うーん、自民党とかだったらあり得るのかなって思ったんですけど、下村博文選対委員長がですね『ありえない』と明確におっしゃっていてですね」(大爆笑)

乙武 「うんうん」

松田 「やっぱりありえないんだなあと思ったわけですよ」

乙武 「選対トップの当事者がいってるんだもんね」

松田 「まぁ参院選当時の選対委員長ではないんですが。実際、重点選挙区として、ここはどうしても勝たなきゃいけないと党が判断すると、最初はみんな一律1500万円だとしても、もう3000万円とか、5000、7000万円とか情勢を見ながら追加で資金を投入するというようなことは、自民党に限らず、民主政権時代とかにもやっていたと思いますし、その他の政党でも皆が一律同じ金額なのが当たり前ということでもないんですね。

多少、党から渡される選挙資金に差が出ることはこれまでも自民党以外の党でもあったと思います。ただやはり今回は、ケタが違いますよね。

広島選挙区で2議席を獲得するために、河井さんは新人だから資金を入れたんだという説明もあるんですけど、たしかに前半の情勢では溝手さんが非常に強いと言われていまして、新人で知名度もない河井さんに2議席独占するためにお金を使ったってことは、たしかにそうかもなと思うんです。

ただけっこう終盤は河井さんが伸びているという話も聞こえてきましたから、それであれば溝手さんにテコ入れが必要だったのではないかとは思います」

乙武 「気になるのは右側の矢印。過去に批判してたってことですよね。だから嫌われた?」

松田 「これは第一次安倍政権の時の話になるんですけど、溝手さんが当時の安倍政権に対していろいろ批判したというところがですね、非常に禍根を残しているというような報道をされています。別に安倍さんご本人がそれに言及しているわけではないけど、そうじゃないかという風に言われているんです」

乙武 「つまりこの10倍の差の理由は2つの可能性があって、新人だし不利な状況だから手厚くしようということで10倍出したっていう可能性と、あいつ昔おれのことを批判してたからっていうのを根に持って10倍の差をつけたっていう可能性。あとそれがミックスされている可能性もあるから3択だな」(笑)

松田 「そうですね。やっぱり好き嫌いで政治が動いているっていう面は、実際にないとは言えないんで、真相はどうなのか……。ただまぁこれに関しては幹事長が最終的に選挙を差配するというか握っているポジションですから、二階幹事長が自分の判断で1億5000万円入れたんだというような報道も出ています。安倍総理の意向ではないという形で。だから乙武さんの見方はちょっとうがちすぎかもしれないんですけど」

乙武 「これ二階さんが、自分が責任をかぶるような発言を珍しくしたんですよね」

松田 「珍しいかどうかは知りませんけど、ちょっと意外でしたよね」

乙武 「あれ、狙いは何だったんだろう」

松田 「ひとつは河井さんが二階派であるってことですね。あとは二階幹事長に対して政局にたけていてまとめる力があるという評価の一方で、もともと民主党所属の方を多数受け入れたりとか、何かしら不祥事がある議員を受け入れたりとかということに対しての党内の批判もあって、そのあたりを少し気にされたのかなとか。

自分への批判と自分の派閥がいろいろ問題になってることもあって、謝罪的な発言をされているのかなと。

実際、筋論で言えば選挙でどこにお金を差配するかってことを決めるのは、幹事長が一番大きな権限を持っているのは確かなことなので、筋論的に謝られているというのもあると思います」

法的に問題がなくても、党内に不満は残る

乙武 「なるほど。僕、この前の注目選挙区で静岡5区を上げたんです。ここは、今まで民主党民進党の顔だった細野さんが、今二階派入りをして、その同じ選挙区に岸田派の吉川さんという人も立候補予定と。奇しくもここも二階派VS岸田派という選挙になってくるわけですけど、また10倍の資金の違いがつけられちゃうんじゃないかって、岸田派としては思っちゃいますよね」

松田 「当然思いますし、今後は自民党内でいろいろ問題視されてくるんじゃないかなと。ここで二階幹事長がはっきり責任を認める発言をしたことで、これで幕引き、これ以上言うなという話にもなるかもしれないですが、ほかの新人で競り負けた人から『うちにはお金が入ってないみたい』な声とかがたぶん出てくるのではないかと。

なぜ案里さんだけ極端に手厚くて、特別扱いなのか、そもそもこれは党の方針としてあったのかとか、など不満の声は出てくると思います」

乙武 「このスライドには出てないですけど、河井案里さんの旦那さんの河井克行さんも、安倍首相はめっちゃ可愛がってますよね」

松田 「そうですね。側近という風に言われてますから」

乙武 「そのへんは関係あったんですかね?」

松田 「まぁ普通に考えて、関係ないとは思わないですよね。政権とか安倍総理に近いか、近くないかという部分でこういう差がついているんじゃないかというふうに、外見的には見ちゃいますから、党内でも当然、不満の声は上がるでしょうね」

そもそも選挙で1億5000万円も必要なの?

