カネミ油症次世代座談会<3>誤解から偏見に くぎ打ち続ける

左からAさん、三苫壮さん、中内孝一さん、下田恵さん

 1968年に発覚したカネミ油症事件で、次世代被害者は認定、未認定にかかわらず心身の不調や周囲からの偏見に苦しんでいるが、救済は進んでいない。長崎県などに暮らす2世の男女4人による座談会を福岡市内で開き、体験や思いを語ってもらった。

カネミ油症次世代座談会<3>

 -他に偏見や、社会生活を送る上での不安は。
 中内 カネミ油症にかかったことで、性格的にネガティブなほうにばかり考えてしまい、いじめの対象になりやすい。子どもの頃、あちこち殴られたり蹴られたりしてけがをしたり、悪口を言われたりすることが多かった。体調不良もあり勉強についていけなかった。中学校でもいじめを受け、養護学校に転校した。今もマイナス、ネガティブに考えてしまうことが多く、人当たりも悪いかなと思う。コミュニケーションをなかなか取れずに誤解を招き、けっこうつらかった。
 下田 私の場合は長崎で介護の仕事をしていたが、1人夜勤の時に利用者の家族から、「そういう子を1人で夜勤に置いて大丈夫なのか」といった苦情が何件も来ていたと聞いた。今、福岡の別の介護事業所に勤めているが、(職場の同僚に)カネミ油症に関して自分から事前に話した。福岡は知っている人が多いが、深くは知らない人もいて油症(の経緯など)について間違った反応が返ってきたりする。間違った方向に行ってしまうと変な誤解を受け、偏見になると感じた。(長崎では)利用者の家族から直接言われたわけではないが、気分の落ち込みは若干あった。理解してくれる人が一人でもいると、変わってくると実感した。

 -次世代被害者の現状を伝えていく上で、名前や顔を出して発信している人もいるが、公にできない人もいる。背景にはどんな問題があるのか。
 三苫 例えば原爆症でも遺伝性があるという問題に対して、差別的になってしまうことが世の中に根強くあると思う。僕は露骨な言い方で差別されたことはないが、例えば結婚することになった時に、(結婚相手の)親はどういう反応をするのかなと心配する。また友人から軽口で、「モンスター被害者」ではないが、「被害者団体が騒いで企業をゆすっているイメージ」と言われたことがあって、なるほど一般的にはそう見られたりするんだと思った。しんどい思いをして声を上げているのに認定は進まず、世間は被害者が騒いでいるとしか思わないイメージの中で、なかなかカミングアウトはしづらいと思う。
 A 声を上げたとしても少数派なので、なかなか周りの理解も得られないし、それでどうなるのかなと消極的になりかねない。先ほど話が出たように、病院で訴えてもスルーされる。体がきついと訴えても、「休養してください、お薬を出しておきます、以上です」の繰り返し。だからやはり影を潜めてしまうのかなと思う。

 -下田さんが名前や顔を出して活動する決断をした理由は。
 下田 最初(のきっかけ)は私の友人が知らなかったこと。20、30代は、事件自体を知らないが、知ってもらうことも偏見を減らすことにつながると思った。若い世代に伝えるという思いで20代前半に活動を始めたが、長崎市の鉄橋でビラを配っている時に、高齢の方から「油症事件は終わった話だ。自分たちには関係ない。こんなものは返す」とビラを突き返された。だから終わってないことを、ちゃんと伝えないといけないと思う。
 中内 油症事件は50年以上たって風化し、理解してもらうには相当ハードルが高い。しかし21世紀になっても、まだ終わってない。まだけりがついていない。風化しないように社会にくぎを刺すというか、くぎを打ち続ける時期はまだ終わってない。くぎを1本でも2本でも打って、訴えていく必要がある。

 -2019年1月に「カネミ油症被害者全国連絡会」が設立され、全国の被害者が連携して救済活動に取り組んでいるが、高齢化が進む中で、次世代同士の連携についてどう考えるか。
 下田 2世や3世、また未認定の方もそうだが、話をできる場を設けてネットワークをつなぐことは重要。子ども自身がどう思っているのか、親にも言えないことがあると思う。そこで共通したことを意見として出せば、救済につながるのではないか。(自分は)やはり親を心配させてしまうので、言えないことも多かったし、まして友達とかに言えるような内容ではない。結局、自分の中に取り込んでしまい、結果的に、気持ちが落ち込むこともある。

 -カネミ油症被害者支援センター(YSC)が進めている次世代被害者の健康実態調査について考えは。
 三苫 YSCが調査することはありがたいが、本来は国が率先してやるべき。なぜこのようなことを厚生労働省や全国油症治療研究班が積極的にやらないのか。結局また責任を取らず、こちらの負担でやらなければならないのは、どういうことなのかという気がする。

 【略歴】しもだ・めぐみさん 1989年生まれ。未認定。長崎本土地区油症被害者の会。認定患者の母、順子さん(58)は五島市で汚染油を摂取した。
 【略歴】なかうち・こういちさん 1971年生まれ。未認定。カネミ油症被害者高知連絡会。母親は認定されている。
 【略歴】みとま・そうさん 1976年生まれ。カネミ油症被害者福岡地区の会。兄の哲也さん(50)と共に2世の認定患者。
 Aさん 長崎県内在住の40代男性。0歳で認定されている。

●座談会内容

・カネミ油症次世代座談会<1>常に恐怖感ある 悔しいが諦めも

・カネミ油症次世代座談会<2>結婚や子ども 名乗り出られない人もたくさん

【キーワード】●カネミ油症 ●次世代被害 ●油症検診と認定 ●YSCによる次世代被害者の健康実態調査

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