『ソン・ランの響き』 構図の美しさ。男優の美しさ

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 サイゴン(現・ホーチミン市)に生まれ、アメリカで育った新鋭レオン・レが、ベトナムに戻って撮った長編初監督作だ。舞台は1980年代のサイゴン。“雷のユン兄貴”と恐れられる借金の取り立て屋ユンと、伝統歌劇カイルオンの花形役者リン・フンが出会い、次第に友情にも似た感情を抱くようになるが…。

 露骨に描いてはいないがBL感が漂う男二人の話で、「美しい」という形容が本当にしっくりくる映画だ。主演の二人(特にリン・フンを演じるアイザックは美貌だが)のことだけではない。スタンダードの安定した画面サイズで切り取られた構図が、どれも美しいのだ。固定画面を基調とし、そこへ人物などが無駄なく的確に出入りする。その情報の出し入れがまた、計算されていて美しい。おぼろ月夜はもちろん、街灯に照らされた何気ない夜の風景でさえ美しく、似た顔立ちの子役を介してつなぐ回想シーンのナチュラルな挿入も然り。

 何より、客席からカイルオンを観る、つまりはリン・フンを見つめるユンの“視る”という映画的な行為が美しく、彼の無表情と、説明を極力排した語り口、夜のシーンを多用したノワールタッチの世界観が、端正なスタンダードの画面と調和して、硬質のリリシズムとでも呼びたくなる空気を立ち昇らせている。『第三夫人と髪飾り』のアッシュ・メイフェア監督に続き、ベトナムからまた瞠目すべき才能が現れた。★★★★★(外山真也)

監督・脚本:レオン・レ

出演:リエン・ビン・ファット、アイザック

2月22日(土)から全国順次公開

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