ついに日本上陸、シトロエン・ベルランゴが火をつけた「フレンチMPV」戦争

これまでルノー・カングーしかなかったMPV選びに、強力なライバル、シトロエン・ベルランゴが登場しました。不動の地位を築くカングーを凌ぐ魅力はあるのでしょうか?


選択肢が増えて迷いはさらに深まる

マルチパーパスビークル(以下、MPV)という車の種類分けがあります。読んで字のごとく、多目的に使える車のことですが、その範囲にはミニバンも入れば、SUVやステーションワゴンまで入ると考える場合もあります。ミニバン、SUV、ワゴンなどの利点を、最近の言い方からすればクロスオーバーさせて仕上げたのがMPVと言うことです。総じて背が高く5人から8人程度乗車でき、荷物もたっぷり積める車と考えていいでしょう。例えば輸入車で考えるとメルセデス・ベンツのVクラスも、フォルクスワーゲンのトゥーランもMPVですし、国産では日産のバネットなどが分かりやすいMPVです。

そこで今回試乗したシトロエン・ベルランゴですが、これも同じカテゴリーです。最大のライバルはフランス製MPV、ルノー・カングーです。これまで日本市場ではカングーだけしか購入できなかったのですが、昨年の秋からベルランゴの参入により、賑やかになってきました。さらに言えば、ベルランゴにはプジョー・リフターという兄弟車があるのですが、このリフターも同時に日本上陸を果たしていますから、フランス製MPVの選択枝が一気に3台となったわけです。これまで独占状態だったカングーにしてみれば「なにを今さら」となるかもしれませんが、選ぶ方にとっては選択の幅が広がったので大歓迎です。

さてベルランゴですが現行モデルは3世代目で、ようやく日本導入となりました。このところ好調のプジョーとシトロエンが、日本の250万円から350万円までの、比較的に手頃な輸入MPV市場に新型モデルを投入することで、台数の増大を狙ったわけです。これまで日本では、カングーがコアなファンも含めてしっかりとした市場を地道に築き上げてきましたが、ベルランゴはどんな魅力でその市場を切り崩し、さらには割り増しを狙っていこうというのでしょうか?

荷物を積めば真価を発揮する

日本ではカングー人気は不動のものとなっていますが、本国やヨーロッパではベルランゴの方が1年以上も先に登場した先輩です。ところが先代まで日本には必須とも言われている右ハンドルにAT車というモデルを用意していませんでした。少なくともAT車は欲しいところなのですが、ベルランゴはこの点で日本導入を諦めなければいけなかったわけです。

MPVは総じて背が高く5人から8人乗車でき、荷物もたっぷり詰めるクルマといえます

ところが今回ようやく右ハンドルにATという仕様を送り出すことができ、めでたく日本にも上陸したわけです。

さっそく乗り込んで走り出してみると、日本の道路事情に合っているのと同時に視界の良さが際立ち、とても運転が楽です。おまけに1.5Lディーゼルエンジンのトルクが強いため、カングーより少しだけ大きく重量のあるボディを力不足を感じることなく走らせることができます。一方でカングーのガソリンエンジンは、回転の上昇もスムーズで、ベルランゴより160kgほど軽いボディを軽快に走らせるのです。こちらも悪くないのです。どちらがよりMPVにふさわしいのか? まだディーゼルのベルランゴのロングドライブなどを試していませんから、燃費データがありません。もし燃費が良いというなら、こちらを選択するかもしれません。

ディーゼルの走りも好ましいのですが、さらに注目したのは、乗り心地の良さでした。プジョーとシトロエンのEMP2という骨格(プラットフォーム)は、評判どおりにベルランゴの操縦性の向上に役立っていて、走りはドタバタとすることなく、とても安定感のある走りを実現しています。一方、カングーは中身が少し古く、良く言えば熟成が進んでいるのですが、かっちりとした印象ではありません。慣れ親しんだというか、これまで同様の、フランス車っぽいしなやかな乗り心地の味付けもこれまた悪くないのです。どこか緩い感じがする走り、嫌いではないのですが、けっこう迷いどころです。あえて言うなら、フランス車っぽい走りならカングーかもしれません。

さて両車の走りに関して共通した注意点もあります。どちらも空荷で走ると、低速などで細かい突き上げを感じたり、コトコトといった細かな振動を感じる場面があります。荷物を載せ、人もある程度乗せることを考えると、少しだけサスペンションのセッティングを硬めにするので仕方がありませんが、不快でもありませんから、それほど神経質にならなくてもいいでしょう。ただし、荷物を積み込んで重量が増してくるとベルランゴのトルクの強いディーゼルエンジンの利点が生きてくることは確かだと思います。

物入れ一杯の実用性の高さはベルランゴ有利か

走りを試し、カングーにもベルランゴにも好ましさを感じて、迷いながら室内の物入れなどをチェック。プラスチックっぽさを感じさせるベルランゴのインパネですが、アウトドア的な使いが多くなることを考えると「これで十分」といった印象です。一方、デザインの良さがあり、全体の印象では安っぽさが中和されており、シトロエンらしい先進性のようなものを感じさせる仕上がりになっています。

さらに感心したのは、広くて快適なキャビンの空間が実に使い勝手が良いと言うことです。とくにリアシートが3座独立タイプになっていることや、両側スライドドア、そして独立式ガラスハッチを装備したリアゲートなど使いやすいアイデアが満載でした。もうひとつ、日本車がお得にワンタッチでフルフラット状態にできるシート可倒機構などですが、ベルランゴにもしっかりとそうした機能が備わっていて高い実用性があります。

もちろん先進運転支援機能(ADAS)の面でもアクティブクルーズコントロール(ストップ機能付き)やアクティブセーフティブレーキ、レーンキープアシスト、ブラインドスポットモニターシステム、インテリジェントハイビームなどなど最新の機能となっています。

あとシトロエンらしく、独創性的な装備だと感じたのがパノラミックルーフに収納スペースを融合させた“Modutop”と呼ばれる装備です。フロントルーフに収納トレイを設けたほかに、最大14リットルまでのバッグを収納できるBag in Roof(バッグインルーフ)としてスペースを設定しています。物入れがこれほど充実しているのもベルランゴの特徴といえます。ディーゼルエンジンですが、高速道路ではエンジン音も振動もほとんど感じることなく静々と走り、この室内のゆったりとしたスペースと合わせて実にゆったりとした快適な走りを味わえるのです。

パノラミックルーフに収納スペースを融合させた"Modutop"と呼ばれる装備

このベルランゴ、日本導入に際してのデビューエディションで価格はカングーより60万円余り高額です。装備が充実しているのですから仕方がありませんが、それでもカングーの254.6万円~というリーズナブルなところも嬉しいポイントとなります。結局、アウトドア人間でもない私は最後まで決めきれずにいますが、プジョー・リフターもこの争いに入ってくるわけですから、さらに悩みは深まります。

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