ダルビッシュ、大谷翔平に憧れて…巨人サンチェスがMLBでなく日本に求めにきたもの

今季巨人に加入した新助っ人のエンジェル・サンチェス【写真:荒川祐史】

日本のアニメを見て育った幼少時代、叔父はMLBと台湾でプレー

 次々と日本のアニメの名前が口を突いた。「僕は日本のアニメを見て育ったんだ。NARUTO、ドラゴンボール、ワンピース、BLEACH……そういうのを全部見てきた。野球アニメ? それは見ていないかな(笑)」

 ドミニカ共和国出身で巨人新外国人投手のエンジェル・サンチェス投手。最速158キロを誇る30歳の右腕は昨年、韓国プロ野球のSKに所属し、17勝5敗、防御率2・62という好成績を収めた。165イニングで被本塁打はたった2本。低めへの制球力も高く、ゴロを打たせる投球術も持つ。

 韓国では食事などの環境に苦労した時期もあったが、以前から関心のあった日本は自分自身にフィットしているようだ。「食事はいろんな選択肢があるし、チームの方々が栄養やバランスなど話をしてくれている。そういった意味でも(周囲が)自分を大切にしてくれるなと感じています」とスタッフへの感謝を忘れない。

 元々、アジアの野球への抵抗はなかった。サンチェスはダイヤモンドバックスで投手としてプレーしていたヘラルド・グズマン氏を叔父に持つ。通算17登板(10先発)で5勝4敗だったメジャー右腕の影響を大きく受けて、育った。その叔父は台湾プロ野球でもプレーした。

「叔父がプロでプレーしていたので、自然とそういう(プロ選手を目指す)形になりました。(叔父からは)もちろん、時とともに野球は変わる。“なるようになる”という精神で行きなさいというような心得をもらいました」

 好結果を残した韓国球界から、メジャーリーグへの選択はせずに、日本行きを決意した。その理由を知りたかった。

「自分に何か、もうひとつ足りないものがあるとするならば、日本の野球なのかなと思った。韓国でもプレーして、日本でも得られるものがあるんじゃないかなと思っていたんです」

 足りないもの……それは日本人投手の持つ“キレイな真っすぐ”だという。

「MLBで投げている日本人投手のキレイなフォーシーム、ホップするようなストレート、それはとても特徴的で、自分も習得したいと思いました。92や93マイル(140キロ後半台)でも、200マイル(約322キロ)くらいの速さを感じる。どんどん、空振りを取るからすごいなと思います」

 カットボールやツーシームなど、海を渡れば手元で“動くボール”が主流の現状。日本人打者はメジャー移籍後、そのボールの対応に苦労する。それを習得しようとする日本人投手もいる。しかし、サンチェスはあえて日本の良き部分、強みを学びに来た。

「ダルビッシュ有投手、大谷翔平投手もそうです。彼らは変化球も投げるけど、ストレートはスピンの軌道がすごい。勢いと回転のあるストレートだから、高い球が行っても、ポップアップのところがあるため、心配ない。自分の投球の理想像に近いですね」。

 日本の代表的な投手の球を目標にして、そのきっかけを探しにきた。

叔父から学んだ野球技術、祖母から学んだ勉強の大切さ

 小さい頃はバッティングも大好きな野球少年だった。セ・リーグでは打席にも立つため、打つ方にも期待ができるかもしれない。

「捕手と一塁以外は全部、守りました。子供のころは大型遊撃手でしたね。バッティングもよかったですけど、叔父から『投球に専念しろ』と言われて……。当時はまだ体の線が細かったけど球は速かった。叔父さんの前ではピッチング練習ばかりやっていたけど、いなくなったら打つ練習もしていました」

 一方で祖母からは勉強の大切さを学んだ。学びながらプレーする習慣は祖母の教えも影響していた。

「祖母から『野球は永遠に続くものではない。学業をやっていれば、それは永遠に自分につながる』と言われました。学業でやったことは自分にとって残るものだけど、野球はある日、できなくなる時が来る。その時のための“バックアッププラン”を持っていないとだめだよと言われました」。

 野球をやりながら、国立大学のサント・ドミンゴ自治大学に進学し、会計学を学んだ。もちろん、野球が一番だが、広い見識を持って今を生き、将来的には不動産などの投資関係をするつもりだ。「得られたもので若い世代に還元できるようなことをしたいなと思います」と野球少年との未来もしっかりと見据えている。

 クレバーなピッチングを見せてくれそうな助っ投は、日本でも学びの姿勢を貫いていくだろう。かつて、背番号20をつけた外国籍の投手たちの中に成功した選手が多くいる。最近ではスコット・マシソン投手がその一人。彼も日本の野球を受け入れて、巨人の指導者や選手に敬意を持って、練習に取り組んだ。そんな姿勢が成功のキャリアを作った。まだ来日して間もないがサンチェスの目に巨人というチームはどのように映っているのか。

「人の考えを尊重してくれる、思いやりのある人たちが多いかなと思います。チーム関係者、コーチ、チームメート、フロントの人、自分のことをよく見てくれていて、すごく自分を必要な存在として注意深く見てくれています。感謝の気持ちを持って、投げていきたいです」

 エースの菅野智之投手に次ぐローテの柱として期待されている。新たな環境で成功をつかむため、日本への愛と感謝をボールに込めていく。(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)

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