出産して2か月以内で議会に復帰せざるを得ない? 地方議員の産休・育休取得の状況とは?

小泉進次郎・環境大臣の育休取得をきっかけに「議員の産休・育休取得」について議論が活発になっています。ただ、中には「大臣を辞めてから休め」「お手伝いさんを雇えばいい」など否定的な反対意見も。

それでは、全国の地方議員の産休・育休取得はどのような状況なのでしょうか? 任期中に出産を経験した地方の女性議員らでつくる「出産議員ネットワーク」を立ち上げ、精力的に活動を行っている永野ひろ子・豊島区議に聞きました。

出産議員ネットワークの立ち上げ

永野議員の場合、豊島区議の2期目だった2008年に第1子を出産。出産での議会欠席は前例がなく、産休の時期や手続きの規定もありませんでした。周囲の理解が得られず、理不尽な経験をたくさんしたといいます。

こうした自身の経験から永野議員は2017年、在任中に出産経験のある地方議員や、現在妊娠中や将来子どもを持ちたいと考える地方議員が情報交換などを行う「出産議員ネットワーク」を立ち上げました。

ネットワークでFacebook上に開設した相談窓口には、「どうやって周囲に理解してもらえばいいのか」「産休・育休をどのくらいの期間取っていいのか」「どのように議会に説明すればいいのか」……。身近に相談できる人がおらず、消化できない思いを一人で抱えている人たちから、様々な不安や相談が寄せられました。
ここでは、出産を経験した議員や、必要に応じて医師・弁護士、学識経験者などにつなげ、問題を共有します。

全国の議員約20人で始まり、現在100人超。実態調査を行ったり、各政党や全国3議長会に要望書を提出したりする活動を行っています。18年8月には、男性議員も含めた超党派の地方議員で「子育て議員連盟」を立ち上げました。

産後 2か月以内に復帰せざるを得ない…?

同ネットワークが議員在任中に出産経験のある議員と元議員103人を対象に行った調査では、回答者63人のうち、産後2か月以内に復帰したのが51人と、8割を占めることがわかりました。そのうち、1か月以内で復帰したのは5人、1か月で復帰したのは12人と、産後すぐの復帰も少なくありません。

また、復帰の時期の判断について「議会の日程など」と答えた人が42人で一番多く、次いで「労働基準法や職員規定を参考に」が31人、「議会の基準」が9人と、議会の都合で産後間もなく復帰を決めなければならない状況が浮き彫りとなりました。

「妊娠・出産・育児に際し、不利益と思える扱いを受けたことがあるか」との質問には、「妊娠・出産等に批判的な言動を受けた」「休ませないような言動を受けた」「辞職を求められたり示唆するような言動や、選挙に出るなという言動を受けた」など、多くの議員が周囲から不利益な扱いを受けていることがわかりました。

このような状況を踏まえ、「あったら良いと思う表決権の行使等に関する制度は?」の質問には、37人が休んでいる議員に代わって代理の人間が投票する「代理投票制度」と答え、「書面による質問制度」に34人、「インターネット活用参加」に28人が、「あったら良い」と回答しました。

永野議員は、「活動を通してお会いする産科医の先生も、『議員はそんなひどい状況なのか!』とびっくりしていました。『産後休む、こんな当たり前のことがなんでわからないのか』と、でも、核家族化が進んで、赤ちゃんを抱っこしたことのない人もたくさんいるこの現代社会、当たり前のことがつながらない社会になってしまっているんですよね」と話します。

育所入所の申し込みに必要な「就労証明書」を書いてもらえない…

昨年9月から12月にかけて永野議員は、全国47都道府県、815市町村、926町村の議会事務局(計1,788団体)を対象に「議員配偶者の出産における欠席・休暇調査」を行いました。その集計結果によると、議員の配偶者が出産した事例は全体で627件確認でき、そのうち休暇を取得したのは23件だったことがわかりました。取得率はわずか3.66%。国内の一般企業などで働く男性の育休取得率は5.14%で、それをさらに下回る状況となっています。(厚生労働省「平成29年度雇用均等基本調査」より)

また、配偶者の出産にともなう欠席や休暇に関する規定が、「ない」と答えたのが95%で、規定の整備が必要な状況となっています。

さらに、保育所入所などの申し込みに必要な「就労証明書」の作成依頼があった場合の対応についても調査。「常勤扱いで記入」「非常勤扱いで記入」「記載可能な箇所のみ記入」「在職証明書の発行」と、何らかの形で対応してくれるのは29%だった一方で、「雇用関係にないので発行しない」と答えたところも9%ありました。

調査では、各議会で、議員の仕事と家庭の両立を支援する取り組みについても質問。授乳室や保育スペースの整備をはじめ、「長期間議員活動ができない場合に報酬を減額するが、条例で産休・育休については減額の適用外にしている(埼玉県戸田市)」、「議会研修会や視察に子ども同伴での移動・宿泊を認める(東京都足立区)」など、独自の取り組みを行う自治体も増えてきました。

ネットワークの活動は少しずつ実を結び、会議規則に「出産」による欠席規定を設ける議会も広がってきました。永野議員は、「議会はすべての人のものなので、社会の縮図として機能しなくてはいけないと思います。妊娠、出産の問題に限らず、すべての人がかかわれる場所でなければいけない」と話します。

妊娠出産に伴う女性議員の代理投票や遠隔投票の検討など、やるべきことは山積み。「国会が足踏みしているなら、地方議会から進める」。具体的に行動をおこす準備を進めています。

 

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