社説:飼育中止 動物福祉を考える契機に

©株式会社京都新聞社

 ナイルが死んだ。

 京都市動物園(左京区)で、長く飼われていた雄のライオンである。

 国内では最高齢の25歳と10カ月。飼育期間も22年6カ月に及び、国内最長記録を更新中だった。大往生ではないか。

 訃報を聞いたファンが訪れ、展示室前に花を供えた。

 「迫力ある雄たけびが魅力だった」と惜しむ。一方で、先に死んでしまった雌のクリスと仲良く暮らす優しい姿に、心を癒やされた人も多い。

 ナイルの死によって、園からライオンがいなくなった。

 スターが不在のままでは魅力を欠くので、代わりを探すべきだとの声もあろう。

 ところが、ライオンの展示はナイルをもって最後となりそうだ。「動物福祉」の視点から、飼育を中止する方針が示されている。

 京都市動物園は、1903年に開園した。日本で最も歴史のある施設の一つである。

 4年後にはライオンの飼育を始め、国内で初めて繁殖や人工保育に成功した実績を誇る。

 ただ、都心に近い立地状況から、飼育に使える面積が狭いこともあって、近年は動物の種類を絞ってきた。

 今後の園のあり方を見通す新構想案では、すべての動物の命と暮らしに敬意を持って向き合うとする理念と、「動物の福祉に配慮する」などの行動指針が掲げられた。

 衆知を集めた指針に沿って飼育中止となるなら、やむを得ない。とはいえ、この際、動物福祉とは何か、押さえておいた方がよいだろう。

 日本動物福祉協会のホームページによると、「動物が精神的、肉体的に健康で、幸福であり環境とも調和していること」だという。

 その条件として、「飢えと渇き」「痛みや病気」「恐怖や抑圧」などがないこととともに、「正常な行動を表現する自由」の確保が挙げられている。

 野生のライオンは、群れをなして暮らしている。

 アドベンチャーワールド(和歌山県白浜町)からやってきたナイルといえども、雌とペアで生活しているうちはまだしも、1頭となってからは、群れをなすという「正常な行動」ができず、苦しんだかもしれない。

 飼育環境の改善が難しいのなら、代わりのライオンを飼育しても酷なことになろう。同様の理由で市動物園は、飼育中のアカゲザルの群れを最後に、「サル島」を閉鎖する。

 動物福祉の向上を目指すこうした取り組みは、全国の動物園や水族館で進んでいる。

 大阪市の天王寺動物園には、飼育員とは別に「動物専門員」が配置された。

 飼育している動物が幸せな生活を送れるようにするのが役目で、わざわざ餌を探して楽しむ機会を提供するなどの工夫をしている。

 動物福祉の考え方には、畜産や飼育などを容認するものだとの指摘がある。けれども、人と動物が実際に共生していくのに、今後は欠かせない指針となるのではないか。ナイルの残した遺言とも受け止めたい。