計画遅延中の電動GT選手権『EPCS』シリーズ、「プランは今も生きている」とCEO

 世界初の『エレクトリックGT』としてシリーズ構想がアナウンスされ、のちにFIA公認チャンピオンシップにも指定されたEGTシリーズ。その後『EPCSエレクトリック・プロダクション・カー・シリーズ』へと名称が変わった同シリーズは2018年のシリーズラウンチ発表以降、情報公開がない状態が続いている。しかし選手権のCEOを務めるマーク・ゲメルは、「投資家との資金調達協議を進行中」で「計画はまだ生きている」と語った。

 電動モータースポーツについては、このカテゴリをけん引するABBフォーミュラE選手権を筆頭に、そのサポートシリーズであるジャガーI-ペースeトロフィーや、完全電動化を果たしたフランスの伝統的アイスレース、アンドロス・e-トロフィー、2021年創設予定の電動SUV選手権エクストリームEに、TCR規定ツーリングカーの電動版ETCRなど、2020年の段階ですでに数多くのシリーズが誕生している。

 その現実を横目に、エレクトリックGTホールディングスのCEOを務めるゲメルは、2018年9月に選手権開幕の遅延という情報を公開して以降初めて、現在シリーズがどのような状況に置かれているかを明かした。

「FIAの承認を得てから、チャンピオンシップを開始するために資金を調達することに集中してきた」と、電動モータースポーツ専門サイト『e-racing365.com』に説明したゲメル。

「残念ながら状況はそれほど大きく変化してはいないが、多くの投資家にアプローチしている。その一部ではある程度の進捗をみせており、彼らの要件に見合うようビジネスモデルの細部を修正しているところだ」

 同時に、シリーズのラウンチ以降もEV業界は日進月歩で変化を続けており「サーキットに最新モデルを持ち込むべく」業界の変遷を注視しているというゲメルだが、直面する課題のひとつとして「投資家側が業界内の人々が期待するほど電動化を支持していない」ことを挙げ、多くの支援者が電気自動車こそが未来であるという「明白な」事実を認識するには、さらに多くの時間が必要になるとも考えている。

「投資家たちと話を始めて我々が最初に気づかされたのは、この手の話は彼らにとってまだ時期尚早で、タイミングが早すぎた、ということだった」と明かすゲメル。

初年度に向けテストが続いていた『EPCS V2.3テスラP100DL』は、最高出力778PS、最大トルク995Nmを発生
「市販EVをモータースポーツの現場に持ち込むことで、電動化を促したい」と語るマーク・ゲメルCEO

「(EV業界に携わる人々にとって)電動化は当たり前のように訪れる未来だが、投資家たちの認識や反応は非常にユニークで面白い体験だった。自動車業界、エネルギー産業、電動化技術の世界で働く人々に会うと、その世界で今、何が起きているのかについて驚くべきことばかりなんだ」

「私はこの業界で働く最先端の人々とも、(テスラCEOの)イーロン・マスクが誰であるかを知らないような人々ともよく話し合った。当然、それぞれの考え方や現状認識には大きなギャップがある。でも投資家たちもその議論に追いつく時期になってきたと感じている」

「一部の人々にとってはそうではないかもしれないが、私が思うに『未来のトランスポート、モビリティは電気とともにある』ことは明白だ。投資家たちがそれを認識したとき、シリーズラウンチの機会が得られるだろう」

 さらにゲメルは、シリーズ創設が遅れているもうひとつの理由として、EPCSを国内選手権や地域選手権など控えめな規模で急ぎ立ち上げるのではなく、より広範な電気自動車業界に影響を与えるべく、大規模な国際プラットフォームで立ち上げるという決意が揺らいでいない点も影響したと語る。

「我々の視点では、適切な規模でラウンチすることが非常に重要なんだ。投資家に対するメッセージでも、小規模から初めて適切な組織を構築することは最優先事項ではない。投資コミュニティの一般的な雰囲気は『Go Big or Go Home(中途半端にやってもしょうがない)』だ」

「メディアへの露出が少なる可能性がある小規模な国内シリーズを立ち上げても意味がない。スポンサーを惹きつけられず、世間の注目を集めることもできないからだ。投資という視点で、この問題を正当化することは難しいだろう」

 このため、EGTホールディングスが拠点を置くスペイン国内でシリーズを創設するプランやチャンスは幾度も訪れたというが、上述の理由からこれを見送る決断を下している。

これまでハインツ-ハラルド・フレンツェンやルーカス・ディ・グラッシ、カルン・チャンドックらが0-100km/h加速2.1秒のマシンをテストしてきた
当初は『EPCS V2.3テスラP100DL』のみのワンメイクを予定するも、現在はジャガーI-PACE、ポルシェ・タイカン、テスラ・モデル3も対象に加えられた

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