乙武 「そもそもなんですけど、選挙に勝つのに1億5000万円いるの?」

松田 「まぁあるならあったで、使うっていう世界です」

乙武 「やっぱりそんなにかかるんだ」

松田 「いや、僕はこんなにお金かけられる選挙はやったことがないんですけど。実際、参院選の広島選挙区なんで、広島県という県全体の規模になるわけですよね。人口10万人の市長選であれば、ビラを全戸配布するっていっても世帯数的にはまあ4万と見積もって、4万枚ビラを配るだけでいいわけですよ。

でも広島県全体にやるとなったら、ビラを配る対象も100万件越えとかの規模になってくる。ビラをポスティングするためには当然、業者も使うでしょうし、いろんなポスターも貼るでしょう。

これは選挙ポスターではなくて、いわゆる二連ポスターといわれるようなものとかを大量にね。あとは色々、選挙前であれば街宣車を台数制限なく走らせられるので、こういうのを使うとか。郵送物送りにもお金がかけられますね。いわゆる広告手段として認められているものというのは実にたくさんありますから。

もちろん選挙期間中は『総枠制限』というものがあって、参院選だと4千何百万円くらいまでしか使っちゃダメだよっていう決まりがあるんですけど、これは本当の選挙期間の17日間限定の話なので、それ以前の期間ならいくらでも使えちゃうんです。

実際、選挙資金の振り込みは、最初は4月の中旬くらいだったと思うんですけど、党に公認発表されてひとまず1500万円ふりこまれて、そこからまあ5月、6月と何千万、何千万と追加されていった形だと思うんです。活動をしていっている中で、たぶん『もっと支援を』っていうふうに要請をしたんじゃないかな。要請せずにあれだけのお金を入れるとは考えられないですね。

それでもらったものを使い切って、また入ってきてその資金を使い切ってっていう繰り返しじゃないかと」

やっぱり票は金で買えるものなのか?

乙武 「これ事前の下馬評では溝手さんが優勢で、トップ当選するんじゃないかといわれてましたよね。そして野党共闘で押していた森本さんと河井案里候補のどちらが2位に食い込めるかっていう予想だったわけですよ。

だけどふたを開けてみたら河井さんが溝手さんを抜いて滑り込んだっていう結果を見るとね、選挙プランナー松田馨に聞きたいんですが、やっぱり票は金で買えちゃうの?って思いが強くなるわけですが」

松田 「いろいろ語弊があるかとは思うんですが、やはりお金があれば票を積み増すことはできますよね」

千葉 「ふーん」

松田 「選挙業界では活動量という言葉を使うんですが、たとえばビラを何回も見るとね『単純接触効果』というんですが、何回もその人を見かけると親しみを持つようになったりとか、誰に入れるか決まっていないとき、ふっとビラを何度も見た人の名前が浮かぶというね。

悪名は無名に勝るといいますが、知ってもらうための物量っていうのは、やっぱりお金で買えるというのは事実なんですよね」

千葉 「金額では10倍の差がついているけど、実際の得票差は2万票くらいですよね」

松田 「そうですね、2万5000票くらいかな」

千葉 「これって金額と比例しないっていうか、そんなにお金かけても2万票なんだって感じちゃうんですが」

松田 「それはスタート地点が違うから。スタート地点では溝手さんが大きくリードしていて、河井さんがそのずーっと後ろにいたと。そこで潤沢な選挙資金を使って活動量を増やした結果、最終的に追い抜いて2万5000票差になった。

河井さんは新人なのでね、27万5000票とっているから、この27万5000票を生みだすために1億5000万円使ったということですね」

千葉 「なるほど、そういうことですか」

松田 「活動量というのは実際、候補者本人が動くということももちろんですけど、もうひとつが物量なんです。ビラの枚数とか、今だったらネットの広告なんかもできますし、前回の放送で取り上げた京都市長選の新聞広告とか。あれもお金があったら全面広告にできるし、なんならやろうと思えば毎日広告を打つこともできるわけですよ」

