妄想と願望が「想像力の怪物」を作り上げた!

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「驚きたければこれを読め」――。本格ミステリ大賞受賞の傑作推理小説、城平京(しろだいら きょう)さんの『虚構推理』をご存知だろうか?

本書『虚構推理』(講談社タイガ)は、2011年に『虚構推理 鋼人七瀬』(講談社ノベルス)、15年に『虚構推理』(講談社文庫)として刊行されたもの。15年から「少年マガジンR」でコミックス化され、今年(2020年)1月にはテレビアニメがスタートした。なお、若い読者が好む尖ったミステリであること、漫画がブレイクしたことから、表紙を刷新し、若者向けレーベルである講談社タイガより19年に文庫化された。シリーズ累計300万部突破という人気ぶりだ。

本書は約400ページとボリュームがあり、内容も濃く、読み応えのある「恋愛×伝奇×ミステリ」小説となっている。これは評者の場合だが、随所に出現する怪異のイメージが湧きづらかったり、異例のストーリー展開に理解が追いつかなかったりした。そんな時は、本書と並行して漫画やアニメでイメージを補完することをおすすめしたい。

主人公は「一眼一足」

岩永琴子は十一歳の時、妖怪、あやかし、怪異、魔に二週間ばかりさらわれていたことがある。そのもの達は深い山の奥で「どうかわれらの『知恵の神』になってくださいまし」と岩永に願った。「知恵の神」とは、そのもの達に知恵と力を貸し、争いを鎮め、取りなしてくれる存在のこと。岩永は「はい、なりましょう」と答えた。

そのもの達は岩永を神にするため、岩永の右眼と左足を奪った。「一眼一足」の身体になったことについて、「これまで見えなかったものや知らなかったことに触れられる力を得たのだから、悪い交換ではない」と岩永は思っている。

一方の桜川九郎は十一歳の時、妖怪変化を二種類ばかりたらふく食べたことがある。予言の力と不死身の肉体を持たせるため、祖母が九郎に予言獣「くだん」と人魚の肉を食べさせたのだ。以来、九郎は重傷を負うたびに死んで、生き返り、未来決定能力を使う、ということを繰り返している。

「一眼一足」の「知恵の神」である岩永と、妖怪の肉を食べたことで特異な力を手にした九郎。二人は、巨大な鉄骨を手に街を徘徊するアイドルの都市伝説「鋼人七瀬」に立ち向かっていく。

「鋼人七瀬」の正体とは?

本書は「第一章 一眼一足」「第二章 鋼人のうわさ」「第三章 アイドルは鉄骨に死す」「第四章 想像力の怪物」「第五章 鋼人攻略戦準備」「第六章 虚構争奪」「第七章 秩序を守る者」からなる。

今年の初め、アイドル・七瀬かりんが真倉坂市で死んだ。当時19歳。ある黒い噂をきっかけに、その追及から逃れるため同市内に隠れていたが、ホテル近くの工事現場で無数の鉄骨の下敷きになった死体として発見された。

ところが、二ヶ月ほど前から彼女に関する噂がささやかれていた。七瀬かりんの亡霊が、アイドルだった頃の衣装を身につけ、自身を潰した鉄骨を片手に携えて、夜な夜な現れては人を襲うという。ちなみに、彼女の死体は鉄骨によって顔が無残に潰されていたからなのか、亡霊も顔がないという。どこかで亡霊は「鋼人七瀬」と名付けられ、ネットの世界に限って全国的な話題となり、「鋼人七瀬まとめサイト」なるものまでつくられていた。

未来決定能力と不死身の肉体を持つ九郎が戦えば、「鋼人七瀬」を倒せそうなものだが、九郎が触れても「鋼人七瀬」はまるで反応を示さなかった。では、一体どうしたら「鋼人七瀬」を退治できるのだろうか? そこで岩永は言う。

「鋼人七瀬は怪物です。それも現代に生きる人間の妄想と願望が作り上げた、『想像力の怪物』です」

物語を上書きするしかない

この辺りから、岩永のセリフをしっかり追っていかないと、この異例のストーリー展開に置いていかれそうになる。

「人の想像力によってその存在が常に妄想され、常に存在を望まれる限り、鋼人七瀬は不死身です」

「その根を絶つには『亡霊がいる』という物語に対し、『亡霊がいない』という物語を上書きするしかありません。その物語を鋼人七瀬の存在を信じ、願っていた人達が受け入れれば、鋼人七瀬の生命力は尽きて消滅するでしょう」

岩永は「鋼人七瀬は亡霊である」という現実よりも魅力的な「鋼人七瀬は虚構である」という物語をまとめサイトに書き込んでいく。評者は途中からなにが真実でなにが虚構なのかとあたふたしたが、岩永が考えた四つの虚構の解決を投下していく「第六章 虚構争奪」が本書のクライマックスだ。

「最初は何もありませんでした。ただの作り話でした。けれど名前と形を得た虚構は、何千、何万、何十万という人間の頭の中に根付き、回ることによって少しずつ血肉が与えられ、実体を得てしまうこともあるんです」

真実らしい嘘、嘘っぽい真実は現実にもある。著者が込めたメッセージはわからないが、ネットの世界で成長した「鋼人七瀬」は、ネットに蔓延る虚偽情報の象徴かもしれないと思った。

著者の城平京さんは、第8回鮎川哲也賞最終候補作『名探偵に薔薇を』(創元推理文庫)でデビュー。漫画原作者として『スパイラル ~推理の絆~』『絶園のテンペスト』『天賀井さんは案外ふつう』を「月刊少年ガンガン」にて連載。2012年『虚構推理 鋼人七瀬』(講談社ノベルス)で第12回本格ミステリ大賞を受賞。

(BOOKウォッチ編集部 Yukako)

  • 書名:虚構推理
  • 監修・編集・著者名: 城平 京 著
  • 出版社名: 株式会社講談社
  • 出版年月日: 2019年1月21日
  • 定価: 本体720円+税
  • 判型・ページ数: 文庫判・381ページ
  • ISBN: 9784065145302

(BOOKウォッチ編集部)

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