インド・カシミール地方の記者たち、記事送れず 困窮し転職も

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インドが実効支配するカシミール地方のジャーナリストたちが苦境に陥っている。通信手段が極めて限られ、記事を送ることができないためだ。BBCのプリヤンカ・デュベイ記者が現地を取材した。

ムニーブ・ウル・イスラム氏(29)はフォトジャーナリストになって5年がたつ。これまでインド内外のメディアに写真が掲載されてきた。

しかし昨年8月、インド政府がカシミール地方の固定電話と携帯電話、インターネットの通信を遮断。イスラム氏の仕事は突然なくなった。

翌日、インド政府はカシミール州の自治権はく奪を発表。この議論を呼ぶ決定により、イスラム教徒が多数を占める同州は国際ニュースの注目を集めた。

しかし、イスラム氏のようなジャーナリストには、現地で何が起きているかを伝える手段がなかった。さらに悪いことに、生活のために他の仕事を見つけなくてはならなかった。

インドによるインターネットの遮断は、1月までに過去最長の150日間に及んだ。

「仲間のために何かしたいと思ってジャーナリズムを選んだ」とイスラム氏は言う。「この紛争にまみれた地域についてできる限り伝えてきたが、カシミール州が自治権を失って、私の人生の旅は終止符が打たれてしまった」

1月になって、インド政府は制限を緩め、カシミール州でのブロードバンド通信を一部回復させた。しかし、携帯のインターネットとソーシャルメディアは大部分が使えないままだ。

インドは同州の法と秩序を保つには必要な措置だとしている。

イスラム氏らジャーナリストにとっては、苦しい状況が続いている。

イスラム氏は数カ月間、記事や写真を送信しようと努力したという。

昨年9月には、6000ルピー(約9200円)を自分で払って、州都スリナガルを2度取材に訪れた。しかし、まもなく貯金は底をつき、取材を中止せざるを得なかった。

その後、固定電話で原稿を読み上げて送稿しようとした。しかし、何時間もかけて使用可能な固定電話を探した経費のほうが報酬を上回った。

イスラム氏は病気の妻のためにお金がどうしても必要で、最終的に工事現場でれんがを運ぶ仕事に就いた。

「別の仕事をしろと言われる」

匿名希望のジャーナリストも、数年間ジャーナリストとして働いていたが、昨年8月にやめたという。現在は酪農場で働く予定だ。

別の匿名希望のジャーナリストは、かつては家族にいい暮らしをさせるのに十分な稼ぎがあった。しかし今では、オートバイのガソリンすら買うのが難しいという。

さらに別のジャーナリストは、「過去6カ月間、記事を送れていないのでお金がない」と、匿名を条件にBBCに語った。「家族は私に別の仕事をみつけろと言い続けている。でも他に何ができるというのか?」

昨年12月には、アナントナーグの政府事務所で限定的にインターネットが使えるようになった。しかし、イスラム氏によると、4台しかないデスクトップパソコンは政府関係者や学生、若者らの利用者でいっぱいで、ジャーナリストたちの状況は改善されていないという。

「ほんの数分しかインターネットを使えず、速度も遅い」とイスラム氏は言う。「メールのチェックすらできない。ニュースを読むことは到底無理だ」

さらに、政府事務所の職員がメールの中身を見せるよう求めてくるという。「やりにくいが、選択の余地はない」。

情報源と何カ月間も連絡が取れず、関係を維持できないのも多くのジャーナリストにとって痛手となっているという。

こうした状況に、活字メディアの発行者も窮地に追い込まれている。「記者もライターも原稿が送れない」と、地元紙カシミール・イメージズのバシール・マンザー編集長は話す。

同紙はそれでも発行を続けている。1カ月の間に決められた日数以上発行しないと、免許を失ってしまうからだとマンザー氏は説明する。

一方、カシミール地方ではほとんどの読者がインターネットにアクセスできないため、ウェブサイトは苦労続きだという。

「私はニューヨークで何が起きているかテレビで知っている。でも自分の街で何が起きているかはわからない」

(英語記事 The Kashmir journalist forced into manual labour