【西智弘コラム】「亡くなった娘にVRで会える」は、果たして癒しなのか

亡くなられた娘さんにVRで会う、という動画が流れてきた。どうも韓国のテレビ番組のようだ。

僕はあまり賛成できない取り組みだと感じた。

お母さんの悲しみや故人に会いたいという思いは否定できないが、それに対する解決方法としてVRで、とする提供側の問題があると感じた。

人が死別のプロセスからどのように回復していくかということを学んだうえでのコンテンツ製作なんだろうか?と、疑問に思えたのだ。

家族を喪って悲しい、という人に対し「故人に会えるようにしてあげますよ」と言って、その結果がVRなのだろうか。

会話もできないのに。

しかも、VR上での娘さんに「お母さん泣かないで」などと言わせている。
いや、泣いたっていいじゃないか。

しかもそのセリフを言わせているのは製作者であって、当たり前だがなくなった娘さんではない。

娘さんが生前にそういう言葉を遺していてのセリフならまだしも、そうではないのに、娘さんの口を借りて語っているのだとしたら、死者への冒涜にもなるのではないか。

繰り返すが、故人に会いたいという気持ちは否定されるものではない。日本には「イタコ」という風習があるが、それが今での残っているのは求められているということでもあるだろう。

しかしイタコさんの場合は会話ができる。問いかければ返ってくる。それに、毎日イタコさんに会えるわけではない。
VRなら毎日会えてしまう。これは罪深いと思う。

「故人に会いたいですか」と問われれば多くの人は「はい」と言うだろうし、「VRの中でなら会えますよ」と誘えば、応じる人は多いだろう。

ニーズがある、という反論は否定したい。それは「麻薬は気持ちいいから使いたいですよね」と誘って「ニーズがある」と言うのに似ている。

人が喪失から立ち直っていくプロセスについて学べば、「故人に会いたい」という遺族に対し「会わせてあげますよ」という解決法が長期的に良い方法ではないことは分かるはずだ。

それでもこれを進めるなら、このVR製作陣は母親の悲嘆にずっと付き合う覚悟を持つべきだと思う。

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西 智弘

川崎市立井田病院 かわさき総合ケアセンター腫瘍内科/緩和ケア内科 2005年北海道大学卒。家庭医療専門医を志し、室蘭日鋼記念病院で初期研修後、緩和ケアに魅了され緩和ケア・腫瘍内科医に転向。川崎市立井田病院、栃木県立がんセンター腫瘍内科を経て、2012年から現職。一般社団法人プラスケアを立ち上げ「暮らしの保健室」の実践や、社会的処方の実践論を研究する「社会的処方研究所」の開始など、病気になっても安心して暮らせるコミュニティを作るために活動している。

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