「一所」懸命

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 中世の武士が命懸けで守った領地を「一所懸命の地」と呼んだという。「一生懸命」と「生」を用いるようになったのは、後の時代とされる▲横浜市の埠頭(ふとう)では、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」という「一所(いっしょ)」を外と隔てて、守る。中国・武漢市からチャーター機で帰国した日本人が滞在する「一所」を守る。経過を見る必要がある人たちを、一カ所にとどめる策が続いている▲新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、武漢から第1便で帰国した人たちは、陰性と分かってようやく家路に就いた。滞在したホテルそばの砂浜に、地域の人が“大書”した「心は一つ」の文字は、きっと忘れがたいだろう▲クルーズ船では今なお感染拡大し、一部の高齢の人たちの下船が認められた。全員を「船内待機」としていたが、感染を水際で防ぐはずの「一所」の中は、感染しやすい閉鎖空間でもある▲ご存じの通り、ダイヤモンド・プリンセスは長崎で建造され、幾度も長崎に寄港している。いま、何よりも乗客の皆さんの息が詰まる“密閉状態”が案じられ、長崎と縁の深い豪華客船の悲痛な姿も胸に痛い▲孤塁を守るとは、どんなに難しいことだろう。乗客のお一人は「船外で感染させないよう、今は耐えるしかない」と語っていた。「一所」懸命の歯ぎしりを聞く。(徹)