2020年度の私立大学入試は志願者数が減少傾向だが合格者数の増減は?

国公立大学の出願も締め切られ、2020年度の大学入試(一般入試)が本格的にスタートしています。今年の受験生は翌年の入試制度改革を避け、早めに確実な合格を得ようと行動する傾向が強いと言われています。その影響が顕著に見られるのが私大入試です。難関私大の志願者数が減少し、中堅のさらに次群の私大の志願者数が増加しています。今年の私大入試は今後どのように進むのでしょうか。その中でも合格者数の増減、補欠・追加合格者数の増減は注目のポイントです。また、2月後半から3月にかけて行われる私大の後期入試は、昨年同様に難化するのでしょうか。

私立大学入試の合格者数と文科省通知

私立大学一般入試の志願者数は、18歳人口減少期にも関わらず、10年以上にわたって増え続けてきました。大学志願率が上昇してきたことに加えて、都市部の大規模大学が新しい学部学科を設置したり、新しい入試制度を導入したりして、受験生が併願しやすい環境が整備されてきたことが大きな要因です。一人当たりの併願校数が増えることで、延べ志願者数は380万人を超える規模となりました。この間、併願割引制度の拡大も志願者数増加にプラスに作用したと言えます。

私大一般入試の志願者数増加により、当然ながら合格者数も増加してきました。こうした中で、2015年7月に文部科学省から1本の通知が出されました。通知名は「平成28年度以降の定員管理に係る私立大学等経常費補助金の取り扱いについて」です。通知内容は段階的に入学者数が定員を超える率(入学定員充足率、超過率とも言います)を引き下げ、2019年度からの入学定員充足率が、1.0倍を超えた場合、その分の補助金を減額するというものです。いわゆる「定員管理の厳格化」です。

入試では合格者の全員が入学手続きをしてくれることはありません。東京大学でも合格して入学しない受験生がいるほどです(極めて稀ですが)。複数の入試方式を実施している私立大学は、蓄積してきた過去データから、合格者のうち何人が入学手続きをしてくれるかを予測して入試方式毎に合格者数を決めています。しかし、毎年のように入試環境は変化するため、なかなか予測した通りにはなりません。そうした誤差が発生するため「入学定員充足率1.0=入学定員と全く同じ入学者数となるよう合格者数を予測する」ことはほぼ不可能です。各大学の入試担当者はほとほと困ったことでしょう。

この通知は地方創生のために東京一極集中を是正することが目的でしたが、この後、さらに追い打ちをかけるような通知が出されます。2015年9月の「大学、大学院、短期大学及び高等専門学校の設置等に係る認可の基準の一部を改正する告示の施行について」です。

学部学科の新増設のための条件も厳格化

前述の「認可の基準の一部を改正する」通知とは、新しい学部や学科を設置する場合、4年制課程では過去4年間の平均入学定員超過率をこれまでの1.3倍未満から、段階的に引き下げるという内容です。ここでも定員管理が厳格化されています。しかも、収容定員(全学年の定員)が4000人以上という中規模以上の大学はより厳しく、1.05倍~1.15倍に引き下げられました。

実はここ数年、多くの大学がデータサイエンスやグローバルなど時代の要請に応えた新しい学部や学科を設置する動きが加速しています。そのため、将来的に新学部などを計画していた大学は認可申請のため、これまで以上に合格者数・入学者数を減らさなくてはならなくなりました。この2つ目の通知は「過去4年間の平均」ですので、平均値を下げるためには数年を要します。そのため、各大学は小刻みに合格者を発表したり、正規合格者数を減らして、追加合格を出したり、補欠合格候補者から順次繰り上げるという方法で対処しました。

この2つの通知で一番困ったのは、大学よりも受験生です。異なる大学から合格通知が届く度に入学手続きを繰り返すことになり、経済的にも負担となります。結局、文部科学省も「合格者の最終決定に至る期間が長期化し、入学希望者に経済的及び心理的負担を与える事態が生じている」として、2018年9月に、また通知を出して、2019年度からの入学定員超過率の規制を1.0倍から緩和しました(収容定員8000人以上の大規模大学は1.10倍、収容定員4000人~8000人の中規模大学は1.20倍、収容定員4000人未満の大学は1.30倍)。ただし、2つ目の通知の「認可の基準」は緩和されていないこともあり、また、入学定員超過率の規制緩和の通知が出されたのが2018年度入試終了後でしたので、2018年度入試では私大全体の合格者数が前年よりも延べ数で4万人近く減少し、受験生にとっては厳しい結果となりました。

なお、2019年度入試では一転して、私大全体の合格者数は前年よりも増えましたが、それでも志願者数の増加分には及ばず、「慎重に、手堅く、より合格が確実な受験大学を選定する」という傾向に変化は見られないまま、今年の2020年度入試が始まったのです。

[link pagenumbers="2"]難関私大の志願者数は減少、合格者数は?[/link]

難関私大の志願者数は減少、合格者数は?

