乗客のみなさんのお気持ちは計り知れません
一向に収まらないどころか、確実に広がり続ける新型コロナウイルス。
クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の乗客が2月12日までに大阪市のNPO法人を通じて厚生労働相や防災担当相宛に要望書を提出した…と『共同通信』が報じて新聞各紙が続きました。その第一報の記事の見出し『全員検査し「無菌保証を」』がそのまま伝搬したことから、「無菌保証」がツイッターのトレンドにも登場して、「何様? そんなの不可能でしょ?」などとネットを中心に乗客へのバッシングが沸き上がっています。
長期にわたり船内に留められて疲労困憊の乗客は、感染の有無にかかわらず、本来「被害者」でしょう。しかし、その人たちに対してネットでは辛辣な意見が続々と並び始めました。
「無菌保証なんて不可能、保証も補償もない」
「無菌ということがそもそもありえない」
さらに、ワイドショーを通じて乗客の切羽詰まった怒り交じりの肉声が届けられると、
「手厚く報じられすぎて“被害者様”になってる」
「入国していない以上、そこはまだ外国」
「守られるべきは、まず国内にいる日本国民」
などなど、無慈悲な言葉が噴出しています。ただ、自由を奪われた乗客の精神状態が良いわけはなく、文句の一つもいいたくなるのが当然なような気もしますが…。
そんな被害者へのバッシングの引き金の一つとなったのが「無菌保証」というワードです。
確かに文字通りに「無菌を保証する」なんてことは不可能です。しかし、第一報の記事で『共同通信』自身が書いていますが、その要望書の内容はこうです。
「乗客全員の不安や、下船後の周囲の不安をなくすため、『保菌者』でないことの保証が欲しい」「保菌が疑われる乗員もケアされるべき」…です。
これだけ読めば、「乗客乗員にかかわらず、検疫によって“陰性”だった場合の証明書。つまり『新型コロナウイルスの保菌者ではない証明』」といった意味に受け取れます。
しかし、『共同通信』はそれを思いっきり縮めて「無菌保証」と見出しにつけました。これでは、まるで「一切の菌やウイルスが無いことの保証」だと一瞬思ってしまいます。記事本文を読めば勘違いだと分かりますが、ネットニュースでは見出しだけ見る人が多く、キャッチ―な言葉だけが独り歩きします。
もちろん、現在は「一度陰性だった後に陽性の結果に変わった」例外的なケースも登場して、要望書にある「保菌者ではない証明」さえ無理になってしまいました(乗客がこの要望書を提出した時点では、そんな例外的なケースは出ていませんでした)。
このように、仮にも事実を伝えるべきマスコミが担保するべき言葉の意味を乱暴に変えると、そもそもの第一報から真意がズレて世論はミスリードされ、不毛な争いが生まれることになるのです。(文◎編集部)