EPICソニー名曲列伝:バブル期の若者に寄り添った BARBEE BOYS の言文一致体 1989年 1月1日 バービーボーイズのシングル「目を閉じておいでよ」がリリースされた日

EPICソニー名曲列伝vol.22
BARBEE BOYS『目を閉じておいでよ』
作詞:いまみちともたか
作曲:いまみちともたか
編曲:バービーボーイズ
発売:1989年1月1日

バービーボーイズに、いまみちともたかのギターあり!

バービーボーイズの代表曲。たった一週間しかなかった “昭和64年” の元日発売。今となっては、椿鬼奴とレイザーラモンRG のデュエットでおなじみの曲でもある。

EPICソニーの有名曲には、必ずタイアップが付いている。この曲は資生堂のヘアタイリングムース「トレンディ」のCMソングとなった。ブランド名からして時代がかっている。そのCMにはメンバーも出演。資生堂のCMに出てもさまになるルックスの良さもまた EPICソニー的。

先に掲載された「EPICソニー名曲列伝:バービーボーイズの新感覚ギターはもっと評価されるべき!」にも書いたように、バービーボーイズというバンドの新しさの中核には、いまみちともたかのギターがあった。

いまみちともたかのギターの新しさを、言葉で表現するのは難しいのだが、あえてチャレンジすれば、「6本の弦と20個のフレットをすべて使い切る弾き方」とでも言うべきものである。

言い換えると、サイドギター、リズムギター、リードギターをすべて兼ね備えた奏法。何回もダビングして、それらを弾き分けるのではなく、一度の演奏にそれらがすべて配合されているという感じなのだ。

この曲も、イントロから「ザ・いまみちともたかギター」が炸裂する。もっとマニアックに聴けば、イントロ本編に入る前に、弦とピックが触れ合った「キュキュッ」という音が入っているのだが、もうそこから「ザ・いまみちともたかギター」「ザ・いまみちともたかワールド」に惹き込まれる。

実際のセクハラ発言から生まれた「目を閉じておいてよ」

加えて、今回着目したいのは歌詞である。

歌詞の世界はやたらとエロい。「あいつ」の恋人である女性と寝るという設定。「顔は奴と違う」から「目を閉じて」くればいいじゃないかという話。「♪ 馴れた指より」「♪ それがどこかわかる」のあたりは、途方もなくエロい。

エロいついでに、さらに話をつなげてしまうと、「♪ ひとつ出たホイのヨサホイのホイ」で有名な春歌『ヨサホイ節』の歌詞=「♪ ハンカチかぶせて せにゃならぬ」のパートにも通じる淫靡(いんび)な世界である。

ボーカル・KONTA へのインタビュー「バービーボーイズ KONTA『目を閉じておいでよ』を語る」(Smart FLASH 2017.5.16)によれば、この歌詞は、実際のセクハラ発言から生まれたという。

―― 当時のバービーのマネージャーが女性スタッフに、「そんなもん目を閉じてれば一緒だよ、すぐだよ」みたいなことを、今となってはセクハラもんですが、当時でもセクハラですが(笑)。「すぐだよ、同じだよ、やらせろよ」って、言われましたと。

歌詞は徹底した会話調、KONTAと杏子の言文一致体

まぁ、昭和の末期はそういう時代だったということだが、今回特に注目したいのは、歌詞のエロい内容ではなく、その文体である。徹底した会話調なのだ。

タイトルからして『目を閉じておいでよ』と、男性が女性に語りかけている文体=会話調で、前回取り上げた『なんだったんだ? 7DAYS』も同じく会話調。

ボーカリストが男女2人なので、必然的に、2人の会話で構成される歌詞になったのであろうが、その結果として、通常の歌詞には一定の比率で埋め込まれる、文学的で抽象的な情景描写がこっそりと抜け落ちているのだ。

象徴的に言えば、はっぴいえんど『12月の雨の日』の「♪ 流れる人波を ぼくはみている」的な情景描写フレーズが無く、直接的に切り込む会話調だけで、全体が構成されているということも、いまみちともたかのギターと同じくらい新しかったのだ。

言ってみれば「言文一致体」の完成である。文語から口語へ、そして会話調へ。虚飾を剥いだむき出しの言葉。バブル時代に浮かれ、翻弄される若者の毎日に飛び交っていそうな会話調だけで出来た歌詞。89年、昭和のどんづまりに、日本ロックの歌詞は、聴き手にここまで寄り添ったのだ。

最後に再度、先の「Smart FLASH」の記事から。このやり取りは気に入った。インタビュアーの「杏子さんが加入して、ボーイズじゃなくなるわけですけど、バンド名を変えるという話にはならなかった?」に対しての KONTA の返答。

―― ならなかった。チャンバラトリオだって4人じゃないかって。

※ スージー鈴木の連載「EPICソニー名曲列伝」
80年代の音楽シーンを席巻した EPICソニー。個性が見えにくい日本のレコード業界の中で、なぜ EPICソニーが個性的なレーベルとして君臨できたのか。その向こう側に見えるエピックの特異性を描く大好評連載シリーズ。

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カタリベ: スージー鈴木

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