鎌倉インテル、夢のスタジアム構想とともに描く「鎌倉モデル」と「国際化」

古都・鎌倉に生まれた国際型サッカークラブ「鎌倉インターナショナルFC」。通称、鎌倉インテル。

Qoly×サカつくによる「リアルサカつく」紹介企画、第3弾では『サカつく』のプロデューサーである宮崎伸周氏とともにこのクラブを直撃した。

クラブの代表を務める四方(よも)健太郎氏へのインタビュー、後編は彼らが抱くスタジアム構想、そしてクラブが掲げる『徹頭徹尾国際化を意識したサッカークラブ』を中心にお届けする(前編はこちら)。

ちなみに、この後編はスタジアム構想の舞台である深沢を視察した後に行ったインタビューとなる。

※湘南モノレール・湘南深沢駅より撮影

(取材日:2019年11月5日)

タンピネス・ハブの衝撃

――深沢、実際に見るとあの空き地のインパクトは凄かったです。四方さんにとって「スタジアム」ってどんな場所でしょう?

個人的には、サッカーについてはその試合そのものよりも、取り巻く環境や駅からスタジアムまでの道のりでの様子とか、そういった周辺文化のほうに興味があるんです。

なので、スタジアムはその集合体みたいなものだと感じています。ソフトを支える箱。サッカー文化を支えるインフラ、ですかね。

――シンガポールのタンピネス・ハブを見た衝撃はやはり大きかったですか?

複合型スタジアムは今でこそ「ボールパーク」などが話題になりますが、タンピネス・ハブはそれがあのコンパクトなサイズでできている。席が5,000席しかなく人工芝。

ただ、365日24時間オープンで、グラウンドは一般の市民にも開放されていて出入りも自由。子供たちが遊んでいることもあります。人工芝なのでライブに使おうが何らかのイベントに使おうが何でもOKなんです。

日本の天然芝の競技場は子供がスニーカーで入ることもダメなところが多いですし、トップアスリート優先になっているところが多いです。正直そこはあまりピンと来ないところもあるんですよね。どちらが良い悪いではなく、実用性を考えれば別の形はあっていいんじゃないかと。

人工芝はまだJリーグでは認められておらず、とはいえ札幌ドームの可動スライド式グラウンドはスペースの問題が難しい。

そうしたなか、最近昇降式というのが出てきました。技術的にはピッチを上に上げて屋根にしてしまうことができるんですよね。そこに人工芝ピッチが床から登場する、というのもありなんじゃないかと。

さらには、そうするとスタジアムはアリーナと化し、コンサートやインドアスポーツを併用することが可能となり、しかも全天候型。こちらにも注目しています。

※国内では横河システム建築が開発中。既存スタジアムへの増設方法も紹介されている。

――タンピネス・ハブは街の中でどういった位置づけなんですか?

複合商業型というと分かりやすいですが、タンピネス・ハブの場合にはあまり商業第一といった色はなく、市民の憩いの場、コミュニティが創られる場、といった感じです。

駅から10分くらいのところにあるんですが、その手前、駅直結のところには本格的なショッピングモールがいくつかあります。そこは既存の消費社会の象徴的な形のモールなので、そことは棲み分けをしています。

タンピネス・ハブの中には、庶民の屋台村やカルチャー施設、幼稚園などがあって、「人々が集まるって価値が生まれること」をゴールにしているような施設ですね。

壮大な社会実験場「鎌倉モデル」

――シンガポールはナショナルスタジアムのスポーツ・ハブなど「ハブ」と付いているスタジアムが多いですね。世界的に珍しいです。

オフィシャルにはタンピネス・ハブを誰もスタジアムとは呼んでいないんです。作った人も呼んでいない。タンピネス・ハブという建物で、グラウンドのところは「タウンスクエア」という名が付いています。

というのも、観るスポーツとして国内のサッカーはそれほど人気がありません。多くの人がプレミアリーグなどをテレビで観戦します。タンピネス・ハブも通常入っても2,000人くらい。サッカー関係で一番入ったのが昨年のCL決勝、夜中にパブリックビューイングが行われ、5,000人フルハウスになりました(笑)。

吹き抜けのショッピングモールにはオーロラビジョンがあり、無料の映画放送を毎日やっていておじいちゃんおばあちゃんが日がな一日それを観ていたりします。

そうやって人が集まる、という意味合いで「ハブ」と名付けられているのだと思っています。

――タンピネス・ハブ的スタジアムを日本で作る上で注意した方がいい点はありますか?

