下船の通知にも不安おさまらず 船長の声にも疲れ 新型コロナウィルス感染拡大のクルーズ船、乗船者レポート

 横浜港の大黒ふ頭に停泊を続けるクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」では14日、5日から始まった検疫期間が10日目を迎えた。新型コロナウィルスの感染者は200人を超え、増える一方だ。ようやく下船についての厚生労働省からの通知の文書が配布されたが不安が消えることはない。船内の様子を再び乗船客の男性(70)が報告してくれた。(47NEWS編集部)

クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」(奥)が停泊する横浜・大黒ふ頭を出る救急車=14日午前9時10分

 13日昼過ぎ、船長は船内アナウンスで「新たに44人の乗客が感染したことを確認した」と伝えた。船長の乗客へのアナウンスは、朝昼晩ほぼ定時に行われる。マイクを通して聞こえる船長の声は、心なしか疲れきった様子だ。

 12日の39人と合わせ乗客乗員の感染者数は218人に達した。8人は重症という。私も船内で偶然、感染したとみられる乗客が医療スタッフ3人ほどに付き添われ、下船するのを目撃した。

 日に日に強まる感染の恐怖感。さながら、映画ジョーズのように、新型ウィルスと言う巨大なサメが我が身を食い尽そうと迫ってくるような怖さだ。

 一度乗船し、客室で荷物を整理してしまえば、後は寄港地の観光や豪華な食事やエンターテインメントを思う存分楽しめる。これがクルーズの魅力だ。

 夕食で同席した乗客は、70~80代、中には90代半ばの人もいた。「クルーズ船はこれで12回乗っています」と話すクルーズファンもいた。少しばかりの持病があったりしても船内にさらに医者が常駐しているという安心感もある。

 船内では、香港で下船した男性の感染が確認された後も、イベントがいつも通り連日連夜繰り広げられていた。クルーズ船というのは閉ざされた空間だ。こうした特殊な環境がウィルスの培養器となり、今回の感染拡大を助長させたのかもしれない。

横浜・大黒ふ頭に停泊するクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」のデッキで過ごす乗船者=14日午前

 新たに感染した乗客の搬送は、12日朝から13日深夜まで続いた。大黒ふ頭には集まった救急車が待機していた。車に書いてある表示から静岡や千葉など関東一円から来ているようだ。

 ツアー会社の添乗員から夫婦がともに感染したケースを聞くと、不安が募る。まるで拉致されたみたいにすぐに連れ出されて搬送。その先はそれぞれ別の病院で、荷物は残したまま。妻が感染し、夫だけが船に残されたりする人もいるという。

 搬送された人の多くはトランクなどの大きな荷物を船室に残したままだ。その扱いは決まっていない。

 13日、船内に厚労省からの通知が記された文書が配布された。日本語、英語、中国語等で記されている。内容はこうだ。

 バルコニーのない部屋の80歳以上の乗客、または慢性的な持病を持つ80歳以上の乗客で検査の結果、陰性の反応が出た客は、下船し政府が管理する施設で潜伏期間がすぎるまで過ごすか、そのまま船内に残るか、どちらかを選択できる―。

 高齢者の下船を優先するのは、わかる。しかし、政府管理の施設とはどんな施設なのか?今のところ説明はないようだ。そこに移すことが果たして高齢者のためになるかどうか、疑問だ。

 現時点で船の中に残る乗客にとって、想定される最悪の事態は、どんな状況だろうか?

 考えるに、多分、夫婦が2人とも感染し、別々の病院に運ばれる。しかも2人とも高熱にうなされ、助け合って荷物もまとめることもできない、という状況だろう。

 こうした事態に備え、身の回りの品をまとめたり、緊急連絡先を再確認したりするなど、元気なうちにできることを今、始めることにした。

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