患者行動の公開か 風評被害防止と個人情報保護か 広がる不安に見えない答え探し

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記者会見で質問に答える県の砂川靖保健医療部長(右)と糸数公保健衛生統括監=14日午後、県庁

[新型肺炎 県内感染の波紋](1)

 「不安解消のために公表すべきでは」「個人を特定する情報ではなく、タクシーがどう移動したかだけでも言えないか」

 県内で初めて新型コロナウイルスの感染が明らかになった14日午後7時すぎ、県庁での記者会見。

 感染したタクシー運転手の女性はいつ、どこでどんな行動をしたのか。県幹部は「差し控える」「公表しない」と繰り返した。

 女性はせきがひどくなり、発症したとみられる後も数日間、本島南部を中心に客を乗せて走っていた。狭い車内。感染の可能性はあるが、県は会社名や走行経路を明らかにしなかった。市町村からの問い合わせにも詳細を伝えず、「知事の会見を見てほしい」と答えるだけだったという。

 車社会の沖縄にとってタクシーは移動に欠かせない。「県民の足」の運転手が感染した余波は大きかった。感染確認の翌15日には保健所などに問い合わせが急増した。「タクシーがどこを走ったのか教えてほしい」と、乗務履歴を尋ねる声が複数あった。

自治体でばらつき

 感染した人がどこをどう行動したか。自分の健康を守るために誰もが知りたい情報だ。だが実際には、自治体によって公表の範囲や対象にばらつきがある。

 沖縄と同じくタクシー運転手の70代男性が感染した東京都では、発症後の乗務はないと明示した上で、男性が医療機関へ行った際の移動手段が自転車や自家用車だったことも公表した。

 「情報がないと住民は不安になる」として、さらに踏み込んだのは大阪府だ。感染したツアーバスガイドの女性が住む市町村を独自の判断で明かした。行動履歴も、日付とともに立ち寄り先を「心斎橋エリア」「大阪城エリア」と詳しく知らせた。

「メリットがない」

 沖縄県は足取りの公表基準を、不特定多数が狭い空間にいて、しかも関係機関の同意があり、感染した人も不利にならない場合と厳しく定める。

 県関係者は「ウイルスは紫外線に当たるとすぐ死ぬ。公表した場合、風評被害などデメリットはあってもメリットがない」と詳細な公表の効果をいぶかる。「少しでも情報を知り安心したい気持ちも分かるが、てんびんにかければ個人情報を守ることと風評被害を防ぐ方が大事だ」と話した。

 県内初の感染を受け、保健所などには運転手の乗務記録を配った。県民から「女性の車に乗ったかも」との問い合わせがあれば、乗車・下車の時間や場所など手元の記録と照合して、対応できるようにするためだ。

 ウイルスは目に見えない。新型コロナウイルスには特効薬がなく、風邪と見分けがつきにくいことも人々に不安を生んでいる。どう情報を公開することが、正しい理解につながり感染の抑止を導くのか。県内でも感染確認と同時に、正解の見えない答え探しが始まった。(社会部・下地由実子、篠原知恵)