外観で言うと、センセーショナルな面白さというか象徴的なものである方がいいのではないかと思います。

それと、鎌倉の場合はほぼ民間の土地なので経済的な合理性がないと結局できません。誰かが損を被る形は持続性に欠けてしまいますし、シンガポールの場合は政府主導で推し進めればできちゃう国なのですが、日本でそれと同じようにやるのは難しいんじゃないかと思います。

日本ならボールパーク的なもので商業ベースにもしっかり乗るものになるでしょうね。

一方で、神奈川県と鎌倉市はSDGs、Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)にコミットしている都市なので、SDGsに即した開発であるとすれば関心を集めるかもしれません。

個人的には、壮大な社会実験場にしたらいいんじゃないかと思っています。広大な土地があって、企業誘致と口で言うのは簡単ですが、何らかの産業集積をしなくてはいけません。

たとえば高齢化の日本が最先端を走っているヘルスケアはグローバルにも繋がる産業ですし、東京や世界から資本を呼び込み、一緒になってあの30万平米の街づくりをやっていく。そしてそのモデルを海外ないし国内の他の自治体に売り込んでいく。

シンガポールと同じく内需よりは外需の視点です。観光などで外国人もたくさん来るわけですし、国内外の外の世界とももっと繋がっていき発展していける方法があるのではないかと考えています。

サッカーやスポーツという魅力あるコンテンツをコアにして、そして特徴的、象徴的なデザインのインフラを作ることで、市内外の枠を越えて、さらには国内外の枠も飛び越え、世界中からヒト・モノ・カネ・情報が集まるハブとなる。

そこをイノベーティブな社会実験・R&Dのフィールドとして活用し、付加価値の高い製品やサービス、仕組み、人材を創り出して、今度は世界へ輸出、輩出していく。

鎌倉市や神奈川県ならではの、サステナビリティやウェルネスが軸になると思います。こんなことを「鎌倉モデル」として世の中に提唱していければと思っています。

国際化=“ドキドキ”と“ワクワク”

――クラブのモットーとして掲げる『徹頭徹尾国際化を意識したサッカークラブ』とは、具体的にどういうことでしょうか?

言葉にすると安っぽくも聞こえてしまうので気を付けなくてはいけないのですが、チャレンジや挑戦するマインドを大切にするコミュニティにしたい、それを体現するチーム、クラブでありたい、と思っています。

僕は「失敗」と「成功」を“ドキドキ”と“ワクワク”という言い方をしています。成功したいんだけどリスクはゼロではない。もちろん誰しも人間なので失敗はしたくない。

でも、その“ドキドキ”、失敗の可能性があるがゆえにチャレンジ、挑戦をしない。その上、失敗した人を叩く文化、出る杭は打たれるみたいなのが日本はどうも蔓延しているなぁと思っていて。

僕が普段いる世界では、出てからが勝負、杭はそもそも出ているものなんです(笑)。

以前、面白いことを言っていた仲間がいました。出る杭は打たれるかもしれないけど、出すぎた杭は打たれない、と。叩かれるからチャレンジしない。でもチャレンジをしなかったら、買わなければ当たらない宝くじと同じで成功もないんですよね。

日本でもチャレンジする人を紹介したテレビ番組などは人気じゃないですか。自分の友達がチャレンジしていたら応援する人も多いと思います。

であれば、「失敗を恐れず、チャレンジするのを厭わない」という人がもっとたくさん増えてほしい。そんな世の中になってきたら、日本はすごく面白くなるんじゃないかと僕は思っています。

そんなリスクを省みずに挑むことを支えてくれるのは自分の周りにいて応援してくれる仲間だったりするので、「チャレンジすることを称え合うコミュニティ」を作れたらいいなと。

鎌倉インテルそのものだって、僕自身、最大のチャレンジだと思っています。どうせできないっこないみたいな話を、どうやって実現していくか。「これができたら何だってできるよ」とうちの選手にも言っています。

