48歳男性が世界で販売のボードゲームを作るまで 「5COLORS」、高松のイラストレーターが大事にした志

 地方から世界に羽ばたくクリエイティブな作品を生み出したい―。高松市のイラストレーター橋口剛志(はしぐち・つよし)さん(48)は数年前から、アトリエでボードゲームを作成している。本場ドイツの展示会に出展し名門レーベルと契約。日本に加え、欧州5カ国語で販売される人気作品を生み出した。「志があれば地方でも世界に通用する作品を作れることを証明したい」と話す橋口さんの挑戦は続く。(共同通信=新為喜詠) 

これまでに発表したボードゲーム作品と写る橋口さん

 橋口さんは2001年にアトリエ「GALLERY OUCHI」を開き、イラストレーターとしての活動を始めた。かわいらしいタッチのイラストが特徴で、個展も開いている。

 橋口さんがボードゲームに興味を持ったのは、1995年ごろ。友人が「スコットランドヤード」というドイツ製の有名なゲームを購入したことがきっかけだった。「日本のすごろくなどのゲームとは全く違っていて、その面白さに衝撃を受けた」と振り返る。

 ただ、その頃はテレビゲームの全盛期。試作品はいくつか作ったが、ボードゲーム作りを仕事にするのは難しすぎると諦めた。再び制作意欲がわいたのは2015年ごろ。ボードゲームの人気が日本でも高まり「ゲームマーケット」という即売会が盛況と聞いた。「せっかくやるのならば、世の中に通用するものを生み出したい」と決意した。

2016年に発表したボードゲーム「腰抜けやろう!!」

 16年には、チキンレースを模したニワトリの絵が印象的な「腰抜けやろう!!」を発表。数字の書かれたカードを札の山から引いて、他の人より点数が高ければ勝ちだが、設定の点数を上回ると逆に点が引かれてしまうルールだ。

 まず、春に東京で開催されたゲームマーケットに出品し、この年の10月には、海外のレーベルと契約を結ぶため、ボードゲームの本場ドイツ西部エッセンの展示会に出展した。だが、興味を示す企業はなく、橋口さんは「惨敗でした」と苦笑いを浮かべる。

2016年10月にドイツ西部エッセンで開かれたボードゲームの展示会(橋口さん提供)

 世の中にはすでに無数の種類のボードゲームが出ており、橋口さんはどうすれば企業の目に留まる作品が作れるのか考えた。まず、新作のゲームがどんどん複雑化していることに気がつき、「逆にシンプルなものを作ってはどうか」とアイデアが浮かんだ。

 他の分野からもトレンドをまねた。当時、インクを打ち合い、色の範囲の広さを競う任天堂のテレビゲーム「スプラトゥーン」が大流行していた。「色が多ければ勝ちというのは分かりやすい」と着想を得て、「5COLORS」という作品を発表した。

日本語に加え、5カ国語で販売されているボードゲーム「5COLORS」

 5色のカードを1枚ずつ出し、一番多い色が得点になる。デザインをシンプルにすることで、年齢を問わず誰でも遊びやすくした。18年のドイツ西部エッセンで海外の大手レーベルからオファーを受け、19年から日本のほか、ドイツ、フランス、英国、スペイン、イタリアで販売されている。

 作品の質を上げるため、友人らをアトリエに招き、テストプレーを欠かさない。香川大大学院1年の我部山喜弘(かべやま・よしひろ)さん(23)もその一人だ。

 夜に集まり、ゲームを楽しみつつ「運の要素をもう少し加えた方がいい」などと話し合いながら改善していく。今考えているのはカジノを舞台にギャングたちが暗躍するという設定のゲーム。用心棒や、賄賂をもらう警察官など、世界観に合わせたキャラクターが登場する。

ボードゲームのテストプレーをする橋口剛志さん(左)と我部山喜弘さん=2019年12月

 「ボードゲームの楽しさは年齢を問わず楽しめ、友達が広がっていくこと」と橋口さん。「5COLORSが注目された分、次回作に期待する人は多くプレッシャーも感じます」と苦笑いを浮かべつつ「世界に通じる作品を生み出したい」と意気込んだ。

 ▽取材後記

 「ただ作るだけではなく、世の中に受け入れられる作品を作りたい」と語る橋口さんからは、制作者としての情熱を感じる。すでに膨大な数の作品が出ている中で、新しいものを出し続けることは、多大な労力を要するだろう。  一方で、橋口さんがボードゲームを遊んでいる時は、本当に楽しそうだ。テストゲームには本当にいろんな人が集まってくる。香川大生、香川に住むアメリカ人の翻訳家、市役所職員…。ボードゲーム自体の魅了もさることながら、橋口さんの人柄が、人を引き寄せるのだと感じた。

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