メクル第434号 見てみて!おしごと 路面電車の運転士・葛島博之さん 安全で快適な運行を

いつも変わらない乗り心地のいい運転を心掛けている葛島さん=長崎市大橋町、浦上車庫

 通勤(つうきん)や通学などで1日あたり約4万6千人が利用する長崎市の路面電車。観光客にとっては、長崎に来て最初に出会う人が運転士かもしれません。多くの人の命を預(あず)かる仕事。3年目となる今でも、毎日緊張感(きんちょうかん)をもって運行しています。

 ◆集中切らさず

 速度調節やブレーキのレバーを操縦(そうじゅう)し、振動(しんどう)や揺(ゆ)れの少ない丁寧(ていねい)な運転を心掛(が)けています。一度乗車したら、電車を降(お)りるまで常(つね)に集中を切らしません。長崎電気軌道(きどう)には約110人の運転士がいますが、何事もなく、無事にお客さまを運ぶことが使命です。
 運行に使っている車両は、1950年に造られた古いものから2019年に製造(せいぞう)された最新のものまで68両。車種は20種以上で、それぞれ速度調節やブレーキの利(き)き方が異(こと)なります。特にブレーキは天候でも変化。雨の降(ふ)り始めや落ち葉などが軌道上にあると、すべりやすくなるため注意が必要です。いつも変わらない乗り心地を大切にしています。
 車掌(しゃしょう)のいないワンマン運転なので、車内アナウンスやドアの開閉(かいへい)、運賃(うんちん)の受け取りなども行います。お年寄(としよ)りや体の不自由な人にも安心してもらえるよう、運行時は車内の鏡などをくまなくチェック。朝、車庫から電車を出す時には点検(てんけん)も欠かしません。

制帽にアナウンスマイクは必需品。速度調節のコントローラーに付けるカバーは自分専用です
早朝、車庫から電車を出す時は点検をします

 ◆冷静な対応(たいおう)

 路面電車は専用(せんよう)の線路を走るJRとは違(ちが)い、車と同じ道路上を走ります。車やバイク、歩行者など、注意しなければいけないことがたくさん。台風などで運行を停止するなど非常事態(ひじょうじたい)が起こることもあります。いつでも人命と安全が最優先(さいゆうせん)。冷静な対応(たいおう)が求められるので、日頃(ひごろ)から研修(けんしゅう)をしたり、先輩(せんぱい)からアドバイスをもらったりしています。
 長崎市は観光地なので、車内が混(こ)み合うことも多いです。観光客にも「長崎に来てよかった」と思ってもらえるよう、分かりやすいアナウンスや笑顔を大切にしています。
 命を預かっているので大変ですが、子どもたちが手を振(ふ)ってくれたり、お客さまに「案内がよかった。ありがとう」と言われたりすると、とてもうれしい。「人の役に立てている」というやりがいがあります。

分かりやすいアナウンスと笑顔を常に意識しています
運転士同士でコミュニケーションも欠かしません

 ◆愛されるように

 長崎市出身。子どもの頃からよく路面電車に乗っていて、運転士の制服(せいふく)や操縦する姿(すがた)にあこがれていました。高校卒業後、愛知県で美容師(びようし)になりましたが、そこでも路面電車が走っていて、「かっこいい」という気持ちが忘(わす)れられませんでした。長崎に帰り、25歳(さい)で長崎電気軌道に入社しました。
 運転士になるため試験勉強を重ね、半年後に国家試験に合格(ごうかく)。約3カ月間の研修を経(へ)て、運転士としてデビューしました。初めて1人で乗務(じょうむ)した時は、手が震(ふる)えるくらい緊張しました。
 運転席から見える、市民会館近くの桜並木(さくらなみき)が満開になる風景が大好きです。路面電車は長崎のまちで開通して100年以上たっていますが、さらに100年走れるよう、市民に愛されるよう、安全で快適(かいてき)な運行に取り組んでいきます。自分がそうだったように、子どもたちにあこがれられる存在(そんざい)になりたいです。

長崎市中心部を走る路面電車。市民には欠かせない存在

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