【おんなの目】 お隣の家

 我が家は4の5番地。お隣の4の6番地にもうすぐ家が建つ。長く空き地であったお隣にこの春、家が建つ。

 先日、人声や音がするので塀の横から覗いて見たら、地面に白いロープで家の形が描かれていた。誰もいなくなってから、家の中を歩いた。

 4の5番地に我が家を建てた五十年前、4の6番地には橋本さん夫婦がもう二階家を建てて住んでいた。

 西側のここでは、妻の道子さんが大きな工業用ミシンを置いてガーガー音を立てて仕事をしていた。ジーパンのウエスト部分だけ縫っていた。積み重ねられダンボールの箱からジーパンの脚がぶらりぶらり揺れて賑やかだった。白いロープの間取りから想像すると、ここは多分、浴室になる。

 夫の勇吉さんは、二階で音楽を聴いていた。バッハが好みだ。彼に色々な曲を聴かせてもらった。結果、私はバッハより、リストが好きだと知った。“平屋の家”という看板が立っているから新しい家には二階はない。二階がないから今度は何も聞こえてこない。

 庭の池はそのままあった。落ち葉の間から覗いたら、橋本さん夫婦が食事をしていた。勇吉さんは杯を片手にバッハを聴き、道子さんは、金目鯛を食べていた。「あら、お隣さん、どうぞ、どうぞ」。道子さんの可愛い声が聞こえた。

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