限界を越えて、安住の地を飛び出したところ、つまり新たなチャレンジの先に、新しい成功や付加価値が待っている。インターナショナルFCという名前や、徹頭徹尾国際化、というのはそういう意味合いで付けられています。

僕が従事しているグローバル人材育成のプログラムでは、世界で活躍するための「グローバルマインドセット」として7つの要素(※下記)を定義しています。鎌倉インテルを取り巻くコミュニティではこの要素を大切にしていきたいと思っています。

  • 主体性
  • 突破力、実行力
  • 非言語コミュニケーション力
  • パッション
  • 状況対応力
  • メンタルタフネス
  • どこでもやっていける自信

言葉で言うのは簡単ですが、これをサッカーで表現するというのがどういうことなのか、今年1年かけて開発しようと思っています。

クラブの出発点がこういったところにあるクラブもあって良いと思うんです。大上段に普遍的なビジョンがあって、なりたい像があり、サッカーの競技面に結びつくのはその次あたりで。

僕は、三菱養和SCのOBにお会いする機会が結構あるのですが、皆さんかなりしっかりとされていてすごく尊敬できる方が多いんです。ひも解いていくと、母体となっている三菱グループの存在が大きいんじゃないかと。

大きなビジョンがあり、クラブがきちんとした人間教育をされているのではないでしょうか。ああいった形も一つのモデルかなと思っています。

――Jリーグを目指すクラブは全国にたくさんある上、神奈川県にはすでに6つもJクラブがあります。今から上がっていくには他との差別化が非常に重要だと思いますが、鎌倉インテルが一番強調したい点はどこですか?

人間が立派になるというか、関わる人の可能性が広がるクラブ、ですかね。

インターナショナル、国際的なと言っていますが、いろんなことを始めてみると結局、“国際”とか“グローバル”は日本人がパッと苦手だと思うものの代表格なんです。

それは企業の人材育成をしていても一緒で、自分の中で不可能だと決めつけてしまっているストッパーのようなものを外せるようになるマインドの変化と、あとは人間ネットワークができる、スキルが身につくといったことじゃないかなと思います。

同じ価値観の人間関係は会った瞬間に「紹介しますよ!」みたいにどんどん世界が広がっていくことができますし、「あの人がやれているなら自分も!」と感じるようなマインドの変化ことかもしれない。

鎌倉インテルに入ると、たとえば世界的な繋がりができるかもしれないし、先輩たちがあれでやれているんだからとか、僕のことですが、あのオーナーの人、テニス部だけどサッカークラブを作っちゃったから自分も何でもできるかもしれないと感じるかもしれません(笑)。

できないと思っていたら絶対にできません。できると思って多分できないというのがほとんどですけど、やっぱりできると思わないことにはできないですから。「インターナショナル」という言葉には、一つの言葉である以上にそういうふうに感じています。

(クラブのフラッグを指差し)『FOOTBALL UNITES THE WORLD』は世界一蹴の旅をしていたときから使っていた言葉です。「フットボールが世界を繋ぐ」といった意味合いなんですが、このワールドには二つの意味があるかなと思っています。いわゆる日本だ海外だという世界。それともう一つは、社会みたいな意味合いです。

このクラブを作ったことで様々な人が繋がるようになりました。高校生とおじいちゃん、あるいは僕のようにシンガポールにいる人と鎌倉の人が繋がることもあります。こういったことが本当にたくさん起こるんです。

社会的にスポーツやサッカーはもっと価値があると認められて良いと思うのですが、そこの定量化した数字がなかなか世の中にはない。

これが社会的にどれだけ意義があるか、お金以外の価値が今後一つの指標として生まれてくるとまた違ったものになってくるはずです。ただその辺りは今のサッカー界が得意としていない分野なんじゃないかとも思っています。

環境とか社会に対し、スポーツクラブがこれだけ貢献していると数値化できれば、自治体や企業などもサポートがしやすくなります。そういったことに対して、僕たちがやれることの使命感はありますね。

スポーツやサッカーにはもっと価値があるんじゃないか―。少なくとも僕はサッカーで自分の世界が広がったと感じています。

――宮崎さん(※『サカつく』の宮崎伸周プロデューサー)、他に何か気になることはありますか?

