メジャーGG賞11度の名手は日本のキャンプをどう見た? DeNA選手には金言授ける

DeNAの春季キャンプで臨時コーチを務めるオマー・ビスケル氏【写真:津高良和】

メジャー生活24年のレジェンド 同郷ラミレス監督を「友人として誇り」

 沖縄・宜野湾で行われているDeNAの春季キャンプ。ウォーミングアップが始まると、ラミレス監督に並んでじっくりと選手たちの姿を観察する人物がいる。今春、DeNAの特別コーチを務めるオマー・ビスケル氏だ。ビスケル氏と言えば、メジャー通算2877安打、404盗塁の成績を誇る俊足巧打、遊撃手としてゴールドグラブ賞を11度獲得した守備の名手。近い将来、殿堂入りが確実と言われるレジェンドだ。

 2000年の日米野球でMLB代表チームの一員として来日。対戦を重ねる中で、日本の野球に大きな興味を抱いたという。「日本ではどんな練習や指導をしているのか、機会があったら見てみたいと思っていたんだ」というビスケル氏に声を掛けたのが、同郷の後輩でもあるラミレス監督だった。

 2012年を最後に24年のメジャー生活にピリオドを打った。この時、45歳。あのイチロー氏も守備と打撃に一目置く人物は、引退後も指導者として引く手あまたで、米タイガースなどでコーチをしたり、ベネズエラ代表監督を務めたり、ユニホームを脱ぐ暇もない。今季からはメキシカンリーグのティファナ・ブルズで監督に就任。指導者としての幅を広げるためにも、異国で奮闘する仲間・ラミレス監督の姿を見ておきたかったという。

「日本の野球を近くから勉強したかったし、アレックス(・ラミレス監督)がどうやって日本の選手とコミュニケーションを取り、チームを1つにまとめているのか、自分の目で確かめてみたかったんだ。彼は通訳を介しながらも、選手にこめまに声を掛けたり、自分の持つ野球観を伝えたり、本当によくやっていると思う。友人として、とても誇らしく思うよ」

「準備を欠かさないこと、頭をフル回転させること。それが野球で1番大切なこと」

 キャンプ初日以来、新たな発見の連続だという。感激したのは「入念にストレッチすること」と「細部を疎かにしない姿勢」だという。第2クール2日目には、特別講師を招いた走塁練習の様子に釘付け。一塁から二塁へ走り出す最初の数歩を繰り返し練習する様子を、しばらく観察していたが、途中からは自ら講師に語りかけたり、スタートを切る体の動きを真似てみたり、探究心の強さが溢れ出た。

 DeNAの選手たちも、この貴重な機会を十分に活用している。ビスケル氏と同じ小兵の内野手・柴田竜拓は、セーフティバントのコツに耳を傾け、マシンに向かって何度も練習を繰り返した。先日行われたミーティングでは、ビスケル氏が語る野球論にチーム全員が聞き入った。その時の様子を「まるでみんなの耳が象のように大きくなったのかと思った(笑)」とビスケル氏が振り返るほど、選手たちの真剣な姿勢が伝わってきたという。

 完全な実力主義。過去の実績があっても今、結果を残せなければ淘汰されるメジャーの世界で、24年という長いキャリアを送った名手は、選手たちに伝えたいメッセージを問われると、こう語り始めた。

「野球は技術も大事だが、準備とメンタルのスポーツだ。プロの世界に足を踏み入れた選手たちは、誰もが高い能力を持っている。それを1軍の舞台で十分に生かせるか。高いパフォーマンスを発揮するためには、トレーニングやストレッチを欠かさず、食事や睡眠にも気を付けながら、体のコンディションを整えることが大切。そして、対戦相手や野球そのものについて自分なりの研究を重ね、情報を入手し、どんな状況にも対応できる引き出しを増やすことも忘れてはいけない。準備を重ねることが自信に繋がり、メンタル面での勝負に勝てることになる。準備を欠かさないこと、頭をフル回転させること。それが野球で1番大切なことだと思うよ」

 限られた期間ではあるが、DeNAの選手たちにとってこれ以上ない学びの場。米球史に残る名手が持つ知識を、貪欲に吸収していきたい。(佐藤直子 / Naoko Sato)

© 株式会社Creative2