サイン盗み“告発”のア軍右腕をMLBコミッショナー擁護「球界のために貢献してくれた」

MLBのロブ・マンフレッドコミッショナー【写真:Getty Images】

サイン盗みを告発したファイアーズは2015年途中から17年までアストロズに在籍した

 サイン盗みを行ったアストロズへの非難は収まる気配がない。一方で、サイン盗み行為があったことを最初に米メディアで明かした元アストロズのマイク・ファイアーズ投手(アスレチックス)に怒りの矛先を向ける選手や関係者もいる。MLBコミッショナーのロブ・マンフレッド氏は、アストロズへの処分の“甘さ”で自身も批判される中、ファイアーズを擁護している。

 2015年途中から17年までアストロズに在籍したファイアーズは昨年、米メディア「ジ・アスレチック」に対し、本拠地での不正行為を告発。ここからMLBが調査に動き出し、ワールドシリーズ制覇を果たした2017年のサイン盗みが世に暴かれた。しかし、2017年当時にその不正を止める行動を起こさなかったこと、クラブハウス内の情報秘匿というチームのルールを破ったことなどを問題視する選手も。元アストロズのダラス・カイケル投手(ホワイトソックス)は「クラブハウスのルールが破られて残念だ。彼については言いたいことはあまりない」などと話し、この発言も物議を醸していた。

 地元紙「サンフランシスコ・クロニクル」のアスレチックス番、スーザン・スラッサー記者は、マンフレッド氏が「この件に関してはっきりさせておきたい。マイク・ファイアーズは球界のために貢献してくれた。結果的に我々はより成長していけると確信している」と話したことをツイート。さらに「ファイアーズ(の告発)無くして、MLBが(サイン盗み案件の)事態を浄化することが極めて困難なことになっていて、遥かに多くの時間を費やすことになっていただろうと、彼は語っている」とも伝えた。

マンフレッド氏「コミッショナーとして置かれている立場に、不安など微塵も感じない」

 しかし、アストロズに対する処分はルーノー前GMとヒンチ前監督の停職、球団に対する罰金と2年間のドラフト1、2巡目の指名権剥奪にとどまっており、選手に対する処分はなし。世界一が剥奪されることもなかった。マンフレッド氏は、選手への処罰がなかった理由について、2017年に通達したMLBのテクノロジー使用に関するルールをルーノー前GMがチームに伝えなかったためだと説明している。

 また、米スポーツ専門メディア「ジ・アスレチック」のエンゼルス番、ファビアン・アルダヤ記者もマンフレッド氏の発言をツイート。「球団に対して私が科す処分がどんなものであれ、私はコミッショナーとして置かれている立場に、不安など微塵も感じない。私が処分を下す立場であることと、この役職を揺るぎないものにすることに関して、利害が衝突することはない」とコメントしたという。コミッショナーは球団経営陣の投票によって就任や任期が決まるため、フロントを守ることは自身の地位の安定にも繋がる可能性もある。

 しかし実際には、その処分の内容自体に選手や他球団関係者から疑問符がついている。特に「ESPN」での「アスタリスクをつけることや金属品(チャンピオンリング)の返還を求めるという考えは、無益のように思える」というマンフレッド氏の発言は2017年にアストロズとワールドシリーズを争ったドジャースの選手らからもひんしゅくを買い、ジャスティン・ターナー内野手は「よくない前例を作った」と痛烈に批判した。この一連の騒動が球界全体に暗い影を落としたことは間違いないが、それをマンフレッド氏の力で払拭することはできるのだろうか。(Full-Count編集部)

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