44歳独身「老人ホームの入居費用をつくるため、持ち家を売却したい」

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。

今回の相談者は、老後を見据えて老人ホームの入居費用を準備したいという44歳の独身女性。2年前に購入した持ち家を売却して、入居費用の足しにしたいといいますが、はたして正しい選択なのでしょうか。マネーフォワードから生まれたお金の相談窓口『mirai talk』のFP秋山芳生氏がお答えします。

44歳、独身です。現在住んでいるマンションは持ち家で、今年築12年目。私は2018年から居住しています。ですが、56歳になったら現在と同程度の賃貸マンションへの住み替えを検討しています。老人ホームに入るまでは賃貸に居住する予定です。賃貸に住み替えする理由は、老人ホームの入居費用の足しになる資産を作りたいからです。

この計画はプロの目から見てどう思われますか。また、家計についてもアドバイスがあればご教示いただけるとありがたいです。

<相談者プロフィール>

・女性、44歳、未婚

・職業:会社員

・居住形態:持ち家(マンション)

・毎月の手取り金額:23.5万円

・年間の手取りボーナス額:95万円

・毎月の世帯の支出目安:19万円

【支出の内訳】

・住居費:7.6万円(管理費込)

・食費:3.5万円

・水道光熱費:1万円

・教育費:なし

・保険料:0.4万円

・通信費:0.5万円

・車両費:なし

・お小遣い:5万円

・その他:1万円

【資産状況】

・毎月の貯蓄額:4.5万円

・年間ボーナスからの貯蓄額:65万円

・現在の貯蓄総額:1000万円

・現在の投資総額:なし

・現在の負債総額:1300万円(住宅ローン:物件購入額2100万円、借入額1500万円、金利1.2%・10年固定、返済期間25年)


秋山:ご相談いただきありがとうございます。ファイナンシャルプランナーの秋山です。

現在の持ち家マンションから賃貸に住み替え、老人ホームの入居費用を捻出するための資産形成を検討されているのですね。注意すべきことや、家計の見直しのポイントがあるかどうかについても見ていきたいと思います。

一口に老人ホームといっても、費用はピンからキリまで

独身でいらっしゃるので、将来のご自身の介護などを考えて老人ホームなどでケアを受けられるように準備しておきたいということですね。事前に準備ができているかどうかで選択の幅が変わりますので、ご検討されることはよいことだと思います。

まず老後の過ごし方として、どのような老人ホームを選択するのかによって費用が大きく変わってきます。

民間の老人ホームは、入居する資金として1000万円や2000万円かかるところも多いですし、逆に入居費用が0円というところもあります。また1ヵ月あたりの費用も10万円前後のところから100万円を超えるところまで、まちまちです。入居する老人ホームのエリアや設備によっても費用が変わると思いますが、全般的には20万円前後かかるところが多いようです。平均的な民間有料老人ホームの入居期間は、2.7年(※)。費用換算すると、毎月20万円×12ヵ月×2.7年で、648万円という計算になります。

一方、特別養護老人ホームは、要介護3以上の状態になっている要介護者を受け入れる施設です。こちらは地域によって異なりますが、大変混んでいて2~3ヵ月待ちは当たり前で、中には10年待つこともあるようです。入居費用は無料で、毎月の費用は介護状態によりますが14万円前後のところが多いようです。

老後の対策として、介護状態になってから入る特別養護老人ホームを前提にプランを組むのは難しいと思います。もちろんこの他にも、在宅介護であったり、ケアホームであったり、複数の選択肢があるのですが、ご利用になるのは今から30年以上先のことになると思いますので、制度も変更されているでしょうし、料金なども精緻にみる必要は今はないと思います。とはいえ、老後は非常にお金がかかるケースを想定した上で資産形成ができているかということが重要になってきます。

※野村総合研究所「高齢者向け住まい及び事業の運営実態に関する調査研究 報告書」より

マンションの売却は築〇年後からが正解?

住宅の話に戻りますと、2018年に築10年のマンションを2100万円で購入されていて、2032年に売却を考えていらっしゃるということですね。そうなると売却時では築24年のマンションということになります。

どのような物件かにもよりますが、例えば東京23区内の主要駅の駅近物件など、今後も需要が高いことが見越せる物件でないと、価格が購入時よりも高くなる、またはキープすることは難しい状況にあるのではないかと思います。

特に購入された2018年というタイミングは、マンション価格が非常に高騰しており、高値掴みになっている可能性もあります。売却時点での住宅価格がどうなっているかは明言できませんが、今後人口も世帯数も2020年現在よりは少なくなっていきます。住宅需要が減ると価格は下落の方向にむ可能性が高いです。

とはいえ、暗くなる必要はありません。結果として、住宅ローンの残債に対してマンションの販売価格が上回っていればよいのです。そう考えると、今から12年後の築24年での売却というのは、もしかするともったいない可能性もあります。

