【MLB】元ロッテ・ボルシンガー「だから僕は訴える」 アストロズ訴訟経緯を米紙に寄稿

2018年から2年間ロッテでプレーしたマイク・ボルシンガー【写真:荒川祐史】

ゴミ箱音54回の2017年アストロズ戦が最後のメジャー登板に「僕のキャリアを狂わせた」

 元ロッテのマイク・ボルシンガー投手が、サイン盗みで被害を被ったとしてアストロズを相手に民事訴訟を起こしている。訴訟はワールドシリーズのボーナスに当たる約3100万ドル(約34億円)の寄付や支払いを求めるもので、この経緯をボルシンガー本人が地元紙「ワシントン・ポスト」に、「アストロズのサイン盗みが僕のキャリアを狂わせた。だから僕は訴える」という衝撃的な見出しで寄稿している。

 ボルシンガーは2017年当時、ブルージェイズに在籍していた。サイン盗みのゴミ箱音が54回鳴ったとされる8月4日のアストロズ戦では、4回途中から3番手で登板し、1/3回4安打3四球4失点と大炎上。これがメジャー最後の登板となり、翌年はNPBに移籍した。

 アストロズのオーナー、ジム・クレイン氏は先日の会見で「我々は対応し、謝罪をした。前に進む」とコメントを残したが、ボルシンガーには到底受け入れられる内容ではなかった。「すみませんが、僕は賛成できない。アストロズは2017年のサイン盗みに十分に対応しておらず、与えたダメージを忘れていいことにはならない。だから、僕は今週アストロズに対して訴訟を起こした」と指摘。この会見が火をつけたようだ。

 ボルシンガーは最後のメジャー登板となったアストロズ戦について、「その試合を鮮明に覚えている。なぜなら、メジャーキャリアの最後で、そして最悪の登板となったからだ。スタジアムは満員だった。テキサス在住だったから、妻と友人たちも観戦した。アストロズはどの球が投げられるか分かっているようだった。ジャーニーマンの投手にとって、これほど酷い試合は最後になるかもしれない」と綴っている。

2017年にはブルージェイズでプレーしたマイク・ボルシンガー【写真:Getty Images】

「サイン盗みとそれによって僕の家族が受けた被害については我慢できない」

 ボルシンガーはその後40人枠を外れ、翌年には日本行を決意した。「僕の人生は全く変わってしまった。家族を養うお金を稼ぐため、日本でプレーした。妻は妊娠していたから、友人も家族もいない国に引っ越すことは理想的ではなかったけど、それが唯一の選択肢だった」と悲痛な胸の内を明かしている。

 昨年になってサイン盗み疑惑が浮上し、今年に入りMLBの調査結果が報じられると、ボルシンガーは更に苦しんだ。

「そのニュースは受け入れがたかった。ショックで腹が立った。アストロズは投手としての将来を決める機会を僕から奪った。能力不足で失敗したのであれば、僕の責任だ。それは受け入れられる。だけど、サイン盗みとそれによって僕の家族が受けた被害については我慢できない」

 クレイン氏は会見で、「試合には影響がなかった」と発言をしたが、「僕はアストロズがサイン盗みで大きな恩恵を受け、責任を果たす必要があると思っている」とボルシンガーは主張。自身への損害賠償ではなく、寄付という形でワールドシリーズ制覇のボーナス3100万ドル(約34億円)を返上することを要望している。「野球は大きな岐路に立っている。このスキャンダルへの対応の仕方が、この先の球界の信頼性と存在を定義することになる」と綴った。

「最も才能のある投手でなかったことは、僕が一番分かっている。だけど、野球が好きで、2010年にアリゾナ・ダイヤモンドバックスからドラフト指名を受けた後、努力を続ければ、マイナーの階段を上り、メジャーリーグでプレーできるかもしれないと信じていた」

 ボルシンガーはロッテで2年間プレーし、2018年には20試合で13勝2敗、防御率3.06と活躍した。もしあのサイン盗みがなかったら……本人のみならず、周囲の誰もが考えたに違いない。この訴訟はどのような形で決着するのだろうか。(Full-Count編集部)

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