コントロールが悪いからじゃない? 日ハム有原らパ投手の暴投を徹底検証

日本ハム・有原航平【写真:石川加奈子】

日ハム有原はリーグ最多9暴投を記録したものの、最多勝のタイトルを獲得した

 投手が投じた球を捕手が受け取る。これは野球という競技を進行していく上での原理原則のようなものである。そのため、ボールをそらしてしまう「捕逸」や、制球を乱してしまう「暴投」は走者の進塁を許すプレーとなってしまう。

 言い換えれば、「投手が意図して行う」ことが一切ないのが「暴投」の特徴だ。これを踏まえると、暴投が多い投手はそこに自身の特徴が表れていると推測できる。今回は、2019年のパ・リーグで暴投を多く記録した投手を取り上げ、暴投が記録されたシチュエーションを確認し、その特徴を見ていく。まずは2019年の暴投数ランキングから確認していこう。

【暴投数】
1位:日本ハム・有原航平 9個
2位:西武・松本航    8個
3位:西武・今井達也   7個
3位:西武・高橋光成   7個
5位:日本ハム・上原健太 6個
5位:オリックス・榊原翼 6個
7位:日本ハム・ロドリゲス5個
7位:楽天・石橋良太   5個
7位:ロッテ・種市篤暉  5個

 最多勝に輝いた日本ハムの有原航平投手がリーグ最多の9暴投を記録。2、3位には西武の3投手が並び、それに続いてオリックスの榊原翼投手やロッテの種市篤暉投手といった各チーム期待の先発投手たちが名を連ねた。

「暴投が多い=コントロールが悪い」という印象を受けるかもしれないが、1位の有原は防御率、奪三振数でリーグ2位の好成績を記録しており、一概にそうとも言えないだろう。

 続いて暴投数5位までの投手について、暴投が記録されたシチュエーションの中からいくつかをピックアップし、それぞれの特徴を探っていく。

日ハム有原は勝負球フォークが暴投になるケースが高かった

日本ハム・有原航平(9暴投)

・5月6日ロッテ戦 2回裏1死走者なし 0-2からのフォーク(1個目)

 1死から中村を2球で追い込んだバッテリーは、決め球にフォークを選択。ハーフスイングで空振りを取ったが、捕手・石川亮がこれを捕ることができずに、振り逃げで出塁を許した。

・5月6日ロッテ戦 5回裏2死満塁 0-2からのフォーク(2個目)

 1点差を追いつかれ、なおも2死満塁のピンチを背負った場面。ここでも井上を2球で追い込み、3球目にフォークを選択した。しかし、投球はベースの手前でバウンドしてバックネットまで到達。三塁走者が生還し、痛恨の勝ち越し点を献上した。この打席では、カウント2-2となってからもう1つ暴投を記録。こちらもフォークが外角に外れてのものだった。

・6月7日阪神戦 6回裏2死二、三塁 2-2からのフォーク(5個目)

 2点リードで迎えた6回裏、1死満塁から内野ゴロの間に1点を失い、なおも二、三塁とピンチの場面で代打・原口と相対する。カウント2-2からの5球目にフォークを選択したバッテリーだったが、投球は原口の足元へ。石川亮のブロッキングも及ばず、同点のランナーが生還した。

・9月14日ソフトバンク戦 3回表2死三塁 2-2からのフォーク(9個目)

 今宮の二塁打から2死三塁のピンチを背負い、打席にはデスパイネ。4球で追い込んだが、ここでも5球目に選んだフォークが打席のはるか手前で跳ねてしまい、痛恨の先制点を許してしまった。

 ここで挙げた4つのケースで共通しているのは、いずれも「追い込んでからのフォーク」が暴投になっていること。有原が記録した9つの暴投のうち、6つが追い込んでからであり、すっぽ抜けてコントロールを失ったケースを除くと、実に75%が決め球でのものだった。