宮崎:そうですね。現場でいろいろ伺ってお腹いっぱいになっちゃったんですが(笑)、Jリーグでアジアに目を向けているクラブは多く、アルビレックス新潟のように具体的に進出しているクラブもあります。鎌倉インテルとしても土台が出来上がったらそういったことは考えているんですか?

四方:シンガポールで手伝っているゲイラン・インターナショナルFCというクラブがあって、鎌倉インテルも実は名前はそこからインスパイアされた部分があります。

だから、インテル・グループみたいなのがあっても面白いかなとはちょっと思っていますね。イタリアの本家インテル、ブラジルのインテルナシオナウ、そしてデイヴィッド・ベッカムがアメリカで作ったインテル・マイアミ(笑)。「鎌倉」という名前を冠したクラブチームを海外に持とう、というのはあまり考えてませんね。

バルセロナみたいに観光都市として国際的に戦えるだけのブランドが鎌倉にはあると思うので、そこに面白い、強いサッカーチームがあっても何ら不思議ではありません。

ただ一方で、今後コンテンツがどのような価値を持っていくかと考えると、“リアル”という場に本当に5万人のスタジアムが必要なのかと思うこともあります。5,000席しかないけどそこにすごくプレミアムな、10倍の価値があるものがあり、それ以外の人は全部オンラインという世界も存在しうるじゃないかと。

オンラインにも会員しか見られない価値のあるコンテンツがあって、それを世界の60億人に向けて売る。そのほうが、たとえば席数が30,000席なのか25,000席なのか議論して、結果として席のチケットを売るのが大変みたいなことよりも良いのでは、とも思います。

今後はリアルとバーチャルの差が薄まり、ホームタウンという概念も徐々になくなっていくかもしれません。だからこそ、物理的にスタジアムに足を運ぶことに価値が出てきて、値段も上げられる。そういう意味でも、スタジアムが象徴的な形をしている、“映える”ことは大事だと思います。

宮崎:深沢の地で考えると、スタジアムという箱の中だけで完結するわけではなく、あの広さであれば様々な組み合わせができるじゃないですか。そうなってくると、スタジアムの動線も含めて体験ができるからかなり面白いことができるのかなと。

仮に新駅(※深沢からほど近い場所に設置が検討されているJR東海道線の「村岡新駅」)ができれば、駅からスタジアムまで“10分の体験”として、真新しい、面白いことができるんじゃないかと思いました。

――四方さん、最後に言い残したことがあればどうぞ!

鎌倉インテルでは「仲間」を募集しています。スポンサー、投資家、パートナー。呼び方は色々ありますが、お金を出していただける方、あるいはプレーをしたいという選手、クラブづくりに力を貸してくれるインターン生なども常に募集しています。

まだまだないものだらけなので何でもご連絡ください。一緒に夢を見ましょう!

――本日はありがとうございました!

鎌倉インテルでは1月に昨シーズン所属していた2人の選手がそれぞれカンボジア、オーストラリアへ移籍し、プロ選手としての契約を締結。

また2月10日には、相澤祥太のJ3ロアッソ熊本への移籍が発表された。神奈川県2部からのJリーグ入りは異例のことだ。

さらに、来年2021シーズンからは、アルゼンチンの監督養成学校に在籍する河内一馬氏が監督に就任することも発表されている。

南米で最高位の指導者ライセンス「CONMEBOL PRO」を取得する見込みの河内氏。CBO(Chief Branding Officer)も兼務し、インターナショナルなクラブの“色”をさらに濃厚なものにしていくことが期待される。

ビジョンから生まれたクラブ、“ビジョナリークラブ”として地域に根差しながら独自の道を進む鎌倉インテル。まさに「リアルサカつく」である彼らの今後の歩みに大いに注目していきたい。

『プロサッカークラブをつくろう! ロード・トゥ・ワールド』は、セガの大人気サッカーゲーム「サカつく」の面白さをスマートフォン向けに再現。

クラブ運営や選手育成・補強、手に汗にぎる試合展開などを手軽に楽しめます。

プレイヤーは自分だけのオリジナルクラブの全権監督となり、クラブを育て、選手をスカウト。そして、育てた選手とともに世界の頂点を目指します。

■公式サイト:https://sakatsuku-rtw.sega.com/
■公式Twitter:https://twitter.com/sakatsuku_com

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