今年の私大入試は、受験生の手堅い受験動向により、志願者数は難関大学を中心に概ね10%程度の減少となりそうです。特にここ数年、難関大学の併願校として、倍率、入試難易度が上がった大学は、入試方式によっては志願者数が半減しているケースも見られます。こうした志願者減少傾向の中で合格者数も減るのでしょうか。

一般的には、志願者数が増えれば合格者数も増加します。他大学との併願者数の増加が見込まれるため、合格しても併願大学に合格して、入学手続きを取らない受験者が多いと想定されるためです。その逆に、志願者数が減少した場合は他大学との併願者数が減少していると考えられるため、入学手続き率が向上すると見込んで合格者数も減少します。ただし、こうしたパターンに当てはまらない場合もあります。例えば、推薦入試など年内の入試で予定よりも多くの入学者数を得ている場合は、一般入試の志願者数が増えても、入学定員超過率を考えて、合格者数を増やせません。各大学の推薦入試等ですでに入学手続きを終えている人数は、この時期には公表されていないため、残念ながら受験生からは状況が分かりません。この他に前年の入学者数が予定よりも多かった場合などは、数年かけて調整しなくてはなりません。前述の「過去4年間の平均入学定員超過率」に該当するケースです。

こうして見ていくと、結局どうなるのか、事情が異なる個々の大学の行動が連鎖して動いていくため、予想が非常に難しい事が分かります。ただ、私大全体の合格者数で考えれば、ここ数年かけて入学定員超過率はかなり低下しています。特に全体動向に影響力のある大規模私大での低下は顕著です<図「平成31(2019)年度 私立大学・短期大学等 入学志願動向(規模別の動向)」日本私立学校振興・共済事業団資料より>。そのため、志願者数が減少していますが、それに比例して合格者数が減少することはなさそうです。全体として見れば昨年並みの合格者数に落ち着くのではないでしょうか。そのため、倍率は低下するでしょう。

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<図「平成31(2019)年度 私立大学・短期大学等 入学志願動向(規模別の動向)」日本私立学校振興・共済事業団資料より>[/caption]

昨年高倍率の大学の後期入試は倍率が下がる

前述のように私大全体の合格者数は昨年並と考えられますが、増える可能性がある募集区分があります。それは2月後半から3月にかけて行われる入試です。ここでは後期入試と表記しますが、大学入試センター試験を利用した方式も加えれば、後期入試を実施する大学は非常に多くあります。

例えば、國學院大、駒澤大、成蹊大、成城大、専修大、中央大、東洋大、日本大、武蔵大、明治大、明治学院大、愛知大、中京大、南山大、名城大、京都産業大、立命館大、龍谷大、関西大、近畿大、関西学院大、甲南大、広島修道大、松山大、西南学院大などのメジャーな総合大に加え、女子大でも昭和女子大、津田塾大、東京女子大、日本女子大、フェリス女学院大、金城学院大、同志社女子大など錚々たる大学で後期入試が実施されます。昨年もこの後期入試の合格者数は増加していますので、今年もその傾向は続くと考えられます。その時、注目したいのは昨年の倍率です。

後期入試は、入試難易度(いわゆる偏差値)が設定されない場合が多いため、受験生にとって過去の倍率しか難易度の目安になる情報がありません。そのため、前年の倍率に影響されるケースが多く見られます。結果として倍率が年度によってアップダウンする隔年減少が起きやすいのが特徴です。昨年20倍で今年は2倍、などという事例は多く見られます。こうしたことから、昨年高倍率で入学定員規模が多い大学で意外に与し易い募集区分が出る可能性があります。入学定員規模が小さな大学の場合は、前述のように推薦入試ですでに十分な入学者があり、合格者を多く出せない事も考えられます。

2月中旬を過ぎると、私大入試で思うような結果が得られていない受験生もいることでしょう。その場合、まだ出願できる大学があるかどうか、調べてみる価値はありそうです。

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