株式投資の候補先選びに「CSR報告書」も参考にすべき理由

企業は業績を改善させて利益を高めないと、投資家の失望を買って株価は下落してしまいます。とはいえ、足元の利益ばかり追求すると、コスト削減のために本来行わなければならない設備投資などが将来に先送りされるかもしれません。もっとひどい場合には、法律などの最低限のルールすら破られる場合もあるかもしれません。

たとえば、過去には従業員が無理な労働を強いられたり、検査偽装を行ったり、会計操作をして利益が出ているように見せたりする事象が発生しました。このようなことをする企業に将来はありません。企業は持続的な成長を目指して行動する必要があります。

また、企業は社会のマナーを守って行動する必要があります。社会の一員としてのルールを守らない企業は、顧客や投資家から排除される可能性があるからです。企業には労働問題、環境問題などの課題を解決する姿勢が求められています。

このような企業や社会が持続的に成長をするための行動を示す国際的な組織が「国連グローバル・コンパクト」です。そして、その実現に向けて努力を継続することを表明する企業が加盟しています。そこで、国連グローバル・コンパクトの加盟企業と株価の関係を調べてみました。


加盟企業には何が求められるのか

企業は中長期的な成長を追求しながら、短期的な利益も確保しなければならないという難しい立場に置かれています。一方、短期的な利益拡大を目指す場合に、企業の努力の方向は見えやすいケースも少なくありません。最も単純な例では、コスト削減です。

ところが、中長期的に社会全体の健全性を高める努力をしながら、持続的に成長するための努力とは、何を目標とし、何を具体的に実践してよいのかを考えると、難しい問題です。たとえばCO2を減らすために植樹をする企業も少なくないですが、いつまでにどんな目標で、それを実現していくべきかを決めるのも難しいでしょう。

国連グローバル・コンパクトは、コフィ―・アナン国連事務総長(当時)が提唱した、持続可能な成長を実現するための枠組み作りに参加する、自発的なイニシアティブです。詳細はグローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパンのウェブサイトにありますが、「人権」「労働」「環境」「腐敗防止」の4分野が活動のテーマとなっています。

この組織に加盟できるのは、これらのテーマの目標作りや積極的な実践に対して、意欲がある企業です。ただし、単純に意欲があれば良いわけでもありません。

署名(加盟)後1年以内に活動報告の第1回目を提出し、以後、1年に1回提出することが求められています。活動報告には

(1)国連グローバル・コンパクト(4分野)の実現への取り組みを継続していくことに対する最高責任者(社長)の支持の表明

(2)企業が実施した、または実施しようとする国連グローバル・コンパクトの実現の具体的な行動

(3)目標をどれくらい満たしているかの測定が書かれていなければなりません。

平たく言えば、具体的な目標、そして実践の経過を明確に示す必要があり、それを社長の責任の下に行っていくということです。こうした長期成長を目指す企業ですから、株式パフォーマンスも期待されるでしょう。

どんな企業姿勢が評価される?

実際の分析は次のように行いました。2012年以降で東証1部企業を対象に毎年1回、9月末時点で取得できる情報を使って、「国連グローバル・コンパクトへの加盟企業」と「それ以外の企業」それぞれの、その後1年間の株式の平均収益率を見ました。

その結果、国連グローバル・コンパクト加盟企業が、それ以外の企業を年間で平均して0.3%程度上回りました。大きな差ではないとはいえ、投資先として考える企業が国連グローバル・コンパクトに署名しているか、チェックしておくことも重要といえそうです。

加盟企業の一覧は英語での表記になってしまいますが、国連グローバル・コンパクトのウェブサイトで確認ができます。

さらにもう一ひねりして、追加の分析をしました。

国連グローバル・コンパクトに「新加盟」か「それ以外」で分類したうえで、その後1年間の株式の平均収益率を見てみました。こちらも2012年以降で平均しています。また同様に、その後3年間の平均収益率も見ています。

【東証1部上場企業で国連グローバル・コンパクトに新加盟した企業のその後の平均株式収益率】

(注)2012年以降、8月末での東証1部企業の国連グローバル・コンパクトに「新加盟」か「それ以外」で分類し、その翌月から1年間と3年間の株式収益率の平均をさらに時系列で直近まで平均。「差」は「新加盟」から「それ以外」を引いて算出 (出所)Bloombergのデータを基にニッセイアセットマネジメント作成

分析結果は「新加盟」のほうが、その1年後、3年後ともに「それ以外」より株価パフォーマンスが上回っています。企業や社会の持続的な成長への意識を強め、その取り組みを示し、具体的に実践し始めたという企業の変化が、市場での評価につながったとみられます。企業を見るうえでは、1年前のCSR報告書などを使って比較することも重要です。

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