自宅で島原温泉楽しもう 市が独自管理 供給50年

ホテル南風楼=島原市弁天町2丁目

 長崎県島原市が「集中管理」と呼ばれる方式で「島原温泉」の湯を市内のホテルや旅館、一般家庭に供給し始めて50年余りが過ぎた。市が温泉を一括管理し、有料で提供する全国でも珍しい仕組みを採用しているが、近年は利用者が減少。費用対効果の問題もあり、市担当者は「自宅で温泉を楽しめる地域はあまりない。ぜひ使ってほしい」と呼び掛けている。
 関係者によると、全国の多くの温泉地では、各施設がそれぞれの敷地などから個別に温泉水をくみ上げている。しかし島原では市が「観音島」「元池」と呼ばれる2カ所の泉源から低温の温泉水をくみ上げ、市温泉給湯所(下川尻町)で加熱。総延長約7.5キロの配湯管を通じ、契約先に供給している。
 主な供給先は宿泊客や立ち寄り湯の市民らでにぎわうHOTELシーサイド島原(新湊1丁目)、ホテル南風楼(弁天町2丁目)などの大型施設だが、家庭でも温泉を楽しんでいる市民がいることはあまり知られていない。
 市が温泉の供給を開始したのは1967年。当時は日量約369トンを計14カ所の旅館・ホテルなどの大口契約先に供給していた。ピークは75年。日量約560トンを19カ所の大口に供給したほか、一般家庭約70戸とも契約を交わした。しかし、その後は減少の一途をたどり、今年1月末現在の供給量は日量約300トンに半減。契約数もホテル・旅館4、老人ホーム1、公衆浴場1の計6施設と一般家庭34戸にまで減少した。
 市観光おもてなし課によると、大口供給先の減少はホテル・旅館の廃業などが主な要因。一般家庭に関しては、住宅の改装や建て替えを機に廃止する利用者が多いという。温泉成分の固形物が枝管に付着し、詰まりの原因になるため、定期的に除去する必要があり、「(減少は)維持管理が大変だからではないか」との声がある。
 一般家庭の導入費用は契約時の5万円と別に工事費。利用料は月額6200円となっている。市担当者は「契約者が増えれば料金が下がる可能性もある」と説明するが、新たな契約にはなかなか結び付かないようだ。
 環境省によると、温泉地は全国に約3千カ所(2017年度)あるが、集中管理方式を採用しているのは約120カ所。このうち九州には島原市を含めてわずか9カ所しかない。各施設が個別に源泉を利用する方式の場合、未使用のまま排水される量が集中管理に比べて多いという。同省の担当者は「温泉水をタンクにため、必要な量を適宜供給する集中管理方式の方が、限られた資源を有効活用できる点で好ましい」と話す。
 島原温泉はもともとの温度が約30度と低いため、温める必要がある。これが行政による集中管理になった背景にあるようだが、その加熱方法もユニークだ。宝酒造島原工場(弁天町2丁目)がアルコール蒸留の際に排出した湯を15年12月から市温泉給湯所に供給。この湯を熱交換式のヒートポンプに利用し、温泉水を60度以上に加熱している。
 自宅で40年以上、島原温泉を楽しんでいる万町の自営業、山内信子さん(75)は「蛇口をひねると40度程度のちょうどいいお湯がいつでも出てくる。普通のお湯と違い、入浴後に体が冷えにくい。島原市民の特典」と笑顔で話した。

HOTELシーサイド島原=島原市新湊1丁目
工場が排出した湯を活用し、島原温泉を加熱している市温泉給湯所=島原市下川尻町

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