一般的に住宅の価格は、20年ほどである程度下がりきり、その後、価格の下落は緩やかになります。そうなると、築24年も築26年も築28年もそれほど売却時の価格に差が出ない可能性があります。例えば築24年時に1500万円、26年に1480万円、28年に1460万円で売却ができたとすると、資産の目減りは1年あたり20万円ということになります。住宅ローンを年70万円から80万円返済できているようであれば、その差分は売却時の手残りとして増えることになります。

また、住宅ローンを25年で設計されているので、完済は65歳になりますね。昨今の少子高齢化対策として、65歳、さらには70歳まで働くのは当たり前の時代が来ようとしています。仮に80歳以降に介護が必要になると考えると、収入が今後どのようになるかにもよりますが、住宅ローンを払い切れるようであれば払い切って、ローン完済後も住めるだけ住んでから売却した方が手元にお金が残るかもしれません。

修繕費が上がる、役職定年など…売却の際はタイミングに注意

一方で、マンションの修繕費が大幅に上がるタイミングなども考慮する必要はあります。築20年、30年となっていくと、共用部分であるエントランスやエレベーター、外壁などの補修・修繕にかかる費用も上がっていきます。住んでいるマンションにもよりますが、修繕費の増加は100戸以上の大型マンションに比べ、20~30戸のマンションの方が1戸あたりの負担が大きくなることがありますので、今お住まいのマンションの修繕計画などに目を通しておいてください。また、お風呂や台所などの水回りの修繕や家電の買い換えなども必要になることを視野に入れておいていただければと思います。

もし現在のマンションを売却したら、同程度の賃貸マンションに引っ越したいとのことですが、分譲マンションと同程度のグレード・間取りのマンションということになると、賃貸の方が高くなる可能性があります。部屋を貸している大家さんは、空室リスクや修繕費用を見越した上で利益が出るように考えるからです。となると、今と同じグレードを求めると住宅費が今よりも高くなることもあるので、その時点で賃貸状況などもチェックし、有利であれば売却し、不理であれば売らないという冷静な判断をされるとよいと思います。

ただし56歳のタイミングで売却することを考えていらっしゃるので、仮に役職定年が55歳で大幅に給料が下がるということがあれば、売却してより住宅費の負担が少なくなるところに住み替えという選択肢もあるかもしれません。

様々な視点があるので、将来の状況によって選択は変わるかと思いますが、今の家に住み続けた場合と、売却をする場合のアドバイスができたらと思います。

家計は問題なし、住宅ローンは借り換えの検討を

現在の家計は、「お小遣い5万円」と「その他1万円」の内容にもよりますが、衣服や交際費、趣味・娯楽などの費用が含まれているのであれば、それほど使いすぎというわけではないと思います。

ただし、「今の家に住み続けよう」という判断であれば、住宅ローンの見直しはあり得ると思います。現在は10年固定金利で1.2%の金利を選択されていますが、変動金利が過去最低水準まで下がっています。住信SBIネット銀行や、ジャパンネット銀行などは、0.4%前半や0.3%後半の金利が出ています。

返済期間が10年以上残っていて、借入残高が1000万円以上あれば、見直すことで住宅ローン支払い額が下がる可能性があります。もちろん変動金利は金利上昇の可能性がありますが、過去の変動金利の状況や今後の日本の経済を見越すとそれほど大きな金利上昇は考えづらいのでご検討いただいてもよいと思います。

売却する際には仲介手数料にも注目して

またマンションを売却する場合には、不動産仲介会社を経由して販売することになると思います。その場合の仲介料は、印紙税や登記を外す費用などに加え、仲介手数料3%+6万円に消費税を加えた額で提示されることが一般的です。

仮に1000万円で売却した場合、30万円+6万円に消費税ということになります。この仲介手数料の3%というのは仲介会社が提示してよい上限であり、3%が絶対の金額ではありません。契約の際に仲介手数料2%、1%など、交渉に応じてくれる仲介会社もありますので、複数の不動産仲介会社から選ばれるとよいと思います。

また、住宅を売却して利益が出た場合、売却した年の1月現在で購入から5年経っているようであれば長期譲渡所得ということで、譲渡所得に対して20.315%の税金が発生します。こちらについても譲渡所得から最高で3000万円を控除できます。この控除のことを「居住用財産を譲渡した場合の3000万円の特別控除の特例」といいます。

売却時のマンション価格によりますが、2100万円で購入した物件から譲渡所得が3000万円を超えることは考えにくいので、利益がでても無税になると思いますが、その際は税理士か税務署にお問い合わせください。


まとめると、老人ホームに入ることを前提に資産形成を考えた場合、現在のマンションの売却は住宅ローン完済後の方が手元にお金が残る可能性があります。

また、家計はそれほど無駄遣いがあるわけでもないので、無理な切り詰めは必要ないと思います。現在44歳で、まだまだ介護を受ける年齢までに時間があると思いますので、現在の現金資産を「つみたてNISA」や「確定拠出年金」などの税制優遇制度を活用した運用にまわしていくのがよいと思います。ぜひ長期投資を学ばれて実践されてはいかがでしょうか?

以上、ご参考になれば幸いです。

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