<レスリング>【特集】グレコローマン最年少全日本王者のアジア挑戦、3位の壁を破れるか…男子グレコローマン72kg級・日下尚(日体大)

日下尚(日体大)

 グレコローマンへ取り組む年齢が早くなっている時代を反映し、今月18日(火)から始まるアジア選手権(インド・ニューデリー)に19歳の選手が出場する。昨年12月の全日本選手権で、44年ぶりに最年少グレコローマン王者記録を更新した72kg級の日下尚(日体大=大会時19歳0ヶ月22日、関連記事)。

 シニアの国際大会は初めて。未知の分野への挑戦に「気持ちは高まっています。ワクワク、というか、いいコンディションを作れています」と言う。挑戦するだけでなく、「メダルを持って帰ってきたい」と口にした。

 2018・19年と2年連続でアジア・ジュニア選手権の銅メダルを取っている。しかし、「ジュニアとシニアは違います」と言う。昨年9月に、ターゲット選手の外国合宿でカザフスタンへ向かい、世界選手権を観戦した。外国選手と練習する機会はなかったが、出場していたジュニアでのチャンピオンが手も足も出ずにやられていたシーンを目にし、「アジア(ジュニア)の3位では」-。

昨年6月、井上智裕を破って、まず全日本選抜選手権のグレコローマン最年少王者へ=撮影・矢吹建夫

 昨年6月の全日本選抜選手権では、オリンピアンの井上智裕(FUJIOH)を破って、これまたグレコローマン最年少優勝記録(18歳6ヶ月19日)を更新しているが、「練習では、下の階級の選手にもやられているんです」と話す。たまたまの優勝であって、真のチャンピオンという気持ちにはなれないようだ。

 コーチからは「チャンピオンとしての自覚がなさすぎる」とも言われるそうだ。勝ったことでいい気になっては困るが、「プライドをもって、負けないという気持ちを前面に出して闘いたい」と気合を入れる。

小学生の時からグレコローマンの技術を学ぶ

 香川・高松クラブで3歳から始めたレスリング。目立った成績は小学校6年生の時の全国少年少女選手権3位くらいで、中学でも全国3位入賞ははるか上だった。台頭してきたのは、高校2年生(2017年)のJOC杯カデットのグレコローマン76kg級優勝であり、世界カデット選手権同級5位。翌年もグレコローマンでアジア・ジュニア選手権3位、全国高校グレコローマン選手権と国体で優勝と、グレコローマンをやるようになってから実力が開花した形だ。

高校3年生(2018年)の全国高校生グレコローマン選手権で優勝(左から2人目)、長い下積みが花開いた

 小中学校でグレコローマンの試合はないが、高松北高校の監督で、一貫強化として小学校から指導を受けてきた竹下敬監督がグレコローマンの選手だったこともあり、グレコローマンの技術や闘いは小学校から学んでいたという。同監督の方針で相撲も並行してやっていて大会にも出ており、「足腰が強化されて、それが(グレコローマンに)役立ったのかもしれません」と言う。

 インターハイは2度ともベスト8。必然的にグレコローマンの道へ進むことになった。高校最後の年の全日本選手権では、グレコローマン72kg級に出場して3位に入賞。同年は他に2人の高校生メダリストがいたが(55kg級・松井謙=2位、60kg級・曽我部京太郎=3位)、高校生でメダルを手にしたのは2013年の文田健一郎以来の快挙。

「年齢は関係ない。若くても、頑張れば世界で勝てる」

 準決勝は井上智裕に0-5の敗戦だったが、「オリンピックで5位になった人と0-5の試合ができたことは大きいことでした。この3位は自信にはなりました」。しかし、その自信は日体大に進んで、あっけなく崩れた。下の階級の選手にもボコボコにされる毎日。「本当に全日本の3位だったのかな…」と、自分の成績が信じられなくなるほどだったようだ。

アジア選手権に向け、全日本合宿で練習する日下尚

 それでも、「同学年の選手には負けたくない」という気持ちは持ち続けていた。全日本選手権では、フリースタイル61kg級にエントリーした同期の榊流斗(山梨学院大)が優勝すると思っていて、後れを取りたくなかった。他競技を見渡してみると、柔道でも19歳で世界チャンピオンが生まれており、「年齢は関係ない。若くても、頑張れば世界で勝てる」と自分に言い聞かせていた。

 グレコローマン最年少王者のことは知らなかったそうで、「おまけかな」と笑う。真価が問われるのは、これから。今回のアジア選手権は、いきなり「優勝」とは言えないものの、「出るだけではなく、最低でも表彰台」を目標として臨む。2度のアジア・ジュニア選手権で、ともに3位に入っていることもあり、メダルは逃したくないようだ。「3位どまりをジンクスにすることなく、2位、1位と行きたいです」とも言う。

 2018年のアジア・ジュニア選手権は、今回と同じニューデリーでの開催だった。「自信をつけた大会であり、記憶に残る地です。もう一度、記憶に残る試合をしたいですね」。グレコローマン最年少全日本王者が、思い出の地でどんな可能性を見せてくれるか。

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