 この原因を考えるヒントとなるのが、3年前から4.69→7.08→8.82と向上させ続けている奪三振率。暴投数も2017年が5個、18年は0個だったことから、三振と暴投が関連していると考えられる。暴投の多くがフォークであったことから、この球種のキレが増したことが三振数を向上させ、併せて暴投数の激増へとつながったのではないだろうか。

西武松本航、今井は早いカウント、変化球で暴投を記録した

西武・松本航(8暴投)

・6月2日ロッテ戦 2回裏無死一塁 0-0からのカーブ(2個目)

 2回裏、先頭の4番・井上に安打を浴びて無死一塁となった場面。続く4番・レアードに対して初球に投じたカーブは、外角に大きく外れて左打席でバウンドする。捕手の森がうまく止めたものの、一塁走者の井上が好走塁で二塁へ進んだ。この試合では、5回裏にもカウント1-0からカーブで暴投を記録し、一塁走者の進塁を許した。

・7月7日ロッテ戦 5回裏1死二塁 1-0からのカーブ(5個目)

 1-0とリードして迎えた5回裏、自らの失策で2点を奪われて逆転を許した場面。なおも1死二塁で相対した荻野に対し、カウント1-0から投じたカーブは左打席へ。高く跳ねたボールを捕手の森が見失っている間に二塁走者が進塁した。

・8月19日ソフトバンク戦 4回裏2死三塁 0-1からのスライダー(7個目)

 同点の4回裏、打席に立つ福田に対して初球のカーブでストライクを取ったものの、続く2球目に投じたスライダーが暴投に。打者の足元をすり抜ける間に三塁走者が生還し、痛恨の勝ち越し点を許した。

 松本の暴投に共通していたのは、その多くが「早いカウントで投じられた変化球」であったことだ。有原と相反して、追い込んでから投じられたものは2球のみで、半数は2球目以内のもの。これに加えて直球での暴投はわずかに1つと、はっきりとした特徴が表れている。

 また、暴投を記録した試合は防御率5点台後半となっており、シーズン成績(4.54)と比べて1点以上悪化している。2020年のさらなる飛躍に向け、早いカウントでの変化球の制球が1つの課題となるかもしれない。

西武・今井達也(7暴投)

・4月6日日本ハム戦 5回裏2死二塁 0-1からのカーブ(1個目)

 12点と大量援護に恵まれたこの日。4回まで無失点と好投が続いていたが、5回裏に西川の本塁打などで2点を失う。なおも2死二塁のピンチで横尾を迎える。1球目のカーブでストライクを取ると、2球目にも同じくカーブを選択。しかし、これが打席のはるか前で跳ねてしまい、二塁走者の進塁を許した。

・5月11日日本ハム戦 3回裏1死三塁 3-1からのカーブ(3個目)

 両チーム無得点で迎えた3回裏に先制点を許すと、なおも1死三塁の場面で中田と相対する。カウント3-1となって投じたカーブは、捕手・森のミットが伸ばしたミットのわずかに先でバウンドし、バックネット方向へ。三塁走者が生還し、痛恨の追加点を与えてしまった。

・7月15日ロッテ戦 2回表2死満塁 0-0からのスライダー(6個目)

 4-1と援護点をもらった直後の2回表、1点を失い、さらに2死満塁となった場面。清田に対して、初球にカーブを投じると、外角に大きく外れた投球は左打席で跳ね、森も止めることができず。ボールが高く上がっている間に2人の走者の生還を許し、試合は振り出しに戻った。

 今井の暴投は、松本と同じ「早いカウント」そして「変化球」という特徴があった。7月5日に記録したものがマウンドで転倒したものであったことを踏まえると、変化球での暴投は83%となり、松本よりも顕著な数字となった。

 内訳を見ると、カーブ、スライダー、そしてチェンジアップと3種類の変化球で暴投を記録。チェンジアップでの暴投だけは、カウント2-2と追い込んでからのものだった。カウントを取る変化球、そして三振を取る変化球と使われ方の違いが表れており、それぞれの精度を上げていくことが2020年のテーマになりそうだ。

西武高橋光の暴投も決め球フォークで記録、捕手のブロッキングにも関係?

