第106回 アイオワ党員集会

熱気溢れる会場 勝利は誰の手に

2月3日、中西部アイオワ州で、米大統領選挙予備選挙シーズンの訪れを告げる党員集会が開かれた。

投票結果は集計率62%で、ピート・ブティジェッジ前インディアナ州サウスベンド市長が26・9%、バーニー・サンダース上院議員が25・1%、エリザベス・ウォーレン上院議員が18・3%、ジョー・バイデン前副大統領が15・6%だった。

集会に先立ち、州都デモイン近辺で行われたバイデン前副大統領、ウォーレン上院議員、ブティジェッジ氏、実業家のアンドリュー・ヤン氏の集会を取材した。事実上の共和党候補トランプ大統領の集会にも行った。各候補者の特徴が、これでよく分かったので、書き留めておきたい。

まず、バイデン氏(77)の集会には、かなり失望した。白人の中高齢者が多いため、活気や熱気が全くなかった。約100人の報道関係者を抜いたら、会場はスカスカだっただろう。同氏は最初の数分、ワシントンから駆け付けた下院議員や組合の代表などの名前を呼び、感謝を述べたが、長くて間延びした。

しかも、彼は原稿がないと下院議員の名前すら覚えていなかった。演説の間も、何度も演壇の原稿に戻り、下を向いたまま呟いた。声に力強さがなく、よく聞こえなかった。これでは、トランプ氏と一騎打ちのテレビ討論会の際、ダミ声で怒鳴りまくるトランプ氏に対して、かなり見劣りがするだろう。

参加者の活気がほとんどなかった、バイデン氏の集会の様子

これに対し、同じく高齢のサンダース氏(78)は演説の際、手を振り上げて、原稿もなく理路整然と話すことは、テレビ討論会などでも明らかだ。同氏の集会に行ったが、選挙権のないティーンエージャーまでいて、熱気に溢れ、コートを着ていると暑いほどだった。同氏は上院でトランプ氏の弾劾裁判が行われていたため、集会に来ることができなかったが、夕食休憩の際、電話で集会の参加者に話し掛けた。声は力強く、参加者は熱狂していた。

ウォーレン氏(70)は、バイタリティーに満ちていた。手を振り上げ、区切りには片足を前に振り上げる。バランスが取れるということは健康な証拠だ。原稿はもちろんなく、ステージの隅から隅まで歩く。

政策もバイデン氏に比べるとかなり具体的で現実的だ。参加者も子供連れや若者がいて、活気がありながらも和やかだった。彼女の集会は他の候補者と異なり、質疑の時間があり、1人1人に「ハーイ!」と呼び掛けて、細やかに答えていた。

「メイヤー・ピート」と呼ばれるブティジェッジ氏(38)とヤン氏(45)は、若いだけに、単に「打倒トランプ」というだけでなく、もっと米国の将来を見据えている印象を受けた。2人の集会は老若男女取り混ぜ、白人が圧倒的に多いアイオワ州でありながら、アジア系、アフリカ系と、あらゆる人種が集まっていたのも、他の候補者の集会と異なるところだ。

ブティジェッジ氏の集会は参加者約2000人と、トランプ氏の約7600人に次ぐ規模だった。若い人だけでなく、中年・高齢者も真剣なまなざしで彼の演説に聞き入っているのに驚いた。「民主党支持者だけでなく、共和党の人でも、僕の政策の一部に共感してくれたら仲間になってほしい」とインクルーシブな姿勢を示し、人柄がよく出ている集会だった。

ヤン氏の集会はホテルの宴会場だったが、500人ほどが集まり熱気で息苦しいほどだった。同氏が登場する寸前に、消防保安官が現れ、消防法に違反すると注意されて、100人ほどが出された。

同氏は実業家だけあって、まるで起業家が投資家にピッチインを募っているような演説だった。悪い冗談も含めジョークが多いため、「プレジデンシャル」な感じはしないが、若者には「ファニー」だと人気だ。政治経験はないが、将来はこういう候補者が増えるのではないかと思わせた。

最後に、トランプ氏の集会は、会場が大きかったため約7600人が集まり、同氏が登場した際は、歓声で大音響の音楽さえかき消された。集会の規模、熱気、演説の長さにおいて、民主党候補者の誰をもしのいでいた。

予備選挙の後、民主党の大統領候補となる人物が、これほどの熱狂を生むことができるのだろうか。

津山恵子 ジャーナリスト。 「アエラ」などに、ニューヨーク発で、米社会、経済について執筆。 フェイスブックCEO、マーク・ザッカーバーグ氏などに単独インタビュー。 近書に「教育超格差大国アメリカ」(扶桑社)。2014年より長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

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