今年もよく笑い、よく泣き表情豊かな子どもたちでにぎわっていた。保護者の方々が必死に声援を送る姿もほほえましい。
2月2日に東京・両国国技館で行われた、大相撲の横綱白鵬が主催する少年相撲の国際親善大会「白鵬杯」。2010年の第1回から節目の10度目の開催は13カ国・地域の小学1年生から中学3年生までの1100人以上が参加して熱戦を展開した。
白鵬は9時間ほどにわたって、ほとんど席を離れることなく土俵を見守った。
けがや休場も多くなり、何かと立ち居振る舞いが批判されやすい第一人者だが「相撲が好き」という純粋な気持ちはぶれることなく、国技にとって大きな財産を築いている。
2010年は角界が野球賭博問題に揺れた年だ。白鵬は「子どもたちが相撲から離れてしまうのではないか」と不安を覚えたという。
「白鵬杯」は実績に関係なく出場ができる。わんぱく相撲全国大会などで優勝経験がある強豪も、はじめてまわしを締める小さな子もいる。
「血のにじむような勝負をしている土俵で、子どもたちが相撲を取ってくれるのはうれしい限り」と大横綱も目を細めた。
既に白鵬との対戦経験がある幕内阿武咲や、春場所で新入幕の可能性がある琴ノ若もこの大会を経験した。
力士になるきっかけとしても意義があるが、個人的には相撲を実体験できることが未来への糧になると思う。
東京五輪を控える中でスポーツは多様化。相撲がどんなものか感じることがないまま大人になっていっても不思議ではない。
それでも。土俵に立つ緊張感や足の裏に伝わる独特の土の感触や冷たさ、投げられた時の痛みやお互いに全力をぶつけ合うことのすがすがしさ―。直径4メートル55センチの土俵に立ってみて、新たに広がる世界があるのではないか。
ある親方は「砂場に円を描いて子どもたちに『ほら、相撲を取ってごらん』と言えば、ルールを説明していないのに円から出ないように、尻もちをつかないように踏ん張る。他のスポーツではあまりないこと。それだけ日本のなかに相撲は根付いている。しっかり伝えていかないといけない」と力を込める。
丸い土俵のように、相撲は文化として回り、つながっていく。何十年間後に「白鵬杯」に出た子が父親になり、自分の子どもに「相撲というのはね…」と語りかける。
そんな何気ない日常が続いていればいい。「白鵬杯」を取材しながら普及の意味を考えた。
七野 嘉昭(しちの・よしあき)プロフィル
2008年共同通信入社。09年末から福岡支社運動部でプロ野球ソフトバンクを主に担当。13年末から本社運動部で大相撲やボクシングを中心に取材。岐阜県出身。