オフコース「さよなら」小田和正の運命を大きく変えた一曲 ~ 後篇 1980年 2月18日 オフコースのシングル「さよなら」がオリコンチャートで最高位(2位)を記録した日

【オフコース「さよなら」小田和正の運命を大きく変えた一曲 ~ 前篇 からの続き】

2001年、小田和正のアルバムで取り上げられた「さよなら」

2001年5月16日にリリースされたセルフカヴァーアルバム第2弾『LOOKING BACK 2』で小田和正は「さよなら」を取り上げた。あのイントロも無くギターソロも無かった。このヴァージョンは翌2002年にリリースされた大ヒットアルバム『自己ベスト』にも収められた。いよいよオリジナル・ヴァージョンは遠くなりにけりかと思われた。

この年の『Kira Kira』ツアーで遂に「さよなら」がレギュラーでセットリストに入った。僕は翌2003年5月4日の早稲田大学でのチャリティーコンサートでようやく「さよなら」との対面を果たす。が、この時の記憶は全くと言っていい程無い。ネットで調べた限り、この時は『LOOKING BACK』ヴァージョンだったらしく、それが理由なのかもしれない。小田はやはりギターを手にしていたそうだ。

2005年の『大好きな君に』ツアーでも「さよなら」はセットリストに入った。僕は7月7日の日本武道館公演で観たのだが、この時はオリジナル・ヴァージョンだったが、ギターソロだけはフレーズが大きく変えられていた。小田はやはりギターを持ち、立っていた。

その後2008年のツアー『今日もどこかで』、2013年の東北を回るツアー『その日がくるまで』でも歌われているのだが、いずれにも足を運んでいる僕にも記憶は殆ど残っていない。

2016年、ついにオフコースのオリジナルアレンジで歌われる!?

2016年4月20日、小田和正のオールタイムべスト『あの日 あの時』がリリースされ、見事オリコン1位に輝いた。ここに収められた「さよなら」も『LOOKING BACK』ヴァージョンだった。

「鍵盤を弾きながら「さよなら」を歌う小田さんはもう観られないのかな」高校時代僕にオフコースを教えてくれた友人と『あの日 あの時』を聴きながらワインを飲みそんな話をしたこともあった。

4月30日、このアルバムを受けてのツアー『KAZUMASA ODA TOUR 2016 君住む街へ』が静岡エコパアリーナで始まった。2008年以降、僕は小田和正のツアー初日に極力足を運んでいる。セットリストを知らないまっさらな状態でライヴを楽しみたいからであり、ツアー初日には毎回あっと驚くサプライズがあった。

この日のセットリストは3曲めから、ご当地紀行の VTR が入る中入りまで10曲オフコースの曲が続くという、新譜の PR を兼ねてではあろうが贅沢な構成だった。

4曲め、「秋の気配」が始まる。僕は思わず声を上げた。『あの日 あの時』では『LOOKING BACK』ヴァージョンで、オフコースと違うアレンジで収められていたこの曲が、ストリングスも交えオフコースのオリジナル通りのアレンジで歌われたのだ。確認出来ていないがこれは小田ソロ初めてのことだったかもしれない。観客からの反応もやはり熱かった。

これはひょっとして「さよなら」も!? 不謹慎ながら僕は早くもそんなことを考え始めたのだった。

1982年以来、実に34年振りにピアノとバンドで!

しかしその時は予想以上に早くやって来た。「秋の気配」が終わりグランドピアノの前に座った小田和正が弾いたのはまさに「さよなら」のあのイントロだった。

その瞬間、もう涙が止まらなかった。この曲をライヴで聴いて涙したのはもちろんこれが初めて。同じアレンジでも小田がピアノを弾きながら歌うとこんなに泣けてしまうとは。

ギターソロも鈴木康博が弾いたあのフレーズに忠実だった。最後のアウトロだけが『LOOKING BACK』ヴァージョンに近かったがそれも最早微笑ましかった。

意外にも観客の反応は終始思ったよりも静かであった。あまりのことに呆然としていたという方が正しかったのではないだろうか。小田も少し戸惑っていた様子だったように記憶している。

「「さよなら」を久し振りにピアノで歌ってみました。色んなことが、蘇るなと言っても蘇ってきまして 」

小田は短く MC を加えた。ピアノの前に小田が座ってバンドで「さよなら」を歌ったのは1982年以来、実に34年振りのことだった。

7月1日には、初めて小田和正を観る父母を東京体育館に連れて行った。初めて観た両親にとっては当たり前のように映ったであろう「さよなら」が、ここまで来るのにいかに歳月を要したのか、僕は熱弁をふるったのだった。

「喜んで頂けてとっても嬉しいです」「何十年振りにピアノで歌いまして、やっぱり「さよなら」はこれだったのかなと(思いました)」小田も認めていた。

そして2018年、歳月を経てアンコールに復帰した「さよなら」

2018年『Kazumasa Oda Tour 2018 ENCORE!!』が始まった。僕はツアー2箇所め、3公演めとなる5月12日の静岡エコパアリーナ公演に参加した。

「さよなら」はついに2つめのアンコールに置かれた。イントロが始まると場内からは「うわぁ」という嬌声にも似た歓声が上がり、熱い拍手が湧き上った。1980年のオフコース以来と言えるこの位置、実はこの曲に相応しいのかもしれないと僕も今更ながら思った。小田自身にも思うところが多々あったに違いない。

8月29日には母と日本武道館で「さよなら」を観ることが出来た。1982年のこの会場でのオフコースのライヴ映像を明らかに意識したカメラワークの中継映像がモニターに映し出され、36年を経て同じ人物が同じ会場で同じキーで歌い続けていることの重みがひしと伝わって来た。客席にはオフコースの元メンバー、清水仁の姿もあったという。

昨年2019年、前年のツアーの追加ツアー『Kazumasa Oda Tour 2019 ENCORE!! ENCORE!!』が開催された。僕は初日の5月14日横浜アリーナ公演に足を運んだのだが、「さよなら」はやはりダブルアンコールで登場した。

そしてこのツアーの6月末の埼玉公演の模様が『Kazumasa Oda Tour 2019 ENCORE!! ENCORE!! in さいたまスーパーアリーナ』という映像ソフトになり、昨年11月27日にリリースされた。

「さよなら」は2001年の『ちょっと寒いけどみんなでSAME MOON!!』以来18年振りに映像作品に収められた。ピアノを弾いてとなると、1982年の『Off Course 1982・6・30 武道館コンサート』以来実に37年振りとなる。

37年を経てキーを変えず、和田唱も指摘していたが「(ベテランらしく)ためることもせず」歌い続ける小田和正の姿を、37年前のオフコースの小田と見比べてみるのも究極の贅沢と言えるのではないか。

本当に歳月は要したが、やはりこれは奇跡であり、そして希望なのだ。

カタリベ: 宮木宣嗣

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