新型コロナウイルス“後”の株式市場で日本株が最も期待できないワケ

新型コロナウイルスへの懸念で1月後半に下落した米国の株式市場は、2月初旬から反転。S&P500などの主要株価指数は2月5日以降、再び最高値を更新しています。

確かに、新型コロナウイルスの感染拡大は中国・湖北省を中心に1,000名以上の死者をもたらす惨事となっています。しかし一方で、2月から感染者数の拡大ペースが落ち着いたほか、通常のインフルエンザと同様の致死率であるとの認識が広まりました。

足元の株価反発の主因は、新型コロナウイルスによって、少なくとも米国経済が受ける悪影響が限定的との見方が金融市場で広がったことでしょう。ただ2月13日に、中国で公表されていた感染者数の公表対象の基準が変わり、累計の感染者数は1万人以上増えました。中国からの情報発信への疑念が浮上しており、まだ油断するのは禁物かもしれません。


株式市場が描く中国経済のシナリオ

こうした中、中国政府は新型コロナウイルス拡散に歯止めをかけるため、広範囲に経済活動を抑制する政策を発動しています。長期休暇明けの2月10日時点でも、経済活動正常化にはほど遠い状況です。一方、感染被害が少ない地域では「経営の再開を適切に広げるべき」との声明を当局が出しており、製造業の生産活動が一部で再開する動きが見られます。

今後の世界の株式市場の方向を考えると、中国経済は少なくとも2月いっぱいは通常の経済活動が大きく抑制されるとみられます。これが早期に正常化するかどうかが重要でしょう。

現状のところ筆者は、中国の経済活動は3月からかなりの程度正常化すると想定しています。想定どおりに1ヵ月程度の経済活動の停止であれば、2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)の時と同様に、中国のGDP(国内総生産)成長率は2020年1~3月期に大きく失速しますが、経済の落ち込みは一過性にとどまるでしょう。

現在の米国を中心とした株式市場の反発は、中国経済が1~3月の経済失速後、4~6月には回復するシナリオが織り込まれつつあることを示しているとみられます。

経済指標の悪材料視は一時的なものに

一方、今後公表される中国、そして各国の製造業関連の経済指標は、総じて大きく悪化するとみられます。2019年後半から持ち直していた世界的な製造業が再び失速する、との姿が示されるでしょう。

こうした中国と各国の製造業などの経済指標の悪化に対して、米国の株式市場はどう反応するでしょうか。2月に入ってから株価の戻りが急ピッチだったため、今後想定される経済指標の悪化を株式市場が悪材料視する場面があるかもしれません。

ただ、1月後半の株価急落時にいったん経済成長率の失速を織り込んだとみられます。中国経済が早期に持ち直すならば、金融市場は冷静に解釈するでしょう。このため、株式市場が今後の悪材料に反応するとしても、ごく短期間の反応にとどまる可能性が高いと考えます。

以上が、新型コロナウイルスや中国経済の悪影響が相対的には限定的である米国や欧州の株式市場についての筆者の見解です。

<写真:ロイター/アフロ>

中国株の投資判断には政策を注視せよ

各地域の株式市場をみると、米欧の主要株価指数は2月に入って最高値を更新しましたが、香港・上海株は1月後半の下落分の半分程度を取り戻したに過ぎません。そして、日本株は2月6日に1月の高値水準まで戻った後に反落しており、米欧と中国それぞれの株式市場の中間に位置づけられます。

今後、経済活動の停滞が顕著にみられる中国、そして同国と経済的な関わりが深い日本などのアジア諸国の株式市場の先行きについては、米欧より慎重に見る必要があると考えます。今後予想される経済指標などの悪化は、中国・日本の株式市場にネガティブに影響するリスクが無視できないと見込みます。

一方、中国は今回のウイルス被害に起因する経済全体の落ち込みが明白なため、2月早々に中央銀行が大規模な流動性供給を繰り出しており、大規模な経済刺激政策が予想されます。当局は新型コロナウイルスに対する初動に問題があったことを自ら示したこともあり、国家の威信をかけて大胆な政策対応で経済回復を目指す可能性があります。

このため、中国の経済の下振れリスクは無視できませんが、当局の対応次第で2020年の経済成長率が上振れするシナリオが想定できると考えます。中国株の投資判断は、今後の財政・金融政策によって柔軟に判断する必要があるでしょう。

日本株が世界に劣後するメカニズム

日本はどうでしょうか。中国経済の1~3月の落ち込みの悪影響を、日本は広範囲に受けるでしょう。

そもそも、2019年10月からの消費増税によって、同年10~12月GDP成長率(2月17日公表予定)は前期比年率5%程度の極めて大きな落ち込みとなったと筆者は試算しています。増税で個人消費が大打撃を受けたところに、追い討ちとして、1~3月からは新型コロナウイルス騒動の悪影響が重なり、日本経済は相当深刻なダメージを受けるといえます。

それでは、中国では期待できる政策対応が、日本で期待できるでしょうか。現在の安倍政権の経済政策運営は、消費増税による個人消費の落ち込みが大きかったことを深刻に考えていないように映ります。ポスト安倍をにらんだ政争が水面下で行われているとみられ、そして何より新型コロナウイルスへの対処で手が回らないのかもしれません。

このため、日本では緊縮的な財政政策運営が2020年も続く可能性が高い、と筆者は慎重にみています。足元の景気の落ち込みへの対処策は今後発表されるでしょうが、ポイント還元制度の延長など、対処療法的で小規模な政策対応にとどまると想定しています。

株式市場の主要テーマは大統領選へ

以上をまとめると、新型コロナウイルスが米国を中心とした世界経済の緩やかな回復の大きな足かせになるリスクは小さく、2020年も米国を中心とした株式市場は底堅く推移するとみています。今後、米国の大統領選挙をめぐる思惑が株式市場に変動をもたらす場面が増え、新型コロナウイルスは金融市場の主たる変動要因ではなくなると予想します。

一方、新型コロナウイルスによるダメージが想定される中国経済については、不確実性がありますが、当局の対応次第では期待が持てるとみます。そして、最も期待できないのは日本でしょう。経済の大幅な落ち込みが起きている中で、経済当局の危機感が乏しいうえ、政治のリーダーシップが期待しづらいためです。

日々の日本株の値動きは米国株に連動していますが、2018年から2年連続で日本株のパフォーマンスが米国株に劣ったのは、日本の金融財政政策が引き締め的に作用し、2018年末から景気後退に陥り、インフレ率が低下したことが主因と筆者は考えています。以上の筆者の見方が正しければ、「米国株>日本株」の状況が2020年も続きそうです。

<文:シニアエコノミスト 村上尚己>

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