親の喫煙が子供の野球肘の一因に!? 整形外科医「障害からの回復が遅れる原因にも…」

スポーツに与える影響が懸念される喫煙習慣【写真:Getty Images】

野球界では長きに渡って喫煙習慣が“容認”されてきた

 スポーツに対する喫煙の影響については、現在ではほぼ語りつくされた感がある。しかし、少年野球の現場での大人の喫煙は根絶される気配がない。

 喫煙習慣がスポーツに与える影響は非常に大きい。タバコに含まれるニコチンは脳や神経を興奮させる力がある。このために喫煙者は煙草を吸うと頭がすっきりし、仕事に集中できるという。しかし喫煙を習慣的に続けると、ニコチンがないと神経が刺激されず、集中できない体質になっていく。これがいわゆる「ニコチン中毒」という状態だ。

 喫煙習慣がつくと、呼吸器機能が低下し、すぐにバテるようになる。またタバコの煙に含まれる一酸化炭素の影響で、体は常に軽い一酸化炭素中毒状態となる。このため血液循環が悪くなり、体中の組織が酸素欠乏に陥りやすくなる。このため筋肉が疲れやすくなり、瞬発力も低下する。

 さらに、「ニコチン中毒」の状態になると、イライラするため、競技に集中することができなくなる。そしてタバコは傷を修復する回復力も低下させる。トレーニングで筋肉を増強させるときも喫煙者のほうが効率が悪くなることが報告されている。

 野球界は長く喫煙習慣が“容認”されてきた。しかし、アスリートにとってタバコは「百害あって一利なし」だといえるだろう。

受動喫煙は局所の血行障害を起こし、野球肘(離断性骨軟骨炎)につながるとみられている

 さらに喫煙習慣のある親は、わが子に深刻な健康被害を与える可能性がある。火のついたタバコの先からでる煙を「副流煙」という。「副流煙」は、喫煙者が吸い込む煙である「主流煙」よりもニコチン、ナフチルアミン、カドミウム、一酸化炭素など人体に悪い影響を与える物質が数倍~数十倍も多い。

 タバコを吸う人とともに室内にいる子供は「副流煙」と「主流煙」が混ざった煙を吸う。この「受動喫煙」によって、急性肺炎や喘息、気管支炎など呼吸器系の疾患の可能性が高まる。

 小中学生の野球少年の主要な健康被害にはOCD(離断性骨軟骨炎)があるが、最近の研究では、受動喫煙が、OCDを引き起こす原因の一つではないかという説が有力になっている。

 受動喫煙は局所の血行障害を起こすが、これが子供のOCDにつながるとみられているのだ。もちろん、その前提として投球過多などの肘の酷使があるが、同じ程度の酷使であれば、日常的に受動喫煙をしている環境の子供のほうが、OCDを発症しやすいと考えられている。当然、OCDからの回復も、受動喫煙がある環境では遅れると考えられる。

「子供を病院に連れてくる親御さんの中には、待っている間、喫煙スペースで煙草を吸う人がたくさんいます。帰りの自動車の中でもタバコを吸いながら運転する親も多いんです。そのタバコがわが子の肘の障害につながり、障害からの回復が遅れる原因にもなっているのです。それも説明しているのですが、しっかり聞いてもらえなくて」と、ある整形外科医は嘆く。

 少年野球の練習に付き添った保護者が、ネット裏などで煙草を吸いながら談笑しているのは、よく見られる光景だ。また「禁煙」を徹底している少年野球の大会は現在のところほとんどない。ようやく「分煙」が定着し始めたレベルだ。

 野球とタバコの関係は根深い。しかし、これを断ち切らないと、野球の未来はないといえるのではないか。(広尾晃 / Koh Hiroo)

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