一生モノに出合い、歩き出せますように 〜大日向小学校体験記7〜

近谷純子 2020年1月執筆

火をテーマに気球作り

上学年(4〜6年生)2学期最後のワールドオリエンテーションのテーマは「火」だった。保護者のなかにネイチャーガイドという仕事をされている方がいて、その方の手引きで、まずは秋の終わりに火起こしを体験した。

舞錐(まいぎり)式火起こし器というもので火を起こし、起こした火を使って落ち葉で焼き芋をつくって食べる。

それだけでもう、さすが自然のなかでいい体験できてよかったなーと満足して終わってしまいそうだったが、ここから「火」をテーマにワールドオリエンテーションの時間が展開されていった。

火は、なぜ燃やすものによって色が変わるの? 誰がマッチやライターを作ったの? などの問いから、火をめぐるクイズ作り。

そして、火をテーマにどんな活動をしたいか。各自が複数アイデアを書き出す。出たアイデアを見て、自分はどれがやりたいか印をつける。でも、そこでグループリーダー(担任)が一度、話を引き取ったという。

時間を改めて、六つの活動が示された。そこには、先に誰もやりたいとは言わなかったテーマも含まれていたという。そこがおもしろいと思う。なるほど、けっして子どものやりたい放題ではないんだな、と。

1 ものの燃え方を調べる
2 火の力で動くものを作る
3 いろんな色の火を作る
4 燻製を作る
5 舞錐以外の火の起こし方を調べる
6 火でピタゴラスイッチを作る

あっぱれの展開だったと言えるのではないか。火の仕組み、火の熱が生み出す気流、炎色反応、調理、歴史……。子どもたちにはそんなことは微塵も関係ないだろうが、問いを立てる、アイデアを出す、というのはかくも大事で、ここに勝負あり、そんな気がした。

で、そんな私のいやらしい思いはどうでもよくて、子どもたちはほんとうに生き生きと活動したようだ。それはそうだろう。火を扱えば、多少のハプニングが起きることは予想されるし(実際あったと聞いている)、それが大事故でないかぎり、活動の楽しさをいや増すくらいだろう。

「2 火の力で動くものを作る」では、気球作りに挑戦していた。黒いゴミ袋にワイヤーで空き缶をくっつけて、空き缶の中にロウソク。ある日はドライヤーで対流をつくって上昇させてみたり。空き缶からゴミ袋に向かってアルミホイルの筒を作ってみたり。結論は、ロウソクの火で飛ばすにはゴミ袋が大きすぎた、らしい。

好奇心の芽

ワールドオリエンテーションで取り組むテーマは1年間で5〜7くらいになるのだろうか。それを6年間と考えると、学年によってテーマの重なりがどれほどになるかはまだわからないものの、かなりの数のテーマに取り組むことになる。

先に書いたように、親としての期待はふくらむ一方なのも事実だが、6年間のうちに何かひとつ、ほんとうに心からひかれるものに出合えたらならば、それで十分なのかもしれない。すべてのテーマに等しく興味を持ち、素晴らしく気持ちを込めて取り組み、結果を出すなんてことは、いや、自分を思えば、ムリだ。でも、もし一生モノのテーマに小学生時代に出合えるならば、それはうらやましすぎる。

テーマのふくらませ方、展開の仕方については、言語化できるのはあとからで、経験のなかで自然と身につくものなのかもしれない。

プレゼン能力。これこそ個人差も大きいだろうし、よくよく考えれば、優劣が問われるものでもないだろう。そうだ、私は別にうまく世渡りできる術を子どもに授けたいわけじゃないのだし!

こう考えると、なんだろう、手垢のついた言葉が結論になってしまうけれど、「好奇心の芽を伸ばす」こと。それはけっして幼児期だけの話ではなく、小学生時代も。その可能性が、ワールドオリエンテーションのなかにあるといいなと思う。

そしてそれは本来、ワールドオリエンテーションだけに、学校の授業時間だけにかぎることではないのだろうとも思っている。

台風19号で大日向地域が大きな被害を受け、その河川のようすを目の当たりにした息子は、その後、庭に溝(川)を掘り、水を流すということを繰り返していた。授業内容で言えば、5年生の理科に、浸食や堆積といった話が出てくる。改めて5年生の教科書を読んでいた息子は(ちなみに自発的に教科書を読んだのはかつてこの一度だけという希少さ!)、「当たり前のことしか書いてないな。今回は違ったな」とつぶやいていた。そうだ。削られないままの大石が上流から1日で流れつき、ありえないところでとどまり、いまなお川の流れを変えている。

我が子はいま、大切なところにいる。もしかしたら、芽吹きのときなのかもしれない。だというのに、私には手足の出ない分野で、けっこうずっと焦っている。
ごめん、お母さんはうまくアシストできないけれど、あなたのその興味関心の持ち方にはものすごく感心している。それだけは伝えさせてね。

どうか、自分の足で歩いて行けますように。

大日向小学校開校1年目の一保護者の体験記にお付き合いいただき、ありがとうございました。

気球作りのようす。まだまだ初期段階?!

晩秋に撮影した校舎。春からここまで、季節の移りかわりにどれだけ心を動かされたことだろうか。

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