巨匠ブライアン・デ・パルマ監督最新作! 職人芸の映像テクニックとサスペンスフルな音楽『ドミノ 復讐の咆哮』

『ドミノ 復讐の咆哮』© 2019 Schønne Film IVS

ヒッチコック主義を貫く孤高の映像作家、ブライアン・デ・パルマ

アルフレッド・ヒッチコックの映画をこよなく愛し、『アンタッチャブル』(1987年)と『ミッション:インポッシブル』(1996年)を大ヒットに導いた鬼才、ブライアン・デ・パルマ。彼がハリウッドを離れ、ヨーロッパで映画を撮るようになって久しい。『ミッション・トゥ・マーズ』(2000年)の興行的失敗が原因という説もあるが、ドキュメンタリー映画『デ・パルマ』(2015年)の中で、彼自身ハリウッドのシステムへの不満を露わにしていたので、これは本人の意思によるところも大きいのかもしれない。

2000年以降は『ファム・ファタール』(2002年)や『ブラック・ダリア』(2006年)、『パッション』(2012年)など、彼が異彩を放った70~80年代のスタイルに回帰した作品で、再び持ち味を発揮している。そんなデ・パルマの久々の新作が『ドミノ 復讐の咆哮』(2019年)である。

『ドミノ 復讐の咆哮』© 2019 Schønne Film IVS

『ゲーム・オブ・スローンズ』(2011年~2019年)で人気キャラクターのジェイミー・ラニスターを演じたニコライ・コスター=ワルドーを主演に迎えた本作は、ひとつの殺人事件が警察とCIAを巻き込んだISISの国際テロへと変貌していく過程を追ったクライム・スリラー。普通の監督であれば、相棒を殺された刑事クリスチャン(ニコライ・コスター=ワルドー)のリベンジ・アクションか、ポリティカル・サスペンスに仕上げるところだが、そこは鬼才デ・パルマ。凝った映像テクニックと、「ヒッチコック主義を追随しているのは私だけだ」と豪語するこだわりのスリラー演出を駆使して、映画を自分の色に染め上げている。

『ドミノ 復讐の咆哮』© 2019 Schønne Film IVS

ファン垂涎の映像テクニックが満載の89分

「拳銃の不携帯」というクリスチャンの致命的なミスを映し出す長回しのズームショット。デ・パルマ映画でおなじみの危険スポット「エレベーター」と「階段」での事件発生シークエンス。ヒッチコックの『めまい』(1958年)を意識した高所でのチェイスシーンなど、デ・パルマ映画の愛好家(=デパルマニア)ならば、序盤の20分だけで早くも眼福を得られるのではないだろうか。

『ドミノ 復讐の咆哮』© 2019 Schønne Film IVS

ほかにも監視カメラや双眼鏡による覗き映像、「今回はここで使うのか!?」という衝撃的な場面で挿入されるスプリット・スクリーン、闘牛場でのクライマックスをスリリングに盛り上げるスローモーションとカットバックなど、ファン垂涎の映像テクニックが満載。最近のアクション映画のように画面を激しく揺らさない、滑らかでマッタリとした動きのカメラワークも相まって、ドローンやSNSが登場する現代的なストーリーにもかかわらず、どこかレトロな雰囲気が漂う不思議な作品となっている。

『ドミノ 復讐の咆哮』© 2019 Schønne Film IVS

本作はデ・パルマが脚本に携わっていないものの、宝石強盗の舞台にカンヌ国際映画祭の会場を選んだ『ファム・ファタール』に続いて、今回はオランダ国際映画祭のレッドカーペットが惨劇の場と化すなど、物語の随所に「デ・パルマらしさ」が出ているように感じられた。

『ドミノ 復讐の咆哮』© 2019 Schønne Film IVS

デ・パルマ映画の常連作曲家、ピノ・ドナッジオの音楽に陶酔する

本作のレトロな雰囲気作りに一役買っているのが、デ・パルマの盟友ピノ・ドナッジオの音楽である。ドナッジオはこれまでに『キャリー』(1976年)、『悪夢のファミリー』(1979年)、『殺しのドレス』(1980年)、『ミッドナイトクロス』(1981年)、『ボディ・ダブル』(1984年)、『レイジング・ケイン』(1992年)などのスコア作曲を担当。『パッション』に続いての参加となる『ドミノ 復讐の咆哮』でも、ファンの期待を裏切らないメロディアスなサスペンス音楽を聴かせてくれている。

『ドミノ 復讐の咆哮』© 2019 Schønne Film IVS

まず物語序盤、オーケストラのドラマティックな演奏と不吉なメロディが事件の始まりを告げる、テクラ通りのアパートのシーンでの音楽が素晴らしい。そして本作のヒロインである刑事アレックス(カリス・ファン・ハウテン)の“不純で純粋”な悲恋を彩る、「愛のテーマ」の甘美なメロディにも心を打たれる。

『ドミノ 復讐の咆哮』© 2019 Schønne Film IVS

さらに、闘牛場でのクライマックスで流れるエキゾチックなスコアも強烈な印象を残す。危機一髪の状況を描くにしては妙に優雅な音楽が流れるのだが、よく聴いてみるとラヴェルの「ボレロ」のような趣がある。デパルマニアであれば、ここで即座に『ファム・ファタール』のスコア「Bolerish」を思い出すはず。デ・パルマのブレない美意識に、思わずニンマリしてしまう名場面と言えるだろう。

『ドミノ 復讐の咆哮』© 2019 Schønne Film IVS

本作のサウンドトラックアルバムは、Varèse Sarabandeからデジタルダウンロード版がリリースされている。傘寿も近い巨匠たち(デ・パルマ=1940年生まれ/ドナッジオ=1941年生まれ)の”職人芸”を、映像と音楽の両方で味わって頂きたいと思う。

『ドミノ 復讐の咆哮』© 2019 Schønne Film IVS

文:森本康治

『ドミノ 復讐の咆哮』は2020年2月14日(金)よりシネマート新宿・心斎橋ほか全国順次ロードショー

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