エルヴィス・コステロ「ゲット・ハッピー」魔法の詰まった玉手箱♪ 1980年 2月15日 エルヴィス・コステロ&ジ・アトラクションズのアルバム「ゲット・ハッピー!!」がリリースされた日

リズム&ブルースやソウルミュージックへのオマージュ

エルヴィス・コステロ&ジ・アトラクションズの『ゲット・ハッピー!!』は、タイトルの通り、最高に楽しいレコードだ。2分から3分前後の弾けるようなメロディーをもった20曲が、たたみかけるように押し寄せて来る。それでいて、全部聴いてもたったの49分。

胸がすくとはこういうレコードのことを言うのだろう。

『ゲット・ハッピー!!』は、コステロがリズム&ブルースやソウルミュージックへのオマージュを込めて作ったアルバムだとよく言われる。

確かにファーストシングルとなった「アイ・キャント・スタンド・アップ・フォー・フォーリング・ダウン」はサム&デイヴのカヴァーだし、オープニングナンバーの「ラヴ・フォー・テンダー」や、ニック・ホーンビィの小説のタイトルにもなった「ハイ・フィデリティ」などは、モータウンビートを彷佛とさせる。「テンプテーション」は、さしずめブッカー・T & MG's だろうか。

アトラクションズの躍動感、レファレンスはスタックスとモータウン

でも、具体的にソウルミュージックへのオマージュだと指摘できる曲は、あとひとつかふたつといったところだ。残りの曲は当時のコステロらしい親しみやすく勢いのあるロックチューンで占められている。

そもそも、ここに収められた曲の一部は、数年前からライヴで演奏し、レコーディングもされていた。しかし、コステロ曰く「アレンジは陳腐で精気もなく、その頃は “ニューウェイヴ” と呼ばれながらあっという間に時代遅れになろうとしていたスタイルにあまりにも似すぎていた」という。

そこで引っぱり出してきたのが、古いスタックスのシングルレコードひと束と、「モータウン・チャートバスターズ 第三集」だったそうだ。そして、そこからほぼすべての曲を再アレンジし、レコーディングし直している。そういう意味では、スタックスやモータウンの曲が持つ普遍的なスピリッツや躍動感が、『ゲット・ハッピー!!』の下地になったと言えるかもしれない。

とはいえ、コステロがアルバム制作を通じてそうした音楽を標榜としていたかというと、そうでもなさそうだ。というのも、『ゲット・ハッピー!!』の収録曲から伝わってくる空気は、もっと自由で、オリジナリティに溢れ、枠から飛び出すような勢いがあるからだ。アルバム全体が新しい予感に満ちている。それはコステロとアトラクションズが強い野心をもって、これまでになかった次元の音楽を目指していたからに他ならない。

全20曲 49分の至福、これこそロックンロールの魔法!

今でも「ラヴ・フォー・テンダー」の性急なイントロが聴こえてくると、胸がわくわくして、じっとしていられなくなる。そこから始まる49分間の至福。押し寄せて来る20曲に翻弄される喜び。これこそロックンロールの魔法だ。

『ゲット・ハッピー!!』は、エルヴィス・コステロの4枚目のオリジナルアルバムであり、パワーポップ時代の最後を飾った作品とも言われている。次作の『トラスト』から、コステロの音楽はより深く、広がりのあるものへと変化していく。そして、たくさんの素晴らしい作品を生み出すことになる。そんなコステロの表現者としての飽くなき探究心を、僕は心からリスペクトしている。

でも、どうだろう? もしエルヴィス・コステロのアルバムで一番よく聴いたのはどれかと問われたら、僕は『ゲット・ハッピー!!』を含む初期の4枚を答えることになりそうだ。その後の作品がこれらに劣るとは少しも思っていない。それなのに、なぜ僕は『ゲット・ハッピー!!』に手を伸ばしてしまうのか?

その答えは、きっと49分間の魔法の中にあるのだろう。

※2018年2月15日に掲載された記事をアップデート

カタリベ: 宮井章裕

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