西武・高橋光成(7暴投)

・3月31日ソフトバンク戦 4回裏2死一塁 1-2からのフォーク(1個目)

 0-0で迎えた4回裏、2死から5番・グラシアルに死球を与えて一塁に走者を背負った。続く内川を3球で追い込むと、バッテリーは4球目にフォークを選択。ボールはわずかに外角へそれたところでバウンドしたものの、ブロッキングが及ばず一塁走者が進塁した。

・4月21日ソフトバンク戦 2回表2死一塁 2-2からのフォーク(3個目)

 上林を2-2と追い込んでからの5球目、決め球にフォークを投じたが、ボールは打者の足元をすり抜けてバックネットまで到達した。この試合では4回表にもフォークで暴投を記録している。

 高橋光の傾向は、最初に紹介した有原と似ている。7暴投のうち4つが打者を追い込んでからのもの、そしてその大半がフォークだった。高橋光の課題も決め球として投じるフォークの制球にあると言えそうだ。

 一方で高橋光の暴投は6月14日を最後に記録されていない。1年を通して投げ抜いたことを踏まえると、課題をクリアして着実にステップを上がっていると考えられる。2020年はさらなる飛躍に期待したいところだ。

日本ハム・上原健太投手(6暴投)

・8月27日西武戦 8回表無死二塁 2-2からのスライダー(5個目)

 2-6と西武に4点のリードを許して迎えた8回表。この回からマウンドに上がった上原は、無死二塁のピンチを背負って秋山(現レッズ)と相対する。2-2と追い込んだが、5球目のスライダーが引っ掛かり、捕手・清水も止めることができず。二塁走者が三塁へ進み、その後の失点につながる痛恨の1球となった。

・8月30日楽天戦 7回裏1死一塁 1-0からのフォーク(6個目)
 
 2-7とリードを許した場面での救援。1死から3番・浅村に安打を許すと、続くブラッシュに対しての2球目、フォークが内角に入り込み、ボールはバックネットへと転がった。

 上原の暴投は、ほとんどが右打者の内角、左打者の外角へ、いわゆる「引っかかる」ボールだった。シーズン序盤には先発、終盤には中継ぎへと役割を変えたが、活躍を狙うポイントとして、この引っかかる投球の改善が1つのカギになりそうだ。

オリックス・榊原翼投手(6暴投)

・5月15日ロッテ戦 1回裏無死二塁 2-2からのフォーク(2個目)

 初回、先頭・荻野の出塁を許し、盗塁でピンチを背負った。続く鈴木(現楽天)を2-2と追い込んでから投じた6球目のフォークは捕手のわずかに手前でバウンドする。ボールは捕手のミットからこぼれ、二塁走者が三塁へ進塁した。

・6月29日西武戦 1回裏無死二塁 1-0からのフォーク(4個目)

 初回から3連打を浴びて2点を失った。無死二塁で迎えた4番・山川に対して2球目に選んだフォークは、捕手のわずかに手前でバウンド。ブロッキングが及ばず暴投となり、走者の進塁を許した。

 榊原の暴投は有原、高橋光と同様にフォークが大半を占めていた。一方で、そのカウントはまちまちで追い込んでからのものは1球のみ、0-1や1-0といった早いカウントからもフォークを投じているのが特徴的だ。

 また、多くの投手の暴投が外角に大きく外れていたり、ベースのはるか手前でバウンドするなど捕球が難しい投球であったのに対し、榊原のものはフォークを正確に止めることができずに暴投となっているケースが多かった。右腕のさらなる進化に向けて、球を受ける捕手のレベルアップも必要になるかもしれない。

 ここまで紹介した6投手に表れているように、一口に「暴投」といってもさまざまなケースが考えられ、それぞれに暴投の特徴があった。投手の力は「三振数」や「防御率」といった数字から測ることが多いと考えられるが、視点を変えて、「暴投」のような普段は話題にならないプレーに目を付けるのも面白い。(「パ・リーグ インサイト」成田康史)

(記事提供:パ・リーグ インサイト)

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