上司のダメ出しを減らすには?“物差し”をすり合わせるための6ステップ

ビジネスの現場で起きたさまざまな悩み事に対して、リクルートマネジメントソリューションズでコミュニケーションサイエンスチームのリーダーをしている松木知徳さんがお答えするシリーズ。今回は、転職から半年が経過した30代男性のお悩みに回答します。

【相談者のお悩み】

上司と価値観が合いません。企画会議の時、上司が自分の物差しでしか企画の良し悪しの判断をしてくれず、自分の話に耳を傾けてくれないのです。

また、企画書を作っても、かなり細かい部分まで修正指示があり、いくら説明しても結局は上司の思い通りになるまで企画がゆがめられていきます。結果、修正にも時間がかかり、労働時間がどんどん長くなって疲弊します。

そんなに言うなら、自分の思い通りに勝手にやってくれと嫌気が差し、逃げたくなります。どうすれば上司に変わってもらえるのでしょうか。(20代女性)


意外と多い“物差し”の齟齬

松木:企画作成のノウハウについては、書籍やメディアで取り上げられる機会が多くあります。読者の皆さんも企画検討、資料作成、またはプレゼンテーションについて、方法論を目にしたこともあることでしょう。

相手を想定する、メッセージを明確にする、内容に漏れやダブりがないことなど、企画作成の原則はもちろんあります。しかし、企画作成は人によって物差し(評価基準)が異なることが多いため、自身の大事にする思いやメッセージが上手く伝わらないといった悩みが実は多いのです。

そこで本稿では、上司にも耳を傾け納得してもらえるように、企画を進めるうえで有効なコミュニケーションについて解説します。

ゴールのイメージはなぜ食い違う?

ところで、今回のような相手とのギャップはなぜ生まれるのでしょうか。多くは、コミュニケーションの前提が異なるからです。

誰もが、過去に習得した知識や成功体験などからゴールを想定します。しかし、人によってこれらの前提が異なることで、ゴールイメージに食い違いが発生します。

相談のケースでは、ご自身と上司との間の前提に違いがある可能性が高く、その違いを意識したコミュニケーションをとる必要があります。これが「基準のすり合わせ」です。

ごく簡単に言えば、お互いの物差しが異なることを意識し、イメージを合意しながら進めていく方法です。以下に具体的なステップを確認していきましょう。

まずは過去の事例を振り返ろう

(1)ダメ出しをされた内容から評価基準を想定する

まず、上司にすり合わせを行う前に、これまでどのような時に修正を指示されるのかを思い出してみましょう。改めて振り返ってみると、重視しているポイントが見えてきます。

同じ企画であっても、抜け漏れのない根拠の積み重ねを大事にする人もいれば、新規性のある面白いアイデアが盛り込まれていることを大事にする人もいます。反対に、自分が思いを込めて伝えたいポイントに興味を持ってもらえずにスルーされてしまうこともあります。前提の違いがこのギャップを生んでいるのです。

(2)ゴールイメージを確認・合意する

本格的に企画を作り込む前に、重要なポイントについて上司の意向を聞くとともに、自身の大事にしていることについて意見交換し、成果物のイメージを共有します。

たとえば、「簡潔に」「詳細に」というのがどのレベルのことを指しているのかなど、口頭では確認しづらい場合は、過去の企画書が参考にならないかを確認します。上司の期待や要望を受け止めることで自身の意見も聞き入れてもらいやすくなり、お互いの前提の違いやゴールイメージを確認・合意することが可能となります。

(3)途中経過を報告・確認する

筆者の経験では、このステップが抜けてしまうと、手戻りが発生しやすくなります。合意したことを上司がすべて覚えているわけではありませんし、企画を進めていって初めて気付くこともあります。そのため、当初すり合わせた基準を確認したうえで、このまま進めてよいか、または修正する場合はその方針を相談します。

Quick & Dirtyという言葉があります。本来は「やっつけ仕事」という意味だったのですが、最近では完成する前に出して改善しながら進める方法にも使われるようになりました。

第三者の意見も参考にしよう

(4)修正案を提出する

早い段階でフィードバックをもらえれば、手戻りも少なくて済みます。修正案を出す時は、前回合意した修正方針を受けて何が改善されたのかを説明し、互いの合意したイメージに近づいたのかを確認します。

意識してこのやり取りを重ねることで、「伝えたことを反映してくれている」という安心感を相手に与える効果もあります。また、修正事項が記録として残っていくことで、何が企画のポイントになるのか、お互いの物差しが次第に明確になります。

(5)第三者の意見を獲得する

いよいよ、企画案が完成に近づいてきました。これまで上司とのすり合わせをしているため、期限直前で大きな修正を求められる可能性も少なくなっているはずです。

ここからさらに企画をブラッシュアップし、自身の思いを伝えるために、その領域の専門家や顧客の意見などのフィードバックを受けることをおすすめします。上司と自分の間では見えなかった抜け漏れを回避するだけでなく、第三者の意見を踏まえることで説得力が増し、自信をもって提案ができるようになります。

(6)成果物の振り返りをする

企画案が完成したら、今までのダメ出しを受けた企画と完成した企画を比較し、何が改善されたのか、上司・自分の大事にするポイントの違いや、それを両立させた方法について振り返ります。

また、今後に向けたアドバイスなど、上司から事後のフィードバックをもらうのも非常に有効です。企画の成功・失敗に関わらず、振り返りを行うことで、次回の企画の精度やスピードがレベルアップします。上司も企画の不備に対する指摘ではなく、支援的なスタンスで話に耳を傾けてくれるようになるはずです。

6つのステップは日常の業務にも生かせる

ここまで、上司への企画案についての基準のすり合わせをテーマに、6つのステップを確認してきました。自分の基準で検討し、企画が詰まった段階で報告し、直前で大きな修正指示を受けるのは避けたいものです。

しかし、上記の6つのステップを踏むことで、無用な手戻りを回避した効率的な取り組みを行うことができます。このステップは対上司のみならず、対顧客への提案や部門間でのプロジェクト運営においても活用することが可能です。

今回はメンバーの上司に対する対応ですが、上司にとっても基準のすり合わせは役立ちます。メンバーに同じ指摘をしても改善されないと感じる時は、お互いの前提の違いを意識し、ゴールイメージのすり合わせと途中経過の確認をおすすめめします。

これにより、メンバーの納得も得られ、期限終了間際に慌てるケースが減少します。また、改善された点をメンバーにフィードバックをすることで、メンバー自身が成長実感や効力感を得るとともに、次の業務のクオリティの向上につながるナレッジの蓄積にもなるのです。

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