【徳島県の空き家活用①】サテライトオフィス、移住創業、観光振興 新たな“にぎわい”が生まれる美波町 美波町にみる空き家活用 影治信良町長インタビュー

サテライトオフィス誘致や学童の多拠点就学を可能とするデュアルスクール制度を日本で初めて実現するなど、先駆的な取り組みを行っている徳島県南部の町・美波町。移住者の増加により、古民家を活用した飲食店なども次々と開業し、町には新たな“にぎわい”が生まれています。地域振興モデルとして注目を集める美波町の影治信良町長に、空き家対策とまちづくりについてお話を伺いました。

移住コーディネーターは

町のスカウトマン

人口減少対策として、県内でもいち早くサテライトオフィスの誘致と移住促進に取り組んできた美波町。町への移住を呼びかける中で、以前からボランティアで移住者のお世話をしていた小林陽子さんを、町長直々に移住コーディネーターに任命したのが、2014年。住居や仕事など移住に関するあらゆる相談に応じ、移住後のアフターフォローも行う民間の専任者を設けたことが、いい結果に繋がっているといいます。

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▲美波町のにぎわいづくりのきっかけになったサテライトオフィス。現在は県内最多の19社があり、その火付け役となった『サイファー・テック株式会社』および『株式会社あわえ』の代表取締役吉田基晴氏をモデルにした映画『波乗りオフィスへようこそ』は、2019年春に全国で公開された。

「町をよく知る陽子さんが、ゆるやかにフィルターになって、いい人達が来てくれているように思います。長野県から姉妹で移住した韓国料理の『オモニ』さんや『みなみ食堂』さんは、陽子さんが移住のマッチングイベントなどでスカウトした方々。
他にも移住創業される方が増えていて、地域おこし協力隊で美波町に来た園木さんが桜町通りに出店した『まめぼん』という古民家イタリアンや、『藍庵』など空き家を利用したお店が次々にオープンして、週末ともなるとそれぞれのお店を目当てに遠くから来られる人もいるようです。おかげで、美波町はにぎわっていますねという声を聞くことが多くなりました」。

▲長野県から移住し、JR日和佐駅の近くで韓国家庭料理『オモニ』を営む姉妹。写真右が移住コーディネーターの小林陽子さん。小林陽子さんは、空き家の交渉や生活用品の処分など長野県から頻繁に町へ通えない姉妹に代わり、移住創業をサポート。

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▲ランチタイムには石焼ビビンパset(1300円)など、お得なメニューもあり人気。
韓国家庭料理『オモニ』/徳島県海部郡美波町奥河内字寺前490-4/TEL: 0884-70-1464/営: 11:30~15:00、17:00~22:00/定休日:火曜

仕事と住まいの問題を一挙解決!

美波町の移住創業支援

このような移住成功例も追い風となって、空き家を提供したいという人が多いのも、美波町の特徴です。空き家バンクとしてインターネット上での公開は行っていませんが、美波町役場では空き家調査を行い、状態をA~Dに格付けして件数を把握しています。
「Aは希望があればすぐに使える家。Bは少し改修が必要、Cは活用が難しい家、Dは除却レベルの“特定空き家”に近いものです。Dランクの物件については、平成31年度から空き家対策協議会(特定空き家部会)というのをつくり、それぞれの事情を加味しながら、慎重に話し合いを行っています」。Dランクに該当する空き家は少数で、ほとんどが活用可能な空き家。そのため地元の人の利用も広まり、転出抑制に繋がっているといいます。
改修が必要な場合も町独自の支援制度があり、定住促進補助金として増改築費用の2/3以下、上限200万円を補助。起業する人にはプラス小規模起業支援補助金として100万円の助成もあるため、移住創業する人にとっても、資金面でかなり手厚いサポートを受けることができます。

景観にも配慮した

町づくりを目指して

今後30年の間に80%の確率で起こるといわれている南海トラフ巨大地震。海辺の町・美波町では地震に備え、町民の防災意識は高く、自主防災組織も活発に活動しています。定期的に防災訓練も行われ、そうした際に避難路に面した空き家は、倒壊の可能性が高い場合、持ち主に取り壊しを依頼することもあるといいます。
「他にもブロック塀が倒れて、避難路を塞ぐ危険性のある場合はブロック塀の除去の支援制度、除去後、ブロック塀の代わりに生垣にする場合はその助成制度もつくって、景観にも配慮した支援を行いたいと思っています。防災のためにただ壊すのではなく、古い町並みの雰囲気は残しながら、命を守る避難路の整備と共に、町づくり全般にいかしていきたいと考えています」。

インバウンド向けの

環境整備も着々と

美波町が『ワールドマスターズゲームズ2021関西』のトライアスロンの開催地に選ばれたことで、住民の意識が「さらに変わるきっかけになるのでは」という影治町長。
「町内の宿泊所や飲食店、お土産屋さんなどは、まだ外国人慣れしていないところをもありますが、2021年の5月の開催に向けて、キャッシュレス決済の導入や、ちょっとした英会話ができるよう、それぞれのお店でおもてなしの準備が進んでいるようです」。
「町としてはフリーWi-Fiの設置場所を増やしたり、美波町は観光の町なので、由岐地区も日和佐地区も公衆トイレがわりと多いので、トイレの洋式化も行っています。3年かかって由岐地区は完了したので、次は日和佐地区。ワールドマスターズまでに、どうにか間に合わせたいですね」。

“にぎわい”の種は

地域への愛情

美波町の人口は約6600人。高齢化率46%を超す過疎の町ながら、こうした数字とは裏腹に、町には活気が感じられます。
「 “地域活性化”とまではいかなくても、たしかに“にぎわい”のようなものはありますね。一人ひとりがいきいきしているというか。地域に対する愛着や、町が良くなって欲しいという気持ちの強い人が多いように思います。
ただ、いろんな考え方の方がいらっしゃるから、すべてがうまくいっているかというと、そうではない。意見がまとまらない場合もありますが、大局をみると、そうした議論を重ねながらも前進していると言えるのかもしれません」。
個人の資産である空き家も、町を構成する要素と考え、まちづくりという大きな視点でのリノベーションが進む美波町。町を歩いて、その雰囲気をぜひ、感じてみてください。

▲うみがめの産卵地として知られる大浜海岸や厄除けの寺・薬王寺、うみがめトライアスロンなど観光地としての魅力も満載。日和佐八幡神社秋祭り(秋季例大祭)では8台のちょうさ(太鼓屋台)も必見。

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