乙武 「資金が無尽蔵にあればね」

公示前ならいくら使って何をしてもいい公選法は矛盾だらけ

松田 「そう。政治活動の自由っていうのが認められてますから、その範囲内であれば。だから告示、公示前の期間は、お金を持っている人が圧倒的に有利なのが現実としてあるんですよ。公選法はおかしいっていうのはそこなんです。

お金をかけないで選挙をできるよういしましょうということで公選法はあって、選挙期間中には厳しい制限があるんだけど、その前の期間には全くなんの制限もないので、仮に公示日の1日前に新聞広告を出しまくったりしても、何の制限もない。おかしいですよ」

乙武 「そのくせ、選挙期間中は事務所に来てくれたお客さんに未開封のペットボトルを出すと、公選法にひっかかる可能性があるとか、そういうくっだらないことを決めてるんだよね。なのに選挙期間中以外はザルってことでしょ?」

松田 「ザルです!(断言)」

乙武 「やっぱ、変えた方がいいよね」

松田 「ほんとうに変えた方がいい。3か月間とかの予備選挙期間などを設けて、そこから選挙期間中までの全部でかかった費用の上限を設定するとか考えないと。選挙にお金がかかりすぎるからっていうので、法改正もしてきているんですけど、現実的には抜け道がありすぎて、結局は資金力がある候補の方が断然有利というのは間違いないんですよ。

今回、問題なのは河井案里さんの陣営が運動員の買収をしていたんじゃないかという非常に強い疑惑を持たれていますよね。その疑惑の原資にこの1億5000万円が入ってると。そしてこの1億5000万円のなかには我々が収めた税金から支出されている政党交付金も入っていることになりますから、やはり問題は根深いと思います」

乙武 「僕がこの番組を通じて、繰り返し伝えていきたいなと思うのは、先日は秋元司議員が逮捕されましたし、下地議員もお金を受け取っていたことを公表しました。ああいうのを見ると『私腹を肥やすために政治家になろうとするんだ』って言われますけど、本当は彼らは私腹を肥やすためにズルしてるんじゃなくて、選挙にお金がかかるからズルしてでもお金を集めようとしているわけですよね。

目的が何であれ、ズルしたらだめというのは絶対なんだけど、もっと選挙にお金がかからない仕組みにしていこうよっていうことは、何度でも言っていきたいなと思います」

松田 「そうですね。もっと選挙ドットコムにもがんばってもらわないとね。みんなが選挙ドットコムを見て、ちゃんと候補者の政策を見比べて選んでくれるようになれば、別にビラ巻いて選挙カー乗ってとかしなくていいですもん。新聞にビラを折り込むとか、ポスティングとか。自分でもすっごく無駄だよなあと思いながら、やらざるを得なくてお金がかかってしまう」

乙武 「やると効果が発揮されちゃうんだよね」

松田 「もちろん、一定の効果はあるわけですよ。だからやる。仕方なく。変えていきたいですよね」

乙武 「この番組も微力ながら、少しでも変わる方向にアシストしていきたいと思っています」

―――――松田さんのこれまで関わった選挙の、お金に関する部分について少しお話しいただけますか? (スタッフ)

松田 「僕はお金のない人からの依頼が多くてですね。少ないお金をどう差配するかってところを相談しながら戦法を決めていくことが多いです。

たとえばビラを作るにしても3回出したいけど、2回しか出せませんと。だったら2回の内容をどういうふうにしたらいいのか、撒く時期はいつにするかってことを一生懸命話し合って考えるんです。あとは献金をどう集めるかということになりますよね。でもそんなに大口の献金は、なかなか集まらないし。

お金がなかったらあとは知恵を出すしかなくて、ボランティアを集めてそのパワーを借りるとか。たとえばビラの場合、ポスティングも業者に全部丸投げすると100万円かかるけど、ポスティングをボランティアでまかなうことができたら、ビラの印刷費40万円で済むとか。そういうのを必死で考えるわけです。

だからもし1億5000万円も選挙資金があったら、ほんとにいろんなことができるなあって夢が広がっちゃう」

乙武 「違反にはならないことでだよね。キャンペーンとか」

千葉 「お金が自由に使えると、いろんなアイディアが実現できるのになーって思っちゃうんですよね、松田さんは」

松田 「でもやっぱりね、1億5000万円の原資になってる政党交付金も問題だと思いますよ。もともとは税金なんだから、こういう事例が出てくると、このへんも改めて考えてほしいなと思っちゃいます」

乙武 「難しいよね、じゃあ企業献金に戻すかっていわれると、また癒着が生まれそうだし。何がベストなのかは非常に難しいので、今後も議論していきたいと思います。というわけで今回は、ここまで!」

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