日本トップへ成長した16歳 躍進の3年間|五輪代表活躍プレイバック・張本智和編

写真:2018年グランドファイナルでの張本智和/提供:ittfworld

「張本と言えばチョレイ」。このイメージが世間に定着してしばらく経った。張本智和(木下グループ)にとって初出場で迎える東京五輪。現在は日本男子内世界ランキング最高位に君臨する。2016年のリオ五輪の時には中学1年だった張本の2017年からの成長を振り返ってみよう。

2017年:13歳、皇帝越え?!

写真:2017世界卓球での張本智和/提供:千葉格/アフロ

前年の世界ジュニア選手権を史上最年少で優勝した張本は一般の部でも順調に成績を残し、多くの最年少記録を塗り替えてきた。その中の1つとして2017年8月のITTFワールドツアーチェコオープンをワールドツアー史上最年少となる13歳で制覇した。その決勝では“皇帝”ティモ・ボル(ドイツ)を4-2で下している。

2017年は、他にも世界卓球デュッセルドルフ大会の2回戦で水谷隼を4-1で下している。この頃から張本は日本の次代を担う選手としての片鱗を見せていた。

2018年:躍進の一年

写真:2018年ジャパンオープンでの張本智和/提供:ittfworld

年明け直後の全日本選手権では男子シングルス・一般の部で過去に9度の優勝経験のある水谷を決勝で4-2で破り、史上最年少優勝を14歳205日で達成した。大会後の水谷は「今日の張本のプレーが特別でない通常通りのものだとしたら何回やっても勝てない」という卓球ファンにとっても印象的なコメントを残すほど、衝撃的なプレーを見せつけた。

また6月のジャパンオープンでは馬龍(マロン・中国)、李尚洙(イサンス・韓国)、張継科(チャンジーカ・中国)と世界のトップ選手を倒して優勝を果たし、北九州で日本のファンを湧かせた。2019年グランドファイナルで準優勝し未だ健在の強さを見せつけた馬龍。ロンドンでは金、リオでは銀を男子シングルスで獲得した張継科。その2人を当時14歳の中学生が倒したと思うと、恐ろしささえ覚える。

写真:2018年グランドファイナルでの張本智和/提供:ittfworld

2018年の張本を語る上で逃すことができないのはITTFワールドツアーグランドファイナルで、ウーゴ・カルデラノ(ブラジル)、林高遠(リンガオユエン・中国)を倒し大会史上最年少優勝記録を塗り替えたことだろう。この結果で日本中に張本智和の名を知らしめることになった。決勝のマッチポイント、チキータで林のフォア側にノータッチでレシーブエースを決めたシーンは記憶に残っている卓球ファンも多いのではないだろうか。

2019年:過酷な五輪代表レース

写真:2019年ブルガリアオープンでの張本智和/提供:ittfworld

昨年は五輪代表レースを戦い抜いた1年だった。結果を見ればシングルス代表に一番乗りだったが、その道のりは決して楽なものではなかったはずだ。

前年末のグランドファイナルを制した結果、2019年1月の世界ランキングは3位という自己最高位かつ、日本男子選手の過去最高位からスタートした。

1月の全日本選手権では準決勝で大島祐哉(木下グループ)に惜敗し、周囲の期待によるプレッシャーを不安視する意見もあった。しかし3月のカタールオープンでは梁靖崑(リャンジンクン・中国)に4-0で完勝するなど海外選手に対してコンスタントに好成績を残した。

その後の4月のアジアカップでは3位決定戦の丹羽孝希(スヴェンソン)との試合では右手の指を痛め一時中断となることもあり、過酷な国際大会の連戦の疲れも見えた。

写真:2019年世界選手権での張本智和/提供:ittfworld

そして、張本には苦い思い出となる世界卓球卓球ブタペスト大会を迎える。組み合わせ抽選会では中国選手にベスト4に入るまで当たらないゾーンに入った。

以前から苦手と言われていたマルコス・フレイタス(ポルトガル)にも快勝し、張本のベスト4入りは確実かのように思われた。しかし4回戦のベスト8決定戦で張本は、当時19歳で世界ランキング157位だった韓国の安宰賢(アンジェヒョン)に2-4で敗れた。試合後のインタビューで高校生になったばかりの15歳は大きな涙を浮かべていた。

しかし、代表レースは待ってはくれなかった。その後も数多くのワールドツアーに参戦した。ブルガリアオープンでは中国の趙子豪(中国)に4-2で勝利し優勝。そして11月のオーストリアオープンの結果をもって五輪シングルス代表が確実となった。

東京で開催されたチームワールドカップでは、難敵リアム・ピッチフォード(イングランド)に予選リーグで敗れるも決勝トーナメントでは11月に惜敗していたドミトリ・オフチャロフ(ドイツ)に勝利し団体戦での活躍も見せている。その後もグランドファイナルに出場し中国の許昕(シュシン)を追い詰める激戦を繰り広げた。

2020年:厳しい年明け。それでも一から

写真:2020年全日本選手権での張本智和/撮影:ラリーズ編集部

そしてやってきた2020年。1月に行われた全日本選手権男子シングルスでは準決勝、決勝と高校生同士の死闘とも呼ぶべき激戦が繰り広げられた。

張本は決勝で宇田幸矢(JOCエリートアカデミー/大原学園)に惜敗した。国内、国外ともに追われる立場となった張本。準優勝には終わったが昨年準決勝で見えた不安に駆られた表情ではなかった。ピンチでも落ち着いた台上技術で切り抜ける場面も多く見られた。2019年の1年間で間違いなく精神的に成長していると言えるだろう。

東京五輪で戦う敵は中国だけではない。この全日本での敗戦は、東京五輪でチャレンジしてくる選手に微塵も油断してはいけないという張本にとって大きな教訓となるはずだ。

最大の敵・中国を倒すには、ここからの約半年での更なる成長が必要となる。天井知らずの16歳の高校生が東京でどこまで登り詰めるのか。目が離せない。

文